2019読んだやつ等 感想


去年読んで面白かった本の、どこが面白かったのか、全作品分の簡単な感想と販売サイトへのリンク!

本はジャケ買いが多いのでリンクのサムネイルもなるたけ表紙が見えるようにしてみましたが、めんどくさくて諦めたものもあります…

書いている最中に年を越してしまったので、「今年」を「昨年」に書き直す手間が生まれて大変だった。

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部屋の片付けのときに並べたやつ。悪口は書きたくないので省くけれど、このほか、昨年はあんまり面白くないものも30冊ほど読んでいる。昨年は洗濯機が壊れて、夜中にコインランドリーで仕事の連絡と洗濯をずっと待っている時間がめちゃめちゃあったので読書が捗りました。皆も洗濯機を壊すと良いと思います!

エンタメ小説だとSF、ミステリ、ファンタジーが多く、ノンフィクションだと専門家の生業や思想を追うもの、通史的な文明・技術批評が多かった。あとは図鑑。古典や詩歌は少なめ。見返してみると、マイブームが分かりやすく「エキセントリックな設定の物語」「多様性のなかでの個別のコード」「専門家の解説する特定事象の歴史と、社会」の3つばかり読んでいた。例外が少ないので、本屋さんに通って本を選ぶ時間が少ない年だったのではないかと思う。

以下、感想!

集合写真の左上から順番に…!


『マラルメ詩集』 

語彙と自分の中の中学生を拡張したくて購入。自分より巨大なものに立ち向かう読書は疲れるんだけど、これは文語と口語が交じっていて、注が篤いので気合いでいけました。内容は難しいんですけどカッコよくて音も気持ちよく、ビジュアルイメージはバシバシ浮かびます。「第三部 半獣神変容 エロディアード詩群」なんてタイトルだけでご飯3杯食べられるし、未完なんですよ。凄くないですか?実家の机に1冊はある中2の頃のノートのやつじゃん。松岡和子のシェイクスピアにハマっていた時期があり、それ同様、やはり劇作家の翻訳は音韻へ向ける解像度が高くて気持ちいいなとも思った。フランス語ができるともっと面白いんだろうな…。


『古代国語の音韻に就いて』

昔の日本語の読み方をどうやって明らかにするのか?ということを実際の例に習って読み解いていく過程を綴ったもの。言葉とは音であり文字はそれの仮住まいであること(「てふてふ」が「ちょうちょう」になったように音と字は対応のルールが変わっていく)、地域や時代で言語には音韻的な解像度の差違がある(日本人にはrとl、sとthの区別が困難なように、国語にも拗音や半濁音の区別がない時代がある)など、言語の基礎も分かりやすく踏まえつつ、音声資料が存在しない昔の日本語の「読み」を科学的に推量していく。その様子はミステリとしての趣もありつつ、歴史のロマンを感じる営みで読み応え抜群だった。


『ガリア戦記』

スーパー面白かったです。古代の知性の輝き。人間は自分の信じたいモノを信じてしまう、という視点を持ちつつ詳述される、組織・国家・人の営みは示唆に富み、詳細なデータとともに戦争の様子を記録していながら、戦記としての熱量もほとばしっている。カエサルって凄い人だったんですね。現代的な視点で見ると、優れた暴力と優れた知性はやはり同時に存在してしまうのか、という悲しさも感じる。


『メノン』

屁理屈オタクがうだうだ言いながら考えを深めていく過程が大好物。なぜなら自分もそうだから。「徳」とは何か?を対話によって考えていくソクラテスの掌編。徳とは在り方か?知性か?果たしてそれは人に教えうるのか?様々な例を引きつつ、仮定を吟味していく様子を追う一冊。現代人である自分としては「女の徳は主人に佳く仕えることでは?」という仮定が出てきたときに手に汗を握った。ヤバイオタクジジイの差別思想なのか、不朽の知性なのか、キミの目で議論の行方を確かめて欲しい!「パイドロス」と「饗宴」も短いし脳が揺さぶられるのでオススメ。

なんでこんな書影の画像暗いんだ…

『謎の毒親』

親との関係性という檻に閉じ込められた辛い体験談を綴っていくオムニバス。「謎の」という突き放し、しかし理解したい、しなければおかしいのでは、というタイトルの雰囲気に惹かれて購入した。人間の心理は容易に理解できるものではないという誠実さを感じるし、厳しく苦しい体験が語られ続けるが、読後もやはりそのスタンスが貫かれていたことが快く感じられた。


『「空気」の研究』

日本を顧みる上で頻出する本書。初読でした。共同体が共有する同調圧力や意思決定の際の不文律、いわゆる「空気」について、それは「常識」や「ルール」とはどう異なるのか、私たちは「空気」とどのように付き合っていけば良いのか。日本が良い、悪い、という二元論ではなく、これから社会や集団はどのようになっていけば良いのかを考えていくうえで参考になるところもあるように感じた。


『竜のグリオールに絵を描いた男』

外国小説なのですが、かつて強大な魔法使いとの戦いに敗れ動けなくなった巨大な竜、その体表には川が流れ木々が生え村ができ、体内には四季があるという壮大な設定。本作はそこに捕らわれ住まう人々のオムニバス短編集であり、表題作は竜を殺そうとする男の話なんです、わくわくしませんか。装丁も美しくてカッコよく、世界の存在感を増させている。短編それぞれも読み味が異なって面白かったです。


『消滅 VANISHING POINT』

恩田陸の、台風災害✕クローズドサークルサスペンス。しかもSF。企画勝ちというか、群像の解像度が高い作家に、時代性とエンタメ性の高いテーマを提供できた時点で面白いこと必定の本作。ミステリとしてはそんなに新しい要素はなかったけれど、人々の描き方が絶品過ぎてページをめくる手が止まらなかった。


『パラドックス・メン』

超次元SF、エキセントリックでケレン味にあふれた、とんでもない人物と設定の奔流。瞬間瞬間の面白さはとてつもないのだけれど、ひとつの物語として人に紹介するのはけっこう難しい。ボヘミアンラプソディのMVみたいな小説。


『折りたたみ北京』

中国のSFがさいきん凄い!(たぶん最近になって紹介され始めただけで昔から凄い!)リアルディストピアを突き進む現実社会のカウンターなのか?(そうなのか?)漢字の固有名詞、かっこいいです!後述する「三体」へと繋がる短編も収録された今の中華のオムニバス。壮大な世界設定と人間の個別の事象への接続に作家の技が光ります。ひりつくような緊張感ある世界が読者を殴る!


『七つの魔剣が支配する』

「このライトノベルがすごい!2020」のチャンピオン。ななつま。積ん読してたのですが、受賞が報じられた瞬間に読みました。さいきん短いタイトルのラノベがたくさん出てきて嬉しいです。こっちのほうがカッコいいよね。魔法、剣、学園、闘争、選ばれし生徒…、超王道のみんなが大好きな要素をしっかりまとめつつ新鮮な書き方をしていて、主人公もヒロインもかっこいいので気持ちが良いです。すぐアニメになるんだろうな。


『伊豆の踊り子・温泉宿』

若い頃の川端康成の短編を数本収録。岩波版は文語の味が濃くて良いですね。踊り子以外読んだことなかった。みんな言ってると思うのですが、未読の方に説明しておくと、伊豆の踊り子は旅を回想した青春ものだと思うのですが、派手さのない、しみじみと感じられる恋でして、これがかなり良いんです。めちゃくちゃ恋なんですが大恋愛ではないんです。「この世界の片隅に」の恋愛描写を見たときに、伊豆の踊り子みたいだなと思ったことを思い出しました。当たり前の風景をどれだけ美しく(華美にではなく)描けるかというところに本作が芸術の大傑作である所以があると思います。


『数学する人生』

岡潔の著者紹介に「日本数学史上最大の数学者。」と断言されていてカッコよすぎる。数学という言語を介して、哲学と思想を語っている文章の選集です。数学者でありながら芭蕉や漱石を引き合いに出しているところが面白い。世界をどのようなチャンネルで切り取るのかというところの違いだけで、人間や社会に対する思想家はみんな連なっているんでしょうね。僕が言語偏重の人間なので、数理から言葉と心に向き合っている哲人の話は面白かったです。


『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』

中学生がみんな読んでるって聞いてビビった。アニメは見てたんですけど原作も購入。ラノベやビジュアルゲームのあのオタク~!な語り口が今の中高生には全然気にならないらしい。デジタルネイティブはキモい文体に早くから触れすぎているのか…?本作はけっこう爽やかな青春モノの側面もあるのでそんなにカロリーは高くないですが…。


『大聖堂・製鉄・水車』

ジャレド・ダイヤモンドの著作と楽しみ方はおんなじです。中世のテクノロジー革命とその衰退について。宗教と社会情勢がどのように技術や職人を育て、また殺したのか。大変読み応えがありました。

