頼むから伊勢田勝行のアニメを見てくれ

伊勢田勝行の全作品が無料公開中

「伊勢田勝行」というアーティストを知っているだろうか。
俺が口八丁で説明してもしょうがない存在なので、彼の存在を詳しく説明した記事があるので先に見て欲しい。https://originalnews.nico/204566
簡潔に言うと、二十一世紀に現存する全人類77億人のうち、最も「アーティスト」の称号が似合う男です。
頼むから、後生だから、なんでもするから、伊勢田勝行のアニメを見てくれ。言いたいことはそれだけだ。絶対に面白いから。保証する。それは俺が彼の信者だからとか色眼鏡で見ているとかじゃない、事実去年の11月に行われた伊勢田勝行作品全作を27時間ぶっ通しで放送する生放送では、最終的な視聴者は86000人を超え、番組終了時の視聴者アンケート結果は「とても良かった」が96%を超える結果となった。入り口のハードルが高い彼の作品でこれだけの高評価が得られた理由はただ一つ、「内容がひたすら面白い」からです。
認めよう。ガワは慣れるのに時間がかかるかも知れない。なんせすべての画はクリアシートに描かれたものを直撮りで動かしているにすぎず、BGMは自作あるいはマーマレードボーイから拝借されたものが常時音割れしながら鳴り響き、齢五十を超えた男の女声をおよそ延々と聴き続けることになるのだから。が、それを補って余りある魅力がそこにはある。むしろ、その欠点とも思える環境の不揃いさが最終的には愛おしき魅力と化すのだ。
(ここからしばらく彼の作品の良さについて語るので、『じゃあ具体的に何観ればええねん』という人は下の方におすすめ作品を載せているので目次からそっちに飛んでちょ)

魅力

彼の作品の優れているのは兎にも角にも「脚本力」である。先程も言ったが、こんな劣悪な環境で作られたアニメが9万人弱に鑑賞されそのうちの96%に称賛されるということはそうそう簡単なことではない。詰まるところ、もう、話が、メッチャクチャに面白いのよ。彼のアニメは現在全部で40作品ほどあるんだけど、そのひとつひとつが全く異なる設定で(一部続編っぽいのもあるけど)、かつ斬新きわまりない。どれくらい斬新かというと、「野球大好きなシスターが主人公」くらいでは味薄に感じるくらい。プロット・ツイストも鬼の所業で、「ヘテロかと思ったら百合かと思ったらホモかと思ったら全部だった」みたいなことも平然と起きる。多くの作品は少女漫画をモチーフにした恋愛系だが、IF系や戦記物などもあり作品の幅は非常に広い。一切飽きないし、一切読めない。実際私も前述の27時間生放送を視聴したが、ある程度脚本のクセを掴めてきた最後の作品になってもなおオチを完全には予想できなかった。常に裏の裏を描いてくるのよ。「こう落ちるだろう」と思った部分をはるかに上回って、誰も予想がつかない世界へと誘われていく。
 もちろん、彼の作品の魅力は脚本だけではない。私が個人的に特に惹かれたのは、OPである。彼の全作品にはOPがついており、映像・歌詞・作曲・編曲・歌唱すべて伊勢田氏ひとりで担当している。この一つ一つが、めちゃくちゃ曲としての出来が良いんです。特に好きなOPはプリマブ、婦警ライダー、ラブコメッサー、瞳の奥のレジェンド。OP映像単品で見られる作品も結構あるので、興味があればまずそっちだけでも見て欲しい。

長々と語ってもしょうがない。彼の作品の魅力は言葉では尽くせない。現在公開されている作品の中でオススメのものを羅列していく。とはいっても、彼の作品は打率が異常に高いので9割型はオススメです。

初心者向け

1.『ばかしけんっ』(14分16秒) 

【あたし、おスナ。砂かけばばあの子孫の妖怪。今度、子泣きじじい族のコナキと人間を化かす試験「化か試験」を受けることになって人間界にきたんんだけど…試験官の長老チョロスから出た課題がなんと、それぞれ人間を誰か一人、恋人として化かして落とすことなんだっていうもんだから、ほーんっとてんてこ舞い!どーなることやら…でもなんとかがんばろーと思うんで、どーか応援ヨロシクね♥】

