10代目ドクターオーディオドラマDead Airネタバレ紹介

適宜改行を混ぜています.途中で「面白いな」と思ったら,ぜひオーディオを購入して,楽しんで欲しい.オチまでネタバレされても面白さが低減しないタイプの作品ですが,初回の驚きは取っておきたいでしょ.

舞台となるのは60年代イギリス.沖に船を出し,本土へ向けて未許可で垂れ流す「違法ラジオ放送」全盛期.

メイン敵はハッシュ.姿を持たないが,あらゆる「音」を捕捉して宇宙を移動し,破壊の限りを尽くす超兵器.今作はこの兵器のうち,自我に目覚めたことで 狡猾に立ち回る個体が登場.

10代目はハッシュを追跡して,一隻のラジオ船にたどり着く.乗組員兼DJたちと親交を深めつつ,ハッシュを追い詰めていく.
洋上の密室空間で繰り広げられるドクターとハッシュの化かし合いに乞うご期待.

この作品がひとつ抜きん出る理由の一つが,音声媒体だからこその演出.
一人芝居ゆえの演技分けと,「声を盗む」無形の悪がもたらす演出の妙,果ては最後のオチまで,すべてが音声作品でしか出来ないワザである.

そして全体的な脚本のメリハリが実にバランス良く,テレビエピソードに肉薄している.(勝手に音声版ブリンクだと思っている)
今作のオリジナリティを毀損せず,上質なサスペンスに仕上げてきた.

つーことでマジでお薦め.僕自身たくさんのオーディオドラマを聞いたわけではないけど,出来過ぎた入門編にぴったりだとおもう.

ここ以降,あらすじを全部ネタバレしてます.






以下,視聴者が聞く本編は,60年代の沈没船から引き上げた海賊放送,その残存音源の復元アーカイブである.
ドクターと名乗る男が吹き込んだ独白らしい.

「やあ、僕はドクター。コレを聴いてるということは、あんたか、僕か。どっちかが死ぬ。」


ときは1966年,沖に船を出しては違法ラジオ番組を放送するという,「海賊放送」の流行末期.
彼はそんな沖に浮かぶ一艘,ラジオブラボー号に降り立つ.ハッシュなる音波兵器を追跡して辿り着いたのだ.
ハッシュはそれ自身が騒音であり,実体を持たない.行く先のあらゆる音を食らうように設計されている.タイムウォーの最中,タイムロードたちが作り上げた兵器だった.けたたましい声を上げて動く敵性生物,とくにダーレクを迅速に捕捉し,壊し,静寂をもたらす.
今回ドクターが追う個体は,本来の標的を外してはぐれてしまったものだ.宇宙を股にかけて,無差別に消音し,被害を広げていた.ハッシュの行き先に運悪く居合わせたのが,この海賊船だ.
ハッシュの到達を知ったドクターが電波送信機能,つまりトランスミッターを故障させ,ようやくハッシュを閉じ込めた.

乗船して,まずはレイラという女性に遭遇した.ボーイッシュなショートカットのブロンドがよく似合う,美しい人だ.この放送局のMCの一人だという.
続いて同じくラジオMCで,口の達者なトークが魅力のジャスパー,低音ボイスが渋くて人気のトモと出会う.男性二人は事態の深刻さをまともに取り合わず,協力してくれそうにもなかった.
レイラと二人でハッシュ捜索のために,船内を巡る.手がかりは「まったくの無音」の空間だ.ハッシュが通った跡には一切の音が残らない.

日も沈みかけてきた.洋上の夜は,身震いする寒さだ.ハッシュも近い.発したはずの声が音にならないかと思えば,自分の鼓動すら聞こえないほどの静寂を感じる.
すると突然,耐え難い騒音が鳴り響き,鼓膜が破れると錯覚するほどのパニック状態に陥る.
収まって振り返ってみれば,ジャスパーの自室から彼の悲鳴が聞こえる.その悲痛な叫びすら,不自然にブツッとかき消えた.

急いで二人はジャスパーの部屋に駆け込む.相変わらずジャスパーの声は聞こえるが,姿が見えない.「助けてくれ」と,ジャスパーの「声」が乞う.


レコードだ.レコードが喋っている.針を除けると,声も止まる.
ドクターは「アナログ録音の時代で良かった.可逆圧縮だ.」と実体の再現を模索する.なんとかジャスパーの音声信号を増幅すれば,あるいは.

"ジャスパーの声"が提案する.
「だったら船のトランスミッターを直せばいいだろ?」
そうだ,トランスミッターで信号を増幅すればいい.名案だ!
と,ドクターの手が止まる.

本当にこの"声"はジャスパーか??トランスミッターを直して,一番得をするのは誰だ?

ハッシュだ.ハッシュがジャスパーの声を騙っている.レコードのラベルを見て,ドクターは確信した.確信してしまった.

"番組用ジングル"

「やぁ,ジャスパー・エバンズだ.楽しんで貰ってるかな? CMに入るが,チャンネルはそのままでよろしく!」

「たすけて…」

しばらくして,レコードの最後に到達し,声も止まった.

探索を続けるうちに,ハッシュにソニックスクリュードライバーのソニック機能も,発光機構も食われた.完全に日は沈み,辺りは真っ暗だ.
ハッシュはドクターたちをどうしても暗闇に置きたいらしい.
ハッシュが明かりを嫌うなら,発電機を起動させよう.
レイラの案内を聴きながら,真っ暗闇の中をたどって発電機を探す.そこら中に体の節々をぶつけて痛い思いをしながら,慎重に進んで行く.
話を途切れさせないように,他愛のない話題を続ける.一瞬だけ,「まったくの無音」を通過した.苦心しながら,進んでいく.疲れたのか,どうも気のない返事をするレイラが言うには,そろそろ発電機のある部屋だという.