『総理にされた男』

エンタメとしてはベタベタな「王様と召し使い」だし「街」だし「ザ・マジックアワー」ですが、総理大臣というモチーフを今、やっているところが面白かったですね。政治をエンタメに落とし込むには、ちょうど良い解像度で描く必要があると思うのですが、そこが上手くて楽しく面白く読めました。売れる作家は引き出しが豊富で多作で凄い。


『この世にたやすい仕事はない』

その通りだよな。超ニッチな職業を扱ったお仕事小説。働くことの大変さや尊さを共感ベースで描く作品の、ある種のハイエンドでは。個人的には、仕事ってつまんなかったり意味がなかったりするものもたくさんあると思うのですが、人間は尊いので、職業(従事者)に貴賤はない、と感じます。本書に登場するような、しょうもないけど美しい仕事というのが存在するのはそういうことなのではないかな。


『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』

グルメありバイオレンスあり、当代無敵の和風闇鍋ウェスタンの関連本。週刊連載であれだけ詳しくアイヌの文化と北海道の郷土史にあたりつつ、堅実な監修までついているなんて恐ろしい話だ…。この本の成立過程にも興味が尽きない。「ゴールデンカムイ」で読み解くアイヌ文化、ではないので、かなりライトな読み味ではあるが、神話や言葉などアイヌの思想について掘り下げられていて入り口としてはかなり面白いはず。昔、シャーマンキングのホロホロの台詞からアイヌ語を勉強する、みたいなmixiのコミュあったな…。カウカウプリウェンペ…。


『昭和少女探偵團』

ミステリとしては少しパワー不足ですが、少女たちの友情と事件、魅力的なモチーフを楽しめるキャラクター小説でした。「大正」や「明治」じゃなくて「昭和」なところに恐ろしい時代の流れを感じます。「立てば芍薬、座れば牡丹、謎解く姿は少女名探偵!」って何一つ上手くかかっていないぞ。


『札幌市白石区みなすけ荘の事件簿 ココロアラウンド』

アニメになりそう。ミステリなのかと思ったらコメディの色合いがとても強かった。超能力犯罪に立ち向かう、不死身の主人公と仲間たちの人間模様。古きよきラノベ感と今っぽい絵、万人受けする心地よいコミュニティもの。かなりキャッチーだった。


『少年の名はジルベール』

うおおおん顔が良い少年んん!!竹宮惠子の自伝的エッセイ。少女漫画の歴史的文脈も面白いし、「風と木の詩」が生まれたときの話も面白い。また、若手作家に向けた言葉にも静かな熱がこもっていて最高。


『売れる作家の全技術』

こんなに教えてもらって良いんですか!?という本。新宿鮫シリーズなどで知られるハードボイルド作家・大沢在昌の仕事の哲学。作家というプロフェッションをどう捉えているのか、出版社との取引における気構えとは、作家志望者以外にも深く刺さる、簡潔で力強い仕事論です。


『ロケット・ササキ』

「ジョブズが憧れた日本人技術者がいた!」は流石に大嘘だと思うが、痛快な技術立国建国譚だ。シリコンバレーと競った電卓戦争の話は、学びと熱量が凄まじく、英雄叙事詩としてかなり面白い。同様のテーマ・分野で、今、日本の技術や会社組織はどうなってしまっているのか、というところまで踏み込んだ考察がもっと読みたいと思った。


『三日月邸花図鑑 花の城のアリス』

絵が可愛かったので購入。人と事がすごい入り組んでいて、煩雑なところもあったのですが、大きな絵としては見応えもあり、細くてロマンチックな作品でした。美しいモチーフは万人を引き込むのですが、物語に大きな盛り上がりがあるという訳ではないので、評価は分かれるかもしれない。


『僕らが愛した手塚治虫3』

手塚治虫を愛しすぎる作者による手塚治虫孝。第3巻。一度は人気が低迷した手塚が「ブラック・ジャック」と「三つ目がとおる」でカムバックを果たし、大人向けの作品もバンバン飛ばしていく上り坂の時代について詳細に研究している。「三つ目がとおる」のワトさんと写楽くんが大好きな僕には超読みごたえがあって良かったです。赤きコンドル!

てづかは「塚」で「塚」じゃないぞ!

『プリンセス刑事』

「最も尊い刑事」というキャッチコピーがすごく良い。シリーズ二作目では生前退位を題材にしていて、ライト文芸のスピード感に驚かされる。キャラクター小説としても分かりやすく、好感度のコントロールも抜群で読みやすい。同作者の「Mr.キュリー」シリーズは読んだこと無いけど読んでみようかな。


『開高健ベスト・エッセイ』

ノンフィクションの文学賞にも名前を残す、肉体派知識人のベストエッセイ集。ベトナム戦争の話が、迫力と考察との両方に富んでいて面白かったです。血の通った文章は血の通った行動から出てくるのでしょうか?旅がもたらすものについての言及も、くやしいけれどその通りなところがある。僕は長距離の移動はコスパが悪くて好きじゃないな…


『ロリータ』

みんなは小さい女の子のこと、好き?

ぼぼっぼ僕は実年齢以上の知性や能力を持っている若くて美しいキャラが好きなのでリゼルグ・ダイゼルやジーニアス・セイジや忍野忍やリシテア=フォン=コーデリアが大好きなのですがいや好きといっても半ズボンから膝などが出ていたときにあぁ寒くないのかなぁと心配する思いやりの好きですしそもそも彼らは同年代から見ると大人びた人物なのだからロリやショタではないんですね常識で考えて。それはそれとして、いわゆるファム・ファタールもの、堕落ものとして面白く読めました。これは訳者の腕でしょうが、言葉遣いも小気味が良くて楽しかったです。


『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』

偽科学憎し!だけで終わらず、理不尽な仕事とどう向き合うのか、なぜ人は不確かなものを信じてしまうのか、そういったところもエンタメに落とし込んでいた。


『月の満ち欠け』

転生、前世、生まれ変わり。80~90年代の「エマノン」シリーズや「ぼくたま」シリーズのような運命・前世記憶ブームの走りではないでしょうか。文脈込みだとかなり読みごたえがありますが、ひとつの物語としては黎明期の作品というところもあり、歯応えに欠けると感じる人もいるかもしれません。


『雪が白いとき、かつそのときに限り』

読み終わってから「元年春之祭」の作者だと気づいた。美しい学園ミステリです。情景をかなり細かく見せてくれるので、心理描写にも入っていきやすい。暗いですが、綺麗な話でした。女の子ばっかり出てくる。あと、日本人作家の小説だったら「戦場ヶ原ひたぎ」とか「千反田える」とか「瀬材丸紅子」とか言われても名前の嘘さ加減を楽しめますけど、中国系の名前は「顧千千(こ せんせん)」とか言われると、ど…どっちだ…!?ってなりますね。


『掃除婦のための手引き書』

めちゃくちゃ売れているらしいですね。訳も凄いし、短編一つ一つも面白い。誰にでも訪れうるような絶望を題材にして、僕たちの生活や世界を、まったく想像もしなかった日の当たるところまで導いてくれる叙述の巧みさ。もう亡くなっているのに再発見されてかなり売れている、というところが悲しいような嬉しいような…。多くの人に読まれるべき文章であることは間違いないです。表紙の女性は著者本人。アルコール中毒だったらしいです。カッコいい…。


『悲しい曲の何が悲しいのか』

美学という、美しさとは何かを考える学問のアプローチと、人間の心の研究で、音楽について迫る本。音楽って非言語的な芸術だし、音の連なりのいったい何が僕らに働きかけて喜怒哀楽を生んでいるのかよく分かっていなかったのですが、この本をみつけたときに「これこれ~!知りたい知りたい~!」ってなった。読み終えてもやはり分からない領域は多いですが、鑑賞の際の尺度はかなり手に入った。


『ルネと秘宝をめぐる旅』

脱出ゲームを手がけるSCRAPが出している、謎解きゲームブック。綴じ込みの付録カードも駆使して本の全機能をフルにつかって遊ぶ一冊。本の形をした一人用ボードゲームという感じかもしれない。体験として面白く、イノベーションを感じた。謎解きとストーリーは少し簡単だったけれど、対象年齢をたぶん低く作っている。付録系の展開は1人より多人数の方が楽しいだろうな。


『音楽の哲学入門』

上述の「悲しい曲の~…」と同じく慶応大学出版会から出ている本。音楽とはそもそも何か(音と音楽の違いは何か?)というところから、音楽と人の心の働きまで、具体的な音楽家やアーティストの作品を例示して考察していく。レッド・ツェッペリンで哲学をできる能力を教養と呼ぶんだろうな。