「化かす」と「バカ」と「試験」がかかった実に高度なダジャレタイトル。言い忘れていたが、彼の作品はとにかく言葉遊びの雨あられで、1秒ごとにダジャレが繰り出される。無印のポケモン(首藤氏脚本)のノリを百倍くらい誇張化したらこうなるみたいな感じ。その点で特に圧巻なのは後述の「きょーしょクイーン」という作品。
「ばかしけんっ」の特に優れているのは、そのコンパクトさである。14分という伊勢田作品の中でもかなり短めな尺ながら話はしっかりとまとまっており、かつメチャクチャに面白い。生放送でもかなり視聴者評価が高かった一作。よく彼の作品の代表例として何故か「浅瀬でランデブー」があげられるが、内容はともかく尺が長すぎてとても初心者向けとは言えないので、入り口の作品としては「ばかしけんっ」の方がずっと良いと思う。作風を掴むという意味でも。個人的には短編では最高傑作候補。

2.女王陛イカ きょーしょクイーン(15分13秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35892846

これも比較的コンパクトな一作。この作品も相当すごい。まず侵略!イカ娘よりずっと先に「イカ+少女」というジャンルを開拓した時点で結構ヤバいが、誇張抜きで本当に一秒ごとにダジャレが展開されている。ひとゼリフに必ず一つは言葉遊びが入っている。名乗りに至っては「イカにもイカつい悪にをも、イカりのイカづち落とそうじゃなイカ!きょうしょクイーン(教職+クイーン)、イカめしく見参!」という何コンボキメてるのか分からないくらいイカれた言葉遊びが見られる。落語家か。
キャラの可愛さとOPの良さもあってか、視聴者評価も高く、最高傑作の呼び声も高い。「ザ・伊勢田ワールド」という世界観を楽しめることもあり、初心者にはかなりオススメの一作。

3.『婦警ライダー』(約40分) https://www.nicovideo.jp/watch/so35860838



全作品生放送でも一番最初に配置された名作。総再生時間はそこそこあるが、一話完結式が3話くらい並んでこれなので、ギャグ作品なことも相まって割とサクサク見られる。まずOPがメチャクチャカッコイイので一発やられ、怒涛のダジャレラッシュに抱腹絶倒しもう一発やられ、話が進むごとに「あんな些細なネタが伏線だったのか!」という展開への驚きでノックアウトされる。超展開ながら脚本がしっかり練られているので、この作品をはじめに観れば「この作者は一味違うぞ」というのがハッキリと分かると思う。単なるイロモノではない。彼の世界は確実なる実力のもとに繰り広げられるのだ。

4.『ふらんくフルート』(21分) 

フルートの得意な音楽女子小学生、譜蘭久ふるとは、実は、音楽を武器に暴利をむさぼる悪徳企業クライオン社の、肉をエネルギーに音楽的攻撃をしかけるサイボーグ、ニクロマンサーと戦う旋律のサイバーヒロイン、ふらんくフルートだった。

『婦警ライダー』や『きょうしょクイーン』と似たような系列。個人的には他の作品と比較してそこまで高評価を置いてはいないが、斬新かつ魅力的なキャラクター設定と可愛いOPに、終盤のどんでん返しと、「伊勢田作品らしさ」みたいなものはすべて詰まっている。視聴者評価も比較的高く、放送終了後も「ふらんくフルートよかったよね」というコメントが散見された良作。

5.きりーつ!霊(10分) 

4コマ漫画のアニメ化風。動画時間は伊勢田作品屈指の短さで、まさしく初心者向け。「魔法先生ネギま!」や「バトル・ロワイアル」ネタがあることから作られたのは比較的後期と思われる。

6.恋戦士ラブコメッサー(23分55秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35899569

フラレルワールドからカップル全滅に現れた失恋悪魔、フリソデビルから恋人たちを守る為に戦う正義の恋戦士、ラブコメッサーの活躍アニメ

仮面ライダーWより先に仮面ライダーWをやった男です。
言及し忘れたが、伊勢田氏は仮面ライダーなどの特撮ファンで、特に怪人側に心入れしているらしい。自身でもいくつか特撮作品を撮っており、今回のラブコメッサーのようにヒーローモノっぽい作品も結構ある。
ラブコメッサーはとにかく初心者に人気。彼の作品にしては設定はきわめてシンプルで、ナレーションで色々説明してくれるのでかなり噛み砕きやすい。伊勢田作品お得意のダジャレラッシュもあり、入り口としてオススメの一作。


