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先住民族としてのパレスチナ人について

 これも読書会での話。イスラエルが入植型植民地主義の国家であることからすれば、その犠牲者であるパレスチナ人は先住民族と呼んでもよい、という話をしたところ、ある方が、パレスチナの土地にはアラブ人が定着する以前にユダヤ人が住んでいたということから考えれば、パレスチナ人に対してはユダヤ人が先住民族ということになるのではないかという趣旨の話をされた。そのとき、私は適切な応答ができなかったのだが、改めて考えれば、「先住民族」とは文字通り「先に住んでいた民族」という意味ではない。もしそういう意味での「先住民族」に特別な権利が認められるとすれば、世界中が大混乱に陥ることは必至である。満族(満州族)が中国全土の支配権を主張したり、モンゴル人がそれよりはるかに広い地域の支配権を主張したり、イラン人(ペルシャ民族)がパレスチナはおろかトルコやエジプトまでの支配権を主張したりしたらどうなるのか。2014年にクリミアがロシアに編入されたことに世界の多くの人が憤慨したが、ロシアどころか、トルコ人やモンゴル人やギリシャ人やイラン人までがクリミアに対する支配権を主張したら一体どうなるのか。あまりにも馬鹿馬鹿しくて考える気にすらならないだろう。「先に住んでいた」というだけで、その土地に対する支配権が発生したりしないことは明らかである。
 
 では、「先住民族」とは一体何なのか。国際的に合意された単一の定義が存在するわけではないが、2007年に国連総会で圧倒的多数の賛成を得て成立した「先住民族の権利に関する国連宣言」はこの点で参照すべき重要な文書と言えるだろう。同宣言では、先住民族を「植民地化と、彼らの土地・領域および資源の剥奪の結果、歴史的不正によって苦しんでいる」民族だと述べている。このような観点に立てば、パレスチナ人は間違いなく「先住民族」であると言えるだろう。そして、国連宣言によれば、先住民族は国際法上認められた「すべての人権と基本的自由の享有に対する権利」を有し(第1条)、「いかなる種類の差別からも…自由である権利」を有する(第2条)だけでなく、以下のような重要な権利を有している。とりわけパレスチナ人に関係の深いいくつかの条文を列挙する。
 
 第3条 先住民族は、自決の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、自らの政治的地位を自由に決定し、並びにその経済的・社会的および文化的発展を自由に追求する。
 
 第5条 先住民族は国家の政治的・経済的・社会的および文化的生活に、もしそう望むなら、完全に参加する権利を保持する一方、自らの独自の政治的・法的・経済的・社会的および文化的制度を維持し、かつ強化する権利を有する。
 
 第7条2項 先住民族は、独自の民族として自由、平和および安全のうちに生活する集団的権利を有し、…ジェノサイド行為または他のあらゆる暴力行為にさらされてはならない。
 
 第10条 先住民族は、自らの土地または領域から強制的に移動させられない。関係する先住民の自由で事前の同意に基づく合意なしに、また正当で公正な補償に関する合意、そして可能な限り、帰還の選択肢のある合意の後でなければ、いかなる移動も行ってはならない。
 
 第20条 先住民族は、彼らの政治的・経済的および社会的制度または機関を維持し、かつ発展させる権利、生存および発展の独自の手段の教授が確保される権利…を有する。
 
 第26条 先住民族は、彼らが伝統的に所有・占有またはその他の方法で使用し、もしくは取得してきた土地や領域、資源に対する権利を有する。
 
 第28条 先住民族は、彼らが伝統的に所有または占有もしくは使用してきた土地・領域および資源であって、彼らの自由で事前の情報に基づいた合意なくして没収・収奪・占有・使用され、または損害を与えられたものに対して、原状回復を含む手段により、またはそれが可能でなければ、正当・公正かつ衡平な補償の手段により救済を受ける権利を有する。
 2 補償は、質・規模および法的地位において同等の土地・領域および資源、または金銭的な賠償もしくはその他の適切な救済の形をとらなければならない。
 
 第36条 先住民族、とりわけ国境によって分断されている先住民族は、精神的・文化的・政治的・経済的・社会的な目的のための活動を含め、自民族のみならず多民族の構成員とも接触・関係・協力を維持し発展させる権利を有する。

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