『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』

少年ジャンプから地下アイドルカルチャーまで、80年代から10年代半ばまでのサブカルの変遷、文脈を網羅的に扱いその思想史と社会との関わりを考察する。オタクの総本山、京都精華大学の講義録である。フィクションで描かれるものは実現しうる、という言及を深く深く掘り下げていく考え方が面白かった。人の想像しうるものは実現可能だもんな。本書にニコニコ動画とYouTubeとお笑いのカルチャーを加えたら2010年代の文脈がコンプリートされる気がする。


『自由思考』

「教団X」の中村文則の初エッセイ集。めちゃくちゃほの暗い小説を書く人が、世の中をどのように捉えているのか気になって気になって。田舎から出てきて作家になるまでの話がかなり面白かったです。現代の文物に関することは、文章もきれいですし読みやすいですが、クリティカルなところまでは踏み込んでいない印象。それでも種々の思考実験は楽しかった。


『クラシック音楽全史』

コンビニに売ってた。学生の頃、そんなにちゃんと勉強しなかったのでちゃんと読みました。音楽の学術的・技術的発展はもとより、社会・宗教との関わりのなかで音楽が地位を向上させていき、芸術としての権威をどのように維持していったか、踏み込みの浅い領域は多々見受けられるものの分かりやすく、面白く読めた。


『それ以上でも、それ以下でもない』

閉鎖空間である村での虐殺事件を題材にして、ミステリを展開するとともに、死体を隠匿した神父の心と祈りを描く。謎解きももちろん緊張感があって読ませるんですが、神父と罪についての描写が出色でした。


『未成年』

答えのない問いに圧倒される外国文学。宗教上の理由で輸血を拒む死に瀕した少年と、判断を下さねばならない裁判官の物語。人間の連なり、家族というものの中に深く関わってくる宗教と法律と命の倫理。読者を揺さぶろうという意欲に溢れ、それが上手く成立している作品でした。


『死にたい夜に限って』

文章のユーモアが人を救うことがある、というのを体現しているような本。インターネット的な脈絡のなさ、どうしようもない人間の自堕落やしょうもなさを丁寧に文字に落とし込んでいるという印象。けっこう過激なことも起こっているのですが優しいエッセイだと思いました。


『麦本三歩の好きなもの』

「君の膵臓を食べたい」の作者の新作。青春ものの爽やかな空気を描く筆力はそのままに、よりキャラクターに注力したものに取り組んでいて好感が持てた。物語としては弱いし、文体や言い回しの頑張りもはまるときとそうでないときのギャップはあるのだけれど、明確な主人公像を描き出していると感じた。人物としての好き嫌いはかなり分かれるだろうけど。


『世界樹の棺』

ポスト筒井康隆、筒井康隆のフォロワーとしてデビューした作者が、キャラクターと作品構造にこだわって作った新作。大きな設定をしっかり練ってまとめていて、楽しく読めた。人形か、人間か、というところで古典的なSFとしての奥深さもある。


『美しき免疫の力』

免疫細胞がネットワークを構築して擬似的なコミュニケーションをとって有害物質を攻撃している、という発見についての本。この有機的に優れた機能を「美しい」と形容するのが人間の強みだと思う。花粉症だけ、なんとかしてくれ~~


『ヴェールドマン仮説』

家族全員、僕以外は名探偵!という西尾維新の企画ものキャラクター小説。絵が良い。VR探偵の妹の活躍がもっと見たかった。中身は無い、と断言しても過言ではないほど通常運転の西尾維新でした。言葉遊びと大量の羅列。ミステリとしては弱いのですが、まだこんな引き出しがあるのか、という読み応えがありました。


『叡智の図書館と十の謎』

僕は全知全能になりたいので、本作のすべての智が収められた大図書館には心くすぐられるものがありました。十の謎を解くためのショートストーリーの連作になっていて、さまざまな楽しませ方をしてくれます。物語体験自体が好きという人におすすめかもしれない。


『有栖川有栖の密室大図鑑』

国内外の密室ミステリの名作を集めてきて、密室を図解、解説、語り尽くすという本。ミステリのお約束である十戒だとか、そういった作品論が好きな人は絶対に好きなはず。本格から飛び道具まで、作者のミステリ愛もものすごく感じられる。


『パプリカ』

foorinじゃなくて平沢進の白虎野にボーカルをつけてた方のパプリカの小説。アニメ映画の鮮烈な美術のインパクトが強いので、物語体験としてアレを越えれてはいない感じもするが、文字で読むと構造の把握がしやすく、原作だとこんな感じなの!?という種々の驚きもあり、より面白味の深いところもあった。以外とさくっと読める。


『マゾヒストたち』

変人偏屈列伝みたいな本。やばいエピソードだらけ。マゾヒストとサディストはどちらも他人へのサービスという点でかなり近く、両極ではないというのは本当だろうか…?少しわかる気もするが……


『迷宮』

怖い中村文則。事件の内容が見えてきてからはずっと「嫌だな~~」と思いながら読んでいた。暗黒に向き合っている作品なので、体調に気をつけて読んでほしいです。


『dele3』

シリーズ3作目、死者の残したデータから推理をする事件解決もの。新キャラが良い。安楽椅子探偵的だった展開にアクションの振り幅が追加されており、シリーズものの良い新要素を見た。データと肉体の話はどんどん現実味を帯びてきておりそこも面白かった。


『人間の顔は食べづらい』

確かにそんな気がする。どんな作品か伝わるし、かなり良いタイトルだ。猟奇殺人ミステリかと思って手に取ったら、クローン人間の食肉が当たり前の世界で、殺人事件が起きるという猟奇世界ミステリだった。エキセントリックな設定を飲み込んだあとにロジカルな推理が展開する。飛び道具×飛び道具で結末もけっこう飛躍があるけれど、作家の、やってやるぜ感が好きだった。


『二十世紀電氣目録』

楽しいし綺麗だし、早くアニメ化してほしいな。電気がやっと到来するという時代、旧来的な価値観から逃げるように主人公たちは走る!華やかな時代設定、魅力的な謎と恋。京都アニメーションの文学賞という位置付けで、京アニ作画で動く町並みが目に浮かぶようだった。


『眼球堂の殺人』

周木律の「堂」シリーズ初読。「屍人荘」より先に読むべきだったな…。理系×館ミステリの形式として、なるほど、これが先達だったのか、という発見ありつつ、キャラクターミステリとしても面白かった。理系ミステリによく出てくる、すごくアクティブな数学者って現実に存在するのかな…。みんなもっと大学で自分の研究に取り組んだ方がいいと思うけど…。


『とんでもなく役に立つ数学』

役に立つ、立たないという区別の仕方で学問を見ること自体が愚かしいし、数学が役に立たないと考えている人間もいるかのようなタイトルでまずビックリする。じゃあ何なら役に立つんだ、英語か…?お前が普段使っているスマホやパソコンは何で動いているんだ…?教養のない人間のもとには学問など存在しないし、教養のある人間にとっては全てが学問だということか…?それはともかく、身近なところに数学を応用できるぞ!と説くこと自体は意義深い。スペースデブリの話が面白かった。


『万葉集』

古い言葉って良いですよね。万葉集は古色蒼然としてないところが良いなと思います。色鮮やかで。国語便覧とか眺めながら読むと超楽しいと思う。


『日々是好日』

抹茶の表紙。お茶と人生のエッセイ。心根の美しさを修練する方法として丁寧に暮らし、美しいものに触れ続けることが大切だと思うのですが、著者の人生に沿いつつ、より良く暮らすための知恵が書かれる。映画も良かったですね。


『失われた過去と未来の犯罪』

人類が記憶を外部の装置に頼るようになってしまった!という設定から始まるミステリ。記憶と人体が切分可能になったとき、アイデンティティはどこに宿るのか?この種のSFはたまに見かけるけれど、それをミステリでやるとなると推理が本当に難しくなる。読み応えはたっぷり。


『儚い羊たちの祝宴』

米澤穂信がめちゃめちゃ好きです。いちばんえー!と思ったのは「さよなら妖精」。黒くて暗いミステリです。暗澹とした撰ばれしものたちだけの読書クラブにまつわる事件事件事件…雰囲気は「暗黒少女」の少女じゃない版。手堅いミドルヒッターです。


『時間と自由』

どっちも欲しい。ベルクソンの本書は、時間の定義から始まって、人間の行動と自由意思について論が展開する。単純に文章が面白いのと、原始的な認知とはかけ離れた哲学の思考・パースペクティブへの道行きが楽しかった。科学的・合理的な時間の解釈を否定する論理的展開がどんどんどんどん広がっていくのも面白い。もう2回くらい読まないと完全には理解できないけど…