初心者向けと言えそうなのは主にこのあたり。次にある程度伊勢田作品に慣れてきた、つまり彼の世界の虜になってしまった中級者向けの作品。

中級者向け

中級というか、初心者にはちょっと荷が重い中編~長編で必修クラスの作品を列挙していきます。

1.『B(oAo)T中Ⅱング(ばっとちゅーにんぐ)』(34分) https://www.nicovideo.jp/watch/so35892804

中二病女子高生、紅森音波(こうもりおとは)が異世界の王子カミイラから、魔界より悪の魔王がこの音波の住む世界を狙っているとの事を聞いたとして、自作のオリジナルRPG「モン・チェイサー」(「モンスターチェイサー」の略称)の配信により仲間を集め、その仲間たちを自分のコウモリ的名前に準じ、音波周波数を合わせたチューニング同志(中二だけに)としてともに共闘してゆかんと挑む(?)学園・中二ングラブコメディ

これよぉー!!完全に個人的な感想ですが、これが一番好きです。Bat(コウモリ)&Bad(悪い)+中二&チューニングをかけた高度なタイトル。脚本の出来としてはトップとは言えないが、兎にも角にもキャラが魅力的。特に主人公(ヒロイン)の紅森音波、正直ここ数年のどんなアニメのヒロインよりも可愛いです。声優は男なのに、めっっっっちゃくちゃ可愛い。ちょっと信じられないくらい可愛い。言いたいことはそれだけだ。萌え豚はいますぐ見るべし。ラブコメディとしての完成度はかなり高い。

2.『ファインレイ物語(ストーリー)』(67分53秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35896018

いきなり一時間超えが飛び出してきて怯んだ方もいるかも知れないが、伊勢田作品は割合としては長編の方が多いです。そして長編の方が間違いなく面白い。ファインレイ物語は、その中でも最高傑作と考える人が多い超傑作
とにかく、脚本の出来が良い。こればっかりは何を言ってもネタバレになってしまうのが歯がゆいが、間違いなく面白いです。この作品は珍しく作中でCMのようなものが挟まれるのだが、そのフレーズ『男なら女装しろ!』はあまりにも有名(ファンの間では)。もし伊勢田作品のうちでどれか一つしか人に見せられないというのなら、俺はこれを選ぶ。それくらいインパクトのある作品。

3.///(スリースラッシュ)インベンター(56分17秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35892793

なぜかニコニコ公式がタイトルを間違えているが、「インベンダー」ではなく「インベンター」が正解。
通称「スリスラ」。珍しく作中で略称が決められている。とにかくコミカルで人気のある作品。どれくらい人気かというと「スリスラ」がファンの間でひとつのスラングのようになっており、キャラが照れて「///」が顔に出ると「お、スリースラッシュ!」と言うのが様式美のようになっている。
伊勢田作品らしくSF要素がふんだんに組み込まれており、作品全体のまとまり具合やオチの綺麗さという点ではファインレイ物語をも上回る。また、作中で剣道部の試合のシーンがあるのだが、なぜか作画が異常に気合が入っており、ufotableも舌を巻くような超絶作画のバトルが観られるのも大きなポイント。

4.『ロザリオにおねゲッchu』(35分53秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35899668

野山架(のやまかける)は、シスターだけど大の野球好き。そんな彼女がある日、拾った携帯に出た相手の野球少年、 鞍良平太(くららぺいた)と会うことに・・・

おもしろいっ!(えらいっ)
「野球大好きなシスター」と「知らない誰かの携帯に入っていたメル友」とのラブロマンスという、斬新すぎる舞台設定だが、伊勢田作品の中でも一二を争うほど伏線回収が上手い。主人公のシスターがメチャカワなこともあり、比較的観やすい一品。初心者向けに置いても良かったかも。ちょっとだけ長いかなと思ったのでこっちに。

5.瞳の奥のレジェンド(41分38秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35900172

香埼ゆあはクラス委員長、でもホントはファンタジー小説を書く夢見がちな女の子。そんな彼女の書く小説から登場キャラの王子様がとびだしてきて・・・という青春ファンタジー少女アニメ

