ふいに思い出す、あの綺麗なホクロが、「来なくいていい」と微笑むから

最近、不意に全てが嫌になったとき、引き止めてくれる存在ができました。

誰もが知っている、美しい人です。

何もかもが嫌になって、自分すらも嫌いになり、もう全部投げ出そう、この世にさよならしてしまおう、と考えた時、ふっとその顔が浮かびます。

特別なつながりなどなく、大した関心もありませんでした。

ふと目に入れば、綺麗なもんだな、と思う程度の人。

ところが、今になって身近に感じ、同時に強く引き止めてくれる存在になっています。

目を閉じて、うなだれるままに「来なくていい」と語りかけてくれるのです。

だから私は、「きみが言うなら仕方がない」と、目を開けることができるのです。


世は、著名な人、人気者が去ると、後を追う人が出てくる、といいます。

特にこんな辛くて不安定なご時世なので、実際似たようなことは起こっています。

もしかしたら、私も危ういのかしら? 

なんて思ったこともありましたが、全くそんなことはありませんでした。

「来なくていい」

と、微笑む顔が浮かぶからです。

もちろん、実際そんな善人だったかどうかなんて知りません。

強いて言うなら、生きる力だとか、生きる望みだとかが、皮肉にも、もう去ってしまった人の姿を得て、強く形作られるようになったのです。

去ってなお、存在を大きく残す、まるで精霊かなにかのように、そこにいます。


もし、もっと近くにいたのなら。

もっと思っていたのなら。

いったい、どれだけの存在を私の中に残したのだろう、と思うほどです。


だからこそ、口惜しいのです。

どうして去ってしまったのかと。

今はただ、せめて去ってしまったその先に、楽園があったろうと信じるしかありません。

幸福を祈るしかありません。


「来なくていい」

微笑む顔が、幾度も私を引き止めました。

だから、後を追うことはせず、ただうなずいて、目を開けていることにしたのです。

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