『ぼぎわんが、来る』

めちゃめちゃ怖い。「残穢」は映像の方が怖かったけど、こっちは文章の方が怖い。未知のものへの想像をかき立てる筆力、何を描写し何を描写しないのかという判断が絶妙でとてもリッチな読書体験だった。


『犯罪小説集』

「怒り」の吉田修一の連作短編です。なんか怖くて暗いやつばっかり読んでる。人間の邪悪さの発露として、罪を犯すことがあると思うのですが、なぜそんなことを…?ということを考えることに犯罪をモチーフにする意義があるように感じました。現実の凶悪犯罪も、犯人は異常者、で終わらせてしまうのではなく、社会・共同体が産み落とした悪について考察し、次の悪を作らないための思考が必要なように、小説という実験空間のなかで存分に人間に眼差しを向けている、そんな印象でした。


『小説 空の青さを知る人よ』

映画が好きでした。賛否は分かれるだろうけれど、超平和バスターズはおんなじことをやってるようでやってないと考える派です。今作は嘘の振り切り方に人間の心への信頼が見えて、あっ「インターステラー」と同じじゃん、と思えて良かったです。あいみょんの主題歌の歌詞が凄い。あとヒロインのメディキュット。


『美少年探偵団』

江戸川乱歩の少年探偵団を、ぜんぶお金持ちの美少年キャラにしてキャラクター小説としてエキセントリックに設えた西尾維新のシリーズ1作目。パロディ、オマージュにあふれていて、キャラの造形も楽しく、馬鹿馬鹿しいんだけれど一気に読めた。


『まことの華姫』

表紙が可愛い。「しゃばけ」シリーズで存分に発揮されている、愛らしくて温かい人物描写が江戸の時代ミステリ人形劇でもがっちり決まっている。「人形草紙あやつり左近」を明るく賑やかにした趣。ふだんはパッとしない人形遣いが、姫様人形を通して事件を鋭く見通すという企画はとてもキャッチーでした。


『いまさら翼と言われても』

米澤穂信がめちゃめちゃ好きです。いちばんドキドキした作品は「リカーシブル」。古典部シリーズの最新作なのですが、合唱という題材なので「心が叫びたがってるんだ。」と比べながら読んでしまった。作者らしさ、ひねたダウナー系主人公らしさがとても良かったと思います。タイトルにもそういう視点が出ているし。


『眩』

葛飾北斎の娘の一代記。題材は渋いですが、美術の物語であり、恋や人間関係にまつわる人肌の温度の物語でもある。文筆家の仕事の半分以上は調査、観察、研究だといいますが、圧倒的な下調べをもとに書かれていることが分かるので描写の解像度と知識量は物凄い。原田マハさんは美術の専門家ですが、朝井まかてさんは広告の関連の人だったはず。興味関心、インプットが強い筆力を生んでいる好例のように思えました。タイトルも純文チックでカッコいい。光彩陸離って言いますもんね。


『不連続殺人事件』

超面白かったです。ミステリとしても、かなり大きな謎に挑まされますし、キャラクターもクセがとてつもない奴らばかりで読みごたえがある。まったく脈絡がないと感じられる殺人事件のミッシングリンクとは…?あと、当時雑誌連載の中で、犯人を当てられたら最終話の原稿料をくれてやる!という挑発を行っていたのも凄い。正解者は4人だったらしいです。


『秘密』

ドラマにもなったし映画にもなった作品。初読。「ダイイングアイ」を初めて読んだときに東野圭吾ってこういうのアリなんだ、と驚いたのを覚えています。今作はホラーやサスペンスではなく、愛を強調する舞台装置としてのフィクショナルな設定。主人公たちの決断に賛同できない部分もあったけれど、えぐるような熱い愛の話でとても良かったです。「容疑者Xの献身」とかもですが、東野作品は文字で想起させる感情のパワーの最大値がかなり大きいのが凄いですね。


『フロリクス8から来た友人』

設定盛りっ盛りの骨太SF。知能に優れた超人と超能力を持った異人、彼らに支配される旧人に分かれた未来の社会のディストピアものです。壮大であり、差別や分断を明確に描きながらも、根底に人間への温かさがあるのが印象的でした。宇宙人の描かれ方も既存の枠組みとは趣を異にしていて楽しいです。


『破滅の義眼と終末を望む乙女』

電撃文庫の得意技、超極端な異能力バトルです。能力を得る際に世界の終わりの光景を目にする、というところや全体を通じてかなり厳しい世界観が他のヒット作とは雰囲気が違っていて面白かったです。爽快感がないとなかなかセールスは厳しいかもしれないですが…。


『Fate/strange Fake』

偽典って言葉、超カッコいいですね。同人作品がその輝きの強さによって公式化したという変遷も凄い。偽物とはいったい何か、という問いも面白いです。本編を邪魔せずにカタルシスを生むのってかなり難しいのですが、スピンオフでここまで風呂敷を広げて大立回りが可能なFateの懐の深さも面白いと思いました。


『探偵AIのリアル・ディープラーニング』

構造も面白いし、キャラも楽しいし、VOFANの絵も可愛いし良かったです。西尾維新作品をかなり意識しているのか、AI探偵が自己紹介で、「はじめまして私はアイ。結婚相談所の相に、条件は年収1000万以上の以で相以(あい)です。」とか言ってて、くぅ~!こういうやつこういうやつ!と掴まれました。AIのホームズVSモリアーティという盛り上がりの作り方、坂道を上っていくテンションとケレン味で飽きさせてくれませんでした。


『パリ・ロンドン放浪記』

底辺という表現を良く使うけれど、底辺とは何か?パリとロンドンの貧しい人々を観察し克明に描いたルポルタージュ。何も持たない人々の手元には、生活には何があるのか。社会は彼らに何をできるのか、私たちは彼らとどう異なり、どう同じなのか。深く社会の底辺に踏み込みながらも、大きな視点、多角的な思考も換起させる力強い描写に一気に読まされてしまった。


『データ分析の力』

後述の「FACTFULNESS」よりももう少し踏み込んだ分析と予測の方法論についての本。具体的でためになる。ただ、世の中には成功したデータ分析よりも失敗したデータ分析の方が絶対に多いので、あくまで1メソッドであると思った。


『未来の年表』

このまま行くと、世界は、社会はこんな風になる!という本。面白い試みですし企画勝ちですが、オゾンホールの縮小が報告されているように、人間は意思の力で未来を変えられるのでこれから先が楽しみでもあります。技術の進歩の加速度もいまのところ人間の予想を裏切り続けていますからね。


『世界のタブー』

手の甲を相手に向ける、逆向きのVサインは英国では相手への侮辱になる。歴史として、英仏の戦争では捕らえた敵方の弓兵の人差し指と中指を2度と弓が引けぬように切り落としたことから、その2本指を相手に見せつけるジェスチャーには侮蔑的な意味合いがある。…というのは俗説で明確なエビデンスは存在しないのですが、英国に行ってたときに現地の先生がそういう風に言ってました。俺は5秒に1回はファックって言わないと死ぬとも言ってました。こういった各地のタブーを羅列した本。


『Keyの軌跡』

自分はリアルタイムの鍵っ子(ゲームレーベル「Key」のファン)ではないですが、Angel Beats履修にあたってリーフ、アリスソフト、ニトロプラスと合わせてけっこう勉強したので読み応えがありました。CLANNADは人生。昨年Fate/stay nightと同級生を経験したこともあって、この分野はもっと掘り下げたいです。内容は新書なのでそれほど深くないですが、各種メディアへの波及に言及していて大局が見やすく書かれているので入り口としては最適かもしれません。


『言い訳』

ナイツの塙(ケイダッシュのはなわの弟)のお笑いの方法論と鑑賞、M-1の歴史、文脈についての話。関東と関西、吉本と非吉本について、お笑いライターではなく本職の漫才師がどう分析しているのか、というところに独創性と面白味があった。「誰がやっても面白いネタというのがネタの究極形」と言いつつ「人物がにじみ出ている漫才は面白い」とも言っていて、これは矛盾のある言説ではなく、ネタが究極だとしても賞レースでは勝てない、個人の価値観による評価の集積の頂点であるところの芸術競技の難しさを端的に示しているように思えた。自分が大学でお笑いをやってた時も、自分が演者としての強みに乏しいこともあって属人的なコントや漫才はあんまり書かず、頭に矢が刺さってる漫才とか倍速で巻き戻したら全部繋がってるショートコントとか2016年に流行ったもの全部が登場して並べたらゴッホの絵になるとかそんなんばっか作っててずっと片手落ちの感があったけれど、あれはあれでアプローチとして間違ってなかったのかな、と思った。


