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ガザをめぐり対照的な南アとドイツ

 今も毎日100名以上が殺され続け、死者総数は2万6000名(そのほとんどが女性と子供)を超え(これ以外に行方不明者が数千名いる)、国連職員が「この世の地獄」と表現するガザ。それなのに、早くもマスメディアの関心が低下し始めていた1月26日、国際司法裁判所(ICJ)はイスラエルに対し、ガザ地区に対するジェノサイド(集団虐殺)を防ぐあらゆる措置をとるよう求める仮保全措置命令を出した。これは、イスラエルがガザ地区でジェノサイドを行っているとして南アフリカが提訴したもので、南ア政府は判決が出るまでの間、イスラエルに軍事行動を即時停止させるよう、ICJに求めていたが、ICJは即時停戦には踏み込まなかった。ICJの仮保全措置命令には法的効力はあるものの、イスラエルに命令を実行させる強制力は、残念ながら、ない。正式な判決が出るまでにはなお数年かかると見られている。
 
 今日(1月27日)の東京新聞『本音のコラム』は、この判決が出る前に書かれたもののようであるが、著者の師岡カリーマは、「民間人の殺戮を批判する国はあってもリップサービスの域を出ない中、南アの行動と説得力ある弁論は喝采を浴びた」と称賛する一方、南アとは対照的に、「著しく株を下げたのがドイツのようだ」と指摘している。「ユダヤ人の大量虐殺を犯した過去の反省を証明し続けるためにはイスラエルを批判できないというだけならまだしも、第三国として裁判に介入し、イスラエルを弁護する」ドイツ政府の姿勢は「目を覆いたくなる」というのである。
 
 イスラエル/パレスチナ問題をめぐる南アとドイツの対照的な姿勢は、今回が初めてではない。岡真理『ガザとは何か』によると、2012年にアフリカ民族会議(ANC、南アの与党)が開催した、イスラエルに対するBDS(ボイコット、投資引き上げ、経済制裁)支援の国際会議の席上、ドイツ代表が「イスラエルを南アフリカのアパルトヘイトになぞらえることはできない」と意義を唱えたところ、バレカ・ムベテANC議長は言下に反論し、「私はパレスチナに行ったことがあるが、イスラエルがやっていることは南アのアパルトヘイトに比較できるだけでなく、それよりはるかにひどいものだ」と語ったという。また、同じ岡の『ガザに地下鉄が走る日』には、イスラエル占領下のパレスチナを訪れた南アフリカのもと活動家たちが、アパルトヘイトの暴力が頂点に達していたときでさえ、パレスチナにおけるイスラエルの占領ほど過酷ではなかったと異口同音に語り、「日曜日のピクニックのようなものだ」と評した者さえいた、という話が紹介されている。
 
 南ア政府はアパルトヘイト廃止後、初の全人種参加の普通選挙で大統領に当選したネルソン・マンデラ以来、一貫してパレスチナの自決を支持している。そこには同じくアパルトヘイトという人種差別による被害に苦しんでいるパレスチナ人民に対する共感と連帯感があるのだろう。対するドイツは、ナチス・ドイツによるホロコーストを反省したのは良かったのだが、それが盲目的なイスラエル擁護につながってしまい、結果的にイスラエルによる「ホロコースト」を支持するという自己矛盾にまで陥っている。
 
 なぜそうなってしまったのか。その原因の一端については、後日改めて考察したい。

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