まて,何かがおかしい.


さっきまでどこかにぶつかる度に,大騒ぎをしていた「レイラ」が,いつのまにか,どこにもぶつからなくなった.


「そうか,さっきの「まったくの無音」ではぐれたのか.レイラの声を盗んだんだな.ここはなんだ?袋小路か?僕も絶体絶命ってわけか.」


ようやく返事が返ってくる.ハッシュは今度はドクター自身の声を使ってきた.
「そうだよ.でも,お前はもうドクターじゃない.僕が変わってやるよ」


レイラはドクターとはぐれてしまった.心細さから,初めにトモに呼びかけ,次にドクターの名を呼ぶ.
ドクターが遠くで返事をする.暗いところで行き詰まり,出られない.助けてくれ.と恥ずかしそうに言った.

レイラは先にトモと合流できた.ドクターは第二スタジオに閉じ込められてしまったらしい.前々からドアの建て付けが悪い.
ドクターを助け出し,今後の計画を立てる.真っ暗の中,声だけの相談が続く.

「元はと言えば僕が壊したトランスミッターだが,うまく改造してやろう.罠に作り替えるんだよ.トランスミッターを使って奴が宇宙に飛び出たら,即座にバラバラに分解されて,跡形も残らないように細工するんだ」

半信半疑だったトモもようやく賛成し,作業に取りかかった.士気を高めるんだ,と「船を漕ごう」を3人で歌う.
手持ち無沙汰だったレイラがスタジオ内を探索し,ロウソクを見つけた.火を灯し,ドクターとトモ,二人の姿が見える.


…はずだった.そこにいるはずの,ドクターの姿が見えない.
「どこにいるの?」と聞いた途端,ドクターの声がレイラとトモを嘲笑う.ロウソクの火を吹き消して,ハッシュはその場を去っていった.

途方に暮れた二人は,ようやく事態の深刻さに震え上がった.レイラはドクターを探しに行く,とトモと別れ,船内の探索を再開した.
遠くからトントン…トントン…と何かをつつく音が聞こえる.
ドクターは防音仕様の収録室に駆け込み,ハッシュの攻撃を逃れたのだ.が,ドアが詰まり出られなくなってしまったという.
「得意気なバカ」と軽口を叩くレイラとようやく再会できたドクターは,ハッシュの真意を探る.


二人はトモと再び合流し,今度こそ対策を練る.
「夜が明けるまで,音楽を掛け続ける.明るくなったら,僕のタイムマシンで一緒に逃げよう」
つまり,籠城作戦だ.


深夜二時.レイラは疲れと眠気でウトウトしている.迫っていた嵐が到来し,船も大きく揺れる.ドクターはソニックスクリュードライバーを直そうと熱心にいじっていた.レイラが聞く.
「ドクターのタイムマシンってどんなの?」
「ポリスボックスの姿をしているんだ."ポリスボックス"でちゃんと通じる時代ってのも,なんともうれしいね」

深夜三時.レコードを交換しようと立ち上がり,作業していたトモが姿を消した.ハッシュに喰われたのだ.トモを騙る声がレイラの心をかき乱す.
やがて,トモの声も去っていった.

気丈にふるまうレイラを慰め,少し眠るよう促す.
「夜が明けたら,ドクターのターディスで外に出られるのね?」「そうとも」

「どうしてハッシュはあたしたち2人だけ生かしておくのかな」
そうつぶやきながら,レイラは微睡み始めた.

一人になったドクターはようやくハッシュの真意にたどり着く.
なぜ,ハッシュともあろう兵器が,こんなちっぽけな,エサも少ない船に逃げ込んだのか.
本当に逃げていたのか?ドクターの追跡を察知して待ち構えていたのでは??
それに,僕は一度も"ターディス"とは言ってない.

トランスミッターは目眩ましだったんだ.
ハッシュは最初からターディスでの脱出を狙っていた.ドクターの意識をそらし,レイラを信用させ…

ドクターはレイラを連れ出す.ハッシュが体内に潜む,レイラを.
レイラは最初から,ハッシュに"感染"していた.そういうことなのだろう.

目覚めた"レイラ"が口を開く.「じゃあ,いこうか.」
「レイラの声を使うな」激高するドクターが凄む.

「じゃあお前の声ならどうだ?」
ドクターは,"自身の声"と対話する.

「別にお前を殺して,ターディスにお前だって信じ込ませたっていいんだ.レイラの体でついていって,離陸してから殺す方が,楽なだけ」
勝ち誇るハッシュ.

「そうかい.それで?僕がこの一時間,ただのテープ相手に独り言を吹き込んでいたと,本気で思ってるのか?」
ドクターも奥の手を隠していたのだ.

「違うね.ソニックを直した.ハッシュ,お前の周波数はソニックが突き止めた.いいか,お前をこのテープに閉じ込めてやったんだよ.おあいにく様だな.」


「逃げ出してやる.いつかこのテープを見つけた人間が,最後まで再生する.そうなれば,自由の身だ.待っていろ,ドクター.必ずお前を…」

「そんなバカな話があるか.まかり間違ってテープを再生するやつがいても,警告を残してある.最後まで流すやつなんかいないよ.じゃあな.」


ここでテープは終わる.

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