『パールとスターシャ』

アウシュヴィッツでの優生学の恐ろしい実験、動物園と称された人を人と思わぬ所業。それが双子の子どもたちの口述で語られます。文章の美しさと描写の色合いの鮮やかさが印象的でした。かなり恐ろしいことを綺麗で無垢な言葉で描いているところにこの作品の力強さと残酷さがあるように感じました。


『まほり』

「図書館の魔女」の作者はでかい物語が好き。今作も執念すら感じる描写の細かさと雰囲気の作り込みが圧倒的です。民俗学ホラーミステリとして、膨大な量の資料や文献が登場し、情報のなかで溺れながら何か恐ろしいものの輪郭が少しずつ浮き上がってくる読書体験。「サイレン」とかクトゥルフ神話体系モノのような趣に、真摯で丁寧、偏執的とも言える作家性がのっかっている物語は没入感に富んでいて、恐怖と好奇心のせめぎあいのなかでページをめくり続けました。


『高校生と考える21世紀の論点』

超豪華なゲストスピーカーたちが高校生に専門分野の話をして、質疑応答に答える、その講義録。将棋のトッププロや建築家、料理人、歴史家など、文化人から研究者まで、バラエティに富んだ人選で彼らの専門分野と知性についてが語られる。なぜ勉強をしなければいけないのか、コミュニケーションとは何か、いま世界では何が起きているのか、こんな贅沢な教育を受けられる環境があるのか、という驚きも凄かった。


『世界のエリートが教養として身につける「哲学用語」事典』

そんなエリートはいねーよ、少なくとも国内で働いてて出会わねぇよ、と思いつつ読了。かなり浅く学問の全体を眺めているので、存在者とは、純粋時間とは、みたいな本格的な問いには答えられていないですが、問いを立てること、答えのないものに取り組むことが高次の知性の成さしめるところであるというのはその通りなので、知っておいて損はない情報ばっかりではあるし、各分野の関係性は分かりやすかったです。


『FACTFULNESS』

超分かりやすく、データサイエンスの力とその使い方を説明している。数字やエビデンスが大事なことは皆知っているが、どれだけ印象の影響力が強いのかは実は皆知らない。それを今から教えてあげますよ、という本。もしかしたら2018年に読んだかも。でも昨年も何度かパラッと見返してた。観察眼の解像度を高めるメソッドの本なので、新しい価値観が出てくるというのとは違うけれど、もはや読んでいないとダメな本ではあるかもしれない。


『バーチャルYouTuber名鑑2018』

バーチャルYouTuberをめちゃめちゃ見ています。元々は深夜の残業中に電脳少女シロちゃんの番組をずっと見ていたことがきっかけで、そこから大手のキャラとにじさんじの過激な人たちなど、たぶん40人くらいをゆるーく追いかけている。詩子お姉さんが好きです。この本は2018年の半ばに出ていて、現在の勢力図とはかけ離れてしまっているものの、その熱量とデータ量は恐ろしいものがあり、現況と見比べるだけでも面白い。


『会計の世界史』

超~~面白かったです。お金を数えるということは、リソースを管理し、未来の業務実行能力を担保することである、というパラダイムの変遷と人類が数学・会計によってどう発展したのかの歴史。普段まったく野放図にお金を使っているので、身につまされるところもあった。


『踊る星座』

装丁が綺麗、箔捺しだ…。芥川を獲ってからしばらくそんなにパッとしなかったイメージがあります。お仕事小説であり、エンタメ小説なのですが、もともと純粋文芸を書いていた作家さんなので、何か違うんですよね…。ユーモアや言葉選びに変なセンスがあって、一般的でない。好き嫌いは分かれるかもしれない。


『その先の道に消える』

昨年は中村文則をめちゃめちゃ読んでいる。緊縛師(すごいプロフェッションだ…)の死体と殺人事件にまつわる物語。人間の関係性が複雑に交わり、情動と意思を紡いでいく様子がページをめくりながら感じられ、没入感がたまらなかった。人間は意図せずとも「糸」の歌詞みたいに関係性に織り込まれてしまうところがある。


『間宵の母』

「葉桜の季節に~…」の歌野晶午のホラー作品。おどろおどろしく緊張感をもって繋がっていく事象がかなり読ませます。ラストは丁寧な着地を見せていて、カタルシスとは違うかもしれないですが、全体の構成のうまさ、緻密さは流石だと思いました。


『岩田さん』

故・岩田元任天堂社長のインタビューや回顧録。任天堂ホームページの大人気インタビュー企画「社長が訊く」や、MOTHER2の開発を巻き取った話など、お馴染みの凄い逸話が温かく収録されている。天才プログラマであり人気経営者だった故人への敬意と愛溢れる一冊。


『芥川賞ぜんぶ読む』

2010年代に大昔の作品を解釈することは、往時の評価とはかなりかけ離れるだろうけれど、文学賞の持つ文脈を理解するうえでは大変面白い試みだと感じた。ここ最近の受賞作については他文献の方が論が深いことと、人文科学系の視点での作品論としては掘り下げが浅いところはあるが、読みやすく楽しかった。


『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』

高校生のカリスマ、kemioの初エッセイ。スーパーパワーワード連発、逆境も全部力に変える人間力。ずっと明るいわけではなく、苦境に落ち込み、ダメージを受けながらも歯を食いしばった先の笑顔なのだと感じ入る。体裁や装丁は常識の範囲内に収まっているんだけれど読むドラッグとしての需要があるかもしれない。亡くなった親のこと「天国のギャル」って呼ぶ?


『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

イギリスの底辺中学校で「ぼく」が出会う差別と偏見、常識の壁、多様性の実際。西加奈子の「i」をエッセイの形でさらに手に取りやすくしたような、今、読んでおくべき作品に感じた。イギリス、特にロンドンは移民の都市であり、多様性と相互尊重が声高に言われている印象があったので、本書はとても新鮮で面白かった。


『発現』

小説だと後味の良くない物語ばかり読んでしまう気があるのかもしれない。設定と装丁がとても良かった。ホラー、怪奇ものとしての雰囲気はありつつも、超常のものというよりは地に足がつき手が届く人間を描いているので、ジャンルは決めづらい。もっと恐怖か謎に振り切ってくれても良かったかもしれない。


『浅野いにお本』

好き嫌い、その両面で圧倒的に読者からも作家からも意識される漫画家、浅野いにお。マイナーからメジャーまで、自作をどのように考えているのか、また漫画の歴史・文脈のなかでどのように彼の作品が解釈できるのか、広く語られていてとても面白かった。


『イベンターノートが声優にインタビューしてみました』

イベンターノートという組織をぞんじあげなかったのですが、若手~中堅の名うての声優陣に、ファンとの交流の場であるイベント関連のさまざまなことを聞いていて面白かったです。とくにM・A・Oさんはもともとタレント、女優から声の仕事もするようになった方なので、声優業界という狭い視点以外の価値観への言及もあり面白かったです。


『ユリイカ 岡田麿里』

秩父三人衆が一角、脚本の岡田麿里!アニメの文脈に、人間味がありすぎる、湿った、ちょっと汚い部分も含むキャラクター描写といえば岡田さんです。「凪の明日から」のものすごい透明感のあるビジュアルとドロッとした嫉妬、行き場の無い苦しい恋愛が、ウッとなるけど好きでした。その話も存分に語られています。


『総特集 萩尾望都』

昨年は「ポーの一族」のめちゃくちゃ豪華な装丁の新装版も買っちゃいました。美しい精神、耽美で切ない関係性…いわゆるクソデカ感情を初めて描いた世代の漫画家への愛に溢れる研究と言及。


『創 マンガ市場の変貌』

コンテンツだけヒットしていればいい時代は終わり、薄利多売の商品にどれだけ多くのコアユーザーを引き込めるかというオタクの奪い合いの激化、体験ビジネスの台頭、外国市場、そしてインターネットとの戦い。漫画や雑誌だけでなく、ビジネスとしてのサブカルチャーを包括的に取りまとめている。


『ユリイカ バーチャルYouTuber』

バーチャルYouTuberをめちゃめちゃ見ています。群道先生が好きです。黎明期の動画では、バーチャル技術や架空のキャラクター性でのエンターテインが多かったけれど、現状は見た目が美しいだけの人間として、人間の面白さや知識での勝負が主流。内輪のコミュニティが大量に生まれては消え生まれては消え…。本書は、技術・表現のイノベーションとしてのバーチャルYouTuberが、何を可能にし、何を困難とするのかを考察、予想する。初音ミクが爆発的な普及を見せてからの10年、双方向コミュニケーションとキャラクター需要のあり方は多くの人々の予想を裏切る変節、隆盛そして停滞を経験したように思えるので、Vtuberはどうなるだろう、と興味が尽きないです。


