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歴史修正主義の30年①はじめに

 近年、世界的に台頭が著しい「極右」(far-right)もしくは「急進右翼」(radical right)の特徴は、「国粋主義」(jingoism)、「排外主義」(exclusivism)、「歴史修正主義」(historical revisionism)の3つである。これら3つのイデオロギーは相互に密接に関連している。国粋主義と排外主義は、ゼロサム・ゲームのような世界観の中で自国と他国の優劣関係を考える以上、自国の優越性を鼓吹することによって他国を見下し、他国を貶めることによって自国を浮かび上がらせようとする心理的機制に基づくものである。一方、歴史修正主義は、これら両者と結びつきつつ、両者のイデオロギーを下支えするものである。歴史修正主義者は、自国の歴史を過去から現在まで一体として捉え、過去の不正な歴史の事実を認めることは現在の自国の価値を貶めることになると考え、これを断固拒否するため、こうした過去の不正で不都合な歴史は隠蔽・歪曲・消去・相対化等の対象となる。「南京大虐殺はなかった」という端的な否認、「従軍慰安婦は売春婦だった」、「慰安婦は民間業者が勝手に連れ歩いていた」、「“大東亜戦争”はアジア解放のための戦争だった」などという歪曲、「植民地支配をやったのは日本だけではない」という相対化、「日本は植民地支配でむしろいいことをやった」という美化など、様々なヴァージョンがある。自国の歴史の美化・正当化はしばしば同時に、他国の歴史に対する侮蔑と結びつく。「朝鮮半島は日本が植民地にしなければロシアの植民地になっていた」(だから朝鮮民族は自国の独立を維持できない民族だ)といった見方もその一つである。いずれにせよ、歴史修正主義は国粋主義と排外主義を支えることによって、極右思想の土台となっている。

 そのような意味で、第1次(2006年9月~2007年9月)および第2~第4次安倍政権(2012年12月~2020年9月)は戦後において最も極右的な政権であっただけでなく、このような政権が歴代最長となる長期政権を維持したことにより、日本社会に歴史修正主義と排外主義を蔓延させる結果となった。一方で、安倍政権がアメリカの求める安保法制の強行成立へと邁進したように対米従属を一層深めたことはよく知られているが、対米従属を深めれば深めるほど、(意識的な否かはともかく)その屈辱感の心理的代償行為として、アジア諸国に対する排外主義と「日本ボメ」の国粋主義・歴史修正主義をますます強めるという負のスパイラルに陥ったのである。なぜこうしたことが起きたのか。本章では、歴史修正主義に焦点を当てつつ、その経緯を簡単に振り返ってみたい。

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