『現代思想 反出生主義を考える』

生存には苦難・不幸・デメリットが多く付きまとい、生まれてこないことと比較すると収支はマイナスなので、生まれてこない方が良い、という思想。本書は、その思考について検討・研究・言及する。仏教などの輪廻転生も、最終的な目的は苦難の多い輪廻から解脱して生まれ変わりから卒業することなので、もしかすると物質的豊かさの足りていない社会や時代ではかなり理解のしやすい思想だったのかもしれない。様々な学術領域から、反出生主義、および生存の価値についての考察がなされ、読み応えがある。ただ、希死念慮がうっすらとでもある人はあんまり近寄らない方が良い領域かもしれない。生きていればこそだぞ。

『ビジネス書図鑑』

これ1冊あれば、ほかのビジネス書はいらない気がします。図も文も、ちょうどよくて良かった。本当に賢い人が作っているという感じがする。ここから読書を広げていくのも面白いはず。


『息吹』

「メッセージ」のテッド・チャン!スーパー入り組んだ設定と人類愛のテッド・チャン!SF千夜一夜物語という建付けがもうカッコよくて面白そうなので見つけてすぐに買ってしまった。Dr.STONEでも時をかける物語のエピソードをやってたよね。本作も超壮大なのですが、それを人間のミクロな物語としっかり繋げて腹落ちさせられるように展開するので流石です。


『サマータイムマシン・ブルース』

伝説の劇の脚本に修正を加えて書籍化したもの。時間ものエンタメSFはどうしても、アイディアの旬があるので、時かけ、シュタゲ、君の名は。を経てから読んでしまうとシンプルに感じてしまうのですが、熱量はあり、当時の抜群の面白さが窺える。


『おクジラさま』

捕鯨の是非と、それを取り巻く表現についてのノンフィクション。個人的には、動物の賢さなど計りようがないし、賢く見えるから、感情がありそうだから保護するというのなら、愚かで無感情に見える生命(場合によっては人間も含まれるのでは?)は差別しても良いのか、という話になるんじゃないかと思ってしまう。僕らは犬を愛しているけれど、ダックスフントやブルドッグは狩猟や闘犬のために品種改良してヘルニアや皮膚疾患のリスクを高めさせてしまった人工生物な訳だし、地球上の脊椎動物は人間が興味を失えば滅ぶ種族ばかりな訳だし、右から左まで、人間の文化って最初から他の種族への迫害と殺戮のうえに成り立っていて、みんなで気づかないフリをしようね、ってお約束だったじゃん……そんな半端な思いやりは捨ててしまえば良いのに…と思ってしまう。そんな無責任な感想は措いておいて、本作は思想の差異と衝突の過程を追いかけたルポであり、人間の心と社会の動きを書き記している。非情だが、捕鯨云々に答えはなく、どのようにコンフリクトと向き合うかだけがある。


『本と鍵の季節』

米澤穂信がめちゃくちゃ好きです。いちばん好きなのは「ボトルネック」。本作は古典部シリーズのようなキャラクターミステリで、図書室を中心に展開する。なんかそれ、古典部とか小市民シリーズでもやってなかった?という「学園もののシチュエーションけっこう限られてる問題」はありますが、より「ボトルネック」よりのちょっと陰の強い物語で、後半の方は、おっ、と思わせられました。


『なめらかな世界と、その敵』

現代SFを最も愛する作家、伴名練の待望の新作。短編集で再録も多いのですが、技巧と構造に凝りに凝った作品の連発で、頭をぐわんぐわんにいわしてきます。漫画やアニメの文脈に近しい作家は、美しい音をとても大事にしているので、音韻的な気持ちよさもあって疾走感のある読書体験だった。


『さよならの儀式』

宮部みゆきは天才。SFアンソロジーです。とにかく引き出しが多く、どの題材でも一線級に書けるのが凄い。SFはいちばん文脈と地層が厚く、参入障壁は高い気がするのだが、人間や情景描写への温度感が抜群なのでかなり戦えていると思う。また「ソロモンの偽証」とか「模倣犯」みたいな壮大なやつも読みたい。


『危機と人類』

ジャレド・ダイヤモンド先生と一緒に歴史から学ぶシリーズ。マテリアルと人類の次は、シチュエーションと人類。語り口がズルい。面白い。


『SFショートストーリー傑作セレクション』

小学生に向けたSF傑作オムニバスシリーズ。書店で見かけて購入。挿し絵も豊富でセレクションもテーマごとに分かれていて読みやすい。「時の渦」「殉教」「お紺昇天」「潮の匂い」…こんなリッチな児童書が学級文庫にあったらヤバイだろうな……。


『数学の真理をつかんだ25人の天才たち』

巨人の肩に乗ってものを見る、という言い方をするが、数学の、巨人リレーを見ているようなスペクタクルがあった。どういった困難を、どのようにして克服したか分かりやすく読み応えがあった。


『魔眼の匣の殺人』

最強面白エンタメ小説「屍人荘の殺人」シリーズの第2作。前作で天下をとった作者が次はどうするのか?という期待で購入。「屍人荘」のシステムが凄すぎたきらいはあるのですが、森博嗣の系譜を受け継ぐキャラクターロジカルミステリとして楽しく読めました。


『火狩りの王』

児童向けファンタジー小説なのですが、イラストは十二国記の山田章博だし、世界の設定もかなりハード。ファイアパンチと鬼滅の刃を足して2で割った感じです。めちゃめちゃ過酷な世界で主人公が歯を食いしばって巨大なものに挑んでいく。そのうち爆流行りするかも。面白かったです。


『日曜日の人々』

かなり痛ましいというか、心の病と、生と死、承認を中心に描かれる人々は頼りなくてショッキングな印象を受けました。尾崎世界観さんの推薦文が文庫版にはあるのですが、彼のファンとこの作品の読者はけっこう乖離してそうなイメージ。読めるのかな……。


『反教養の理論』

実用を追うな、基礎教養を磨け。そういうことを述べてるだけではあるのですが、なぜそういった反教養の価値観が出てくるのか(そもそも反教養なのか?彼らのプライオリティは何だ?)というところにも言及がある。というか、実用的なスキルだけ欲しいなら大学なんか行かなくて良いだろという話だが……。


『読みたいことを、書けばいい。』

それがいちばん難しいですからね。心構えとして、自分をターゲットとして書け、みたいなことなんですが、あれが書きたい!という初志を貫徹することほど難しいことはない。調べたことを書け、自分を語るな、ということも説いていて、それって多くの読者からするとかなり大変で真似のできない作業のように思えます。


『ルネサンス庭園の精神史』

日本庭園版も読みたい。権威の象徴、贅の限界、新しき芸術・ルネサンスの庭園とはいったいなんだったのか、政治・社会・宗教とあわせて研究考察した一冊。僕も家に噴水が欲しいです。あとNHKホールの演出機材。


『筒井康隆、自作を語る』

作家の自作への言及は、読みたいような読みたくないような、というところがありますね。かなり時代を経て、改めてこの作品を書いた当時は…というものの書き方だと、かなり読めます。作品論・技術論、そして当時の業界の温度も忍ばれる面白い文章でした。


『聖なるズー』

かなり面白かったです。開高健ノンフィクション賞受賞作。動物を性的なパートナーとして見る「ズー」と呼ばれる人々に密着したノンフィクション。えー!そんなのありかよ!?が少しずつ解れていく過程を作者と読者と、手を取り合って体験していく読書。また、作者自身の物語にも強く考えさせられるところがありました。僕は性的少数者や愛の形について、かなり感度の高いほうだと自認していたのですが、さらに解像度が増したように思えました。もしくは、何も分からなくなったのかもしれない。


『DEATH 「死」とは何か』

日本語版は、実は底本の半分のところで終わっているらしいですね。誰も経験したことの無い「死」について、まず文化や社会的なステレオタイプをはずして考えてみることから始め、そのうえで現代の私たちに対する「死」とは何なのかについても考えていく。たとえ救済だったとして、永遠に生きたいよなぁ?


『薪を焚く』

山へ入り、樹を切り、乾かし、薪にする。その職人の行いを深く細かく綴るノンフィクション。「ウォールデン、森の生活」のような自然のなかで立ち現れる哲学。あと単純に、樹を切り、薪を作る営みに学びがすごく多い。薪ヲタク。


『人間界の諸相』

小説です。かなり滅裂で、意味を考えると頭が痛くなってくるのですが、キャラクターを中心にして物語が乱暴に展開していく。瞬間瞬間の楽しさを追い求めるという点では多分にエンタメ的ですが、物語というよりはジェットコースターです。動物園に近いかもしれない。作家が描きたくて書いている要素にのることができれば超楽しいと思います。


『そして、バトンは渡された』

昨年の本屋大賞受賞作。読みやすく、血が通っていて、そして大きい物語。しばしば「優しい物語」とか「悪役のいない物語」という褒め言葉が使われるし、誰も傷つかないことは「安全圏に自分がいることを確認できると人間は快を感じる」という面白さの原理原則に則った正しい感情なのだけれど、その評価はかなり無難で嬉しくない印象がする。本書はもっと面白いです。人と人の繋がりを丁寧に描いているという点で全然無難ではない。


『無目的な思索の応答』

武田砂鉄と又吉直樹の往復書簡形式のエッセイ。無目的と題打っているように、どこに連れていかれるのか読めないアドリブ感があり、それが緊張にも脱力にも作用している瞬間があった。もっと絞ったテーマで対談をしてほしい気もするが、両者の言葉への真摯な態度が読み取れて心地よかった。


『文字渦』

抜群の奇書。ルビだけで物語が展開したり、文字同士の戦いが描かれたり、あらゆる角度からあの手この手で読者を殴ってくる、驚かせてくる。円城搭のやばすぎる知識と引き出しが爆発していて、元ネタは分からないけれど絶対に何かのオマージュやパロディだろうと思われる要素も頻出する。読書の拡張といってもいいくらい本と文字で遊んでいて、深掘りすればするほど面白くなる。


『紋切型社会』

文芸書の編集者に薦められて読んだ。「誤解を恐れずに言えば~」「全米が泣いた」のような、紋切り型の言い回し、世の中に溢れる言葉遣いを、めちゃくちゃしつこく追いかけて考察し、社会のありように接続させて語った本。言葉尻を捕まえているだけのユーモアともとれるし、些細な言い回しに現代の病の香りを見いだしているともとれる。想像力と分析力に溢れる痛快な読書体験だった。


『ウンベルト・エーコの世界文明講義』

ウンベルト・エーコがすごく好きです。「薔薇の名前」と「バウドリーノ」しか読んでないけど。本というメディアについて語ってる対談と、小説技術について書いてる本もおすすめ。本作は文明というものの成り立ちについて。要は人の営みの集積がどのように現れてくるのか、というところの考察になるのですが、やはり現代の社会や人間に対しての視点が鋭いように思えました。かなり巨視的なものの見方と、個別の事象、抽象概念への眼差しに、読み進めること自体の面白さがありました。


『三体』

中国が産み落としたバケモノ。世界を救うための技術、科学者たちが次々と殺されていく謎の事件、そして超現実のVR空間"三体"…!巨大なSF物語としてのスペクタクルは言うまでもないのですが、主人公と共に、いったいどういうことなんだ…!と謎を追いかけるスリルも一級品。でけぇ構想だけ練ってあとはブン投げたりせず、細部に丁寧に読みやすさと読み応えを積んでいっているので、そりゃあ爆発的に売れるのも納得。


『現代の考察』

ものすごい分量だが、1人の思想家・哲人がこれまでの多岐にわたる思索に接続できるので面白かった。武士道や日本社会についての価値観、個々人の幸せの在り方と、メディアについて。包括的でやや古き良き和の哲学の趣なので、より踏み込んだ細部の議論についても知りたくなった。

『クリエイターのためのSF大事典』

時間、宇宙、次元、惑星開発、人造臓器、ヒューマノイド……。SFが嫌いな人なんているのだろうか?わくわく大事典と言い換えても良いと思う。最新の著作ではないので、コンピューター・AI系の項目がちょっと弱い。図録が豊富で良かった。

公式サイトなのに「クリエーター」なの何でだよ。

『これで駄目なら』

円城搭(屍者の帝国)が訳すカート・ヴォネガット(タイタンの妖女)。音楽論や芸術論を大作家が語るのも面白いですし、かなり現代的な、作品と作者のルーツの話、言論の自由の話など、示唆的な内容も多く含んでいる。孤独とは何かを定義してなぜ人々が孤独なのかを語るくだりも読みごたえがあって良いですね。


『大人になるためのリベラルアーツ』

僕らの東大出版が出してるベストセラー。答えの無い様々なテーマの問いに対して、参加者が議論を深めていく東大の講義の授業録、および教授陣による追想。いわゆるアクティブラーニングというやつの走りだ。「代理母出産は許されるか?」「話し合いで合意に達することはできるのか?」など、サンデルのこれからの正義ではないけれど、それは難しいよな…という問いに全員で向き合っていく。心と頭の体操に。


『高橋留美子本』

るーみっくは凄い!では何が凄いのか?識者が語り明かす漫画家本。少女漫画と少年漫画のアウフヘーベンについて、強くて可憐な女性描写について。うる星やつらの男性を喜ばせるキャラ造形、犬夜叉の女性を喜ばせるキャラ造形、そして近年は…?ジェンダー論で漫画を解釈するのは、個人的には銀食器でプッチンプリンを食べるようなものだと思うけれど、一面のモノの見方としては面白い。


『小学生なら知っておきたい教養366』

世は大教養時代!書店には大人の教養、社会人の教養、毎日の教養、教養教養教養……みんな教養が欲しい、みんなの憧れ教養人。そしてついに齊藤孝が小学生に向けた教養本をつくっちゃった。即物的な知識を欲しがる大人に営業をかけつつ、読者である子どもたちには生活を豊かにする窓辺の花のような知を与えたい、という筆者の意図からなのか、帯には「頭がよくなる!」という馬鹿すぎる惹句を踊らせつつも内容はけっこうガッツリで読み応えがある。


『文系の私に超分かりやすく数学を教えてください!』

かなり易しい言葉で数学を説明してくれるが、序盤は少し冗長な気も。かといって文量は少なくない。幾何と解析について、丁寧な定義付けをしてくれていたのは有り難かった。


『声優道』

声優って、役者の中でもいちばん簡単で、いちばん難しい職業らしいです。蟲毒というと言葉が悪いけれど、少ないパイを、上手さや若さや面白さで競って奪い合う熾烈な業界。そこを生き延びてきた演技者・職業人の哲学と価値観をどどんと50人分。厚いし熱いです。


『文藝総特集 筒井康隆』

上述の「~自作を語る」よりも網羅的で、かつ他者から見た筒井評も面白かった。同時代の作家からみた筒井康隆論に読みごたえがある。


『ユリイカ 雲田はるこ』

雲田はるこさんの描く男性はほんとに指先から首筋からとにかくえっちですね~~!ということを現代思想の専門家たちが真面目に語る。デザインのフェチズムはもとより、作品の精神、思想に深く踏み込むのはユリイカならではで、人間関係の綾だけでなく、社会や文化をも描く作家との相性は抜群。マンガ表現の話も面白かった。ヤマシタトモコさんでもやってくんないかな。


『世界196ヵ国完全データ図鑑』

国家擬人化大図鑑。ヘタリアのオタクからすると解釈の不一致も散見されるんですが、あくまで現代の国連加盟国のデータベースです。いわゆる周辺国家にも丁寧にスポットライトが当たっていて、日本とお付き合いの無い国や、世界という大局からみた国家の連なりを総ざらいできます。キャラデザインの本としても見ごたえがある。


『桜井政博のゲームについて思うこと』

ファミ通の連載が書籍にまとまったもの。カービィとスマブラを作った人として認知されている桜井政博氏ですが、ホントにものすごいのは現役のゲームユーザーとして年間ものすごい数の作品を遊び続けているところ。ゲームへの意見も面白いですが、どれだけ引き出しがあるんだ、というインプット量にも驚かされる。やっぱ物量は基本だな、と感じる。


『ザ・ペンシル・パーフェクト』

鉛筆って意味わかんないじゃないですか?木に炭を埋め込んであるし、なんでこんな形のものが成立したんだ?って小さい頃思ってました。本書は鉛筆の進歩の歴史、社会との関わりについて通史的にとりあげつつ、鉛筆がいかに凄いかを語り尽くしている。宇宙でも使えますしね。


『良いコミックデザイン』

良い!と断言されると、お、おう…、って引いちゃいますが、コレクションしたくなる装丁にまつわるデザインと印刷技術に密着したムック。ちょっと古い本なので、宝石の国や暗殺教室など、10年代前半の作品ラインナップですが、見て楽しく読んで面白い図録。



ざっとこれだけ!昨年は楽しく本を読みました!

毎日毎日、そんなに時間が無くて、とにかく手当たり次第に買って読むか!になるのですが、読書の嵩が増えてくるとRPGと同じで経験値がなかなか入らない、凝り固まった状態になるのであんまり良い読書をしてないです。(特に論理的思考と情緒のパラメータが伸びない)。だから出来ればクリティカルな良い本しか読みたくないんだけど、前述の2パラメータ以外の、時代への感度、分野の平行思考力みたいなやつは最新のものをある程度の物量で入れていかないと衰えちゃうから…体重は減らしたいけど肌が荒れたり必要なところの肉は落としたくないみたいな悩み……


その他、2019年の他のコンテンツへの雑感。パパッと書いたのを貼り付けたので、漫画とかゲームはもっと喋りたいこといっぱいある。



・ゲーム
キャラクターのトータルデザインに優れた作品がたくさんあった印象でした。『ポケモンマスターズ』と『ポケモンソード・シールド』はゲームのシナリオはかなり苦戦していましたが、デザインが良く、作り込まれた新キャラはいっぱいいるし、既存のキャラの使い方も超上手い。『剣盾』は演出も熱くて、ゲーム序盤のポケモンリーグトーナメントの開会式にジムリーダーが全員集結(一人は欠席してて正体が明かされない)するなど少年漫画のようでしたし、トータルではかなり楽しめました。ストーリーはびっくりしたけど。
『ファイアーエムブレム風花雪月』もめちゃめちゃ細かい作り込みがなされてて最高。主人公の物語にはプレイヤーの体感時間と主人公の経験する時間の差異が大きすぎて感情についていけない部分(養父との関係など)もあるのですが、自分が選び、育てた他のキャラクターには抜群に感情移入できますし、彼らの関係性はかなり良いです。台詞が凄く良い。全員が他者との関係で救われていくし。あと、自分が花を贈ったらちゃんと寮の自室に飾ってくれるし皆良い奴らだから凄い。緻密なストーリーをお客さんが求める一方で、血の通った、リアルで、推せるキャラ作りもかなり求められているんだろうなと思いました。
逆に、かなりリアル・シビアに作られたゲームも大人気。『隻狼』すごい面白かった。こんな難しくする!?ってアクションで、ずっと緊張してた。『デス・ストランディング』はマジで映画。メタルギア後期のSF感、あの世と繋がった終末の世界、カイラル物質、ネクローシス、アメリカを再興、伝説の運び屋……。超カッコいいし作り込まれてるんだけど、個人的には嬉しくないリアリティーが多かったです。ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドもそうなんですけど、雪山に登るには寒さの対策をしなきゃいけない、とか、大きな荷物を背負うと速度もバランスも悪くなる、とか、なんでそんな苦労をゲームでしなきゃならないんだという気持ちが……。こんな作り込まれてるのは凄いなと思うんだけど、べつに半袖半ズボンで寒いところ行ってもダメージ受けなくて良いじゃん、ボス戦が楽しければさ、とも思ってしまった。これは好み。

・漫画

昨年は叙情で熱い、逞しい作品がずっとパワフルで良かった。3月のライオン、阿吽、異国日記、私の少年、大奥…!昨年はフィールヤングとハルタがずっと楽しみだったし、ヤングアニマルもずっと楽しいしベルセルクはキャスカが復活するし…
ダークファンタジーは、作者が天才だから展開は気になるけど何やってるのかいまいち良くわからない作品が多い!大ダークもドゥルアンキも天国大魔境も毎回楽しみだけど、目的はなんなんだ、誰に感情移入すれば良いんだ、何の話なんだ、あまりにもオタク以外に優しくなくないか、、、呪術もチェンソーもずっと面白いけど今なにしてるのって話が続くし。もちろん全然超面白いんだけど、ONE PIECEってルフィが悪いやつをやっつける話だからかなりシンプルなのに、それですら「最近は何やってるか分かんない」って理由で離れていくお客さんがいるんだし、ちゃんと主人公の目的でお話を盛り上げないと、ちょっと種蒔きが長いだけで「分かんなく」なっちゃうのでは…?と思ってしまう。マスに売れなくていいんですよ、というスタンスならそれで良いのかもだけど……ただ、上記5作全て、台詞はキレてるわ、演出にクセあるわ、デザインは変だわで、次は何が飛び出すんだ!?という楽しさで脳から汁はずっと出るのでホント読み耽っちゃう。でも炭治郎みたいに炭治郎がずっと炭治郎の目的のために頑張っててほしいな…鬼滅の最終決戦、台詞がキレキレだし因縁で斬りあってるし緊張感もえげつないしで面白すぎるよね。
あとヤンジャンがシャドーハウスやまくむすびのような真っ直ぐな変わり種をバンバンやってるのも楽しい。眉月先生のクーロンジェネリックロマンス…!
コメディは異世界おじさんが超面白かったし、美少年倶楽部と恋と弾丸にも笑ってしまった。くのいちツバキ、僕の心のヤバイやつ、どちらも好感度が超高くて可愛い。金剛寺さんもずっと好き。
成年向けは、ユアストーリーが凄かったし、初恋エトランゼも良かったし、えーすけと位置原光Zも超応援してます…快楽天作品ばっかりなのは、あんまりハードだと女の子に感情移入してウッてなっちゃうので、主人公とヒロインの仲が良いやつばっかり好きだからです…

・お笑い
M-1、超面白かったですね…!
YouTubeや配信作品もあるので、お茶の間に露出して仕事をできている芸人の人数自体はここ数年めちゃくちゃ増えているのでは。
ぺこぱが優しい優しいと言われていて、人を傷つけない笑いは確かに存在すると思うのですが、優しいことが面白い訳ではないから難しいですね。アレは本来はもっと厳しいはずのツッコミが優しい、というところが面白味なので、年明けの特番の時点で、ギャップがもう薄れてきてて「お~、優しい~」拍手パチパチパチ…みたいになってるのが、うぅっそれはヤバイぞ…!って感じてしまいました。やっぱり安全圏から他人を攻撃するのって心地が良いので、そこを封じられるとできることが少なくなるはずです。おかしい人をおかしいと指摘することって、その人のありようを否定する広義の攻撃ですからね。そっちのほうが基本面白いし、見ている人全員をちゃんと安全圏に囲い込むような、安全に人を傷つけるメソッドが今後もっといっぱい出てくるのでしょうか。
今年はサツマカワRPGが地上波でいっぱい見れて楽しかった。あと、ずっと尼神インターとAマッソは好きです。今年は蛙亭、街裏ぴんく、Dr.ハインリッヒ、シシガシラ、デルマパンゲを全国ネットのテレビでいっぱい見たいな……それと、バガリアの吉本に所属する前のネタ動画をちょくちょく見ています。

・YouTube
Vtuber、ゲーム実況者、Vocaloid、過去のゲームやアニメの解説動画を見ていました。YouTuber、Vtuberは、専門家になるか、プライベートや可愛げを切り売りするか、他所のコンテンツを借りてくるか、の3択に陥りがちなんですが、オモコロチャンネルと加藤純一だけはずっと人間のエネルギーで面白いことをやってる印象を受けました。あと月ノ美兎とかハリウッドザコシショウとかも。もちろん皆、動画や配信を企画立ててやってるんだけど、面白味の本質は企画じゃなくてその人自身の熱量と個性だから、何やってもだいたい面白くて楽しいです。他のYouTuberもそういった内輪感にどうやって視聴者を巻き込んで、そいつを好き、そいつの行いならなんでも楽しい、と感じる状態にさせるかの勝負をやっている趣がある。内輪ネタの群雄割拠なんですけど、ニコニコ動画と違ってランキングが明確に見えないので、内輪同士の干渉、あの界隈はあんなことやってんのか、が無いのが物足りないです。全員が自分のVRゴーグルでそれぞれのYouTubeを見ている…。

・音楽
King Gnuは白日も最高だけどバナナフィッシュのアニメの曲も歌ってくれ。髭ダンはPretenderも最高だけど火ノ丸相撲のアニメの曲も歌ってくれ。LiSAは紅蓮華も最高だけどFateのアニメの曲も歌ってくれ。キリンジがアイマスじゃない曲を出してる!東京事変って解散してたんですか?米津玄師って苦手なこととかあるの…?紅白のVTRでは嵐にタメ口聞いてたし…AKBやももクロと比べて坂道グループ、「大人にならなさ」が強くないですか?Perfumeと同じくらい時が止まっている。WACKのアイドルの露出もかなり多いですね。豆柴の大群……。ヒプマイを履修しました。どついたろか本舗の曲が良すぎる。パラライが楽しみです。B.A.E.の曲が良すぎる。

以上です。


ここまで長々と読んでくださってありがとうございました。僕のこと好きじゃないとここまで読めなくないですか……?もしくは独居房とかにいて暇な人か。


ここにじゃあ合言葉を書いておくので、言ってくださればご飯とか奢りますね…。

『埼玉紅さそり隊 深爪竜子』

これでお願いします。大きい声でお願いします。


ほんとにありがとうございました…!

チョコラBBを最近はずっと飲んでるんですけど、長い文章見ててもあんまり目が疲れなくなったのでおすすめです。

本年もよろしくお願いいたします。


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