「ファインレイ物語」に勝るとも劣らない大傑作。創作に携わる者にとって必修作品。特に「伊勢田さんはなぜ二十年以上も独りでアニメを作り続けられるのか」の答えが知りたい人はこの作品を見るべし。生放送のセトリでは鳳を努めた。これを最後に置いたのマジで運営分かってるなと思った。
自分はこの作品を観ている最中、それまで四十何作とぶっ通しで彼のプロットを観てきたこともあり「今回ばかりは展開が読めたぞ!」と思ったものだが、それは見事に外れた。それくらい彼の脚本はいつも上を行く。コメント欄でもあれはこうだとかいやミスリードだとか色々予想が書かれていたが、最後には全員が仰天することとなった。
特に終盤では、伊勢田勝行自身の作品に向ける想いのようなものがキャラクターを通して情熱的に語られており、涙腺崩壊は免れない。

6.『プリ♡マブ』(51分19秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35896048

あまりにもインパクトのあるイントロから始まる今作だが、脚本の出来はピカイチ。脚本というか、シナリオが精巧なのはいつもそうなんだけど、今回は恋愛モノながら「主題」が割とハッキリしており、常にそれに沿って話が展開されるので多少設定が複雑になっても飲み込みやすい。その主題とは「洗脳」。洗脳ときくと悪いイメージしか沸かないが、この話では洗脳の善悪両方の面について触れられている。「本当のことなんかもう、どうでもいいんだ。本当の気持ちが、知りたい」は名言だと思う。
それと、OPのサビのメロディがとにかく良くて、しかもこの主旋律をアレンジした劇伴も流れるのでかなりアガる。個人的には伊勢田作品トップ5に入る良作。


上級者向け

ここでは長編もしくはシリアス要素が強く、初心者では胃もたれしてしまうが確かな魅力を持つ作品を載せていく。


1.スタッグシェイド(38分18分)
https://www.nicovideo.jp/watch/so35892879

リボンの騎士の影響を受けていそうな一作。
伊勢田作品の中では作画がかなり良い。バトルシーンはガンガン動く。
テーマは「階級差別」で、冒頭を除けば常に重苦しい雰囲気で話が展開される。争いの虚しさ、差別の元凶など、ディープな話に触れており、「人間は運命の家畜だ」など、台詞回しが特に冴えている。
盗みにあった主人公が、盗人に対して「それだけじゃ足りないだろ?」といってさらに差し出すシーンはレ・ミゼラブルを彷彿とさせた。

2.『@ンリア充ワルツ』(53分6秒) https://www.nicovideo.jp/watch/so35892756

ラブコメとSFの融合という、伊勢田作品お得意のプロット。その中でも特に前後半の落差が激しい一作。仮面ライダー電王かよ。
この作品の凄まじいのは、よほど注意深く観ていなければ見逃すような些細なワンシーンにも重大な伏線が散りばめられていること。「違和感」にすべて理由があるのが何よりすごい。
ただ超展開で終わるのではなく、そこで提示された問題に対しても作者なりの答えを出しているところがグッド。

3.モノローグガール(64分4秒)

内容としてそこまで重苦しくはないが、とにかく長い。音響が他の作品にも増して酷く、ファインレイ物語ほど超展開が続く訳でもないので、彼のファンでなければ中盤で退屈に感じるかもしれない。
特筆すべきは主人公の可愛さ。伊勢田作品にしては珍しく控えめな性格で、長編らしく成長物語が観られる。あとサービスシーン比較的多め。脚本の出来はいつもどおり。つまり素晴らしい。長さと音響だけがネック。

4.エンジェルプディング(75分24秒)

1時間15分と、最長クラスの一作。
この作品を一言で言い表すとするならば、「衝撃」。怒涛のどんでん返しが十八番の伊勢田作品の中でも飛び抜けて衝撃的な展開が待っており、生放送時はコメント欄もあまりの衝撃に思わず絶句していた。二転三転では済まさないデンプシーロールをお楽しみあれ。
シリアス要素が強く、この長さなので、文句なしで上級者向け。ただ話としてはめちゃくちゃ面白い。これを観ないのは間違いなく損。


まだまだ紹介できていない作品もあるけど、とりあえずパッと浮かんだ名作はこのあたり。再度言いますが、本当に、見てくれ。なんでもするから。今どうせ皆さん外出自粛中でしょう?一回きりの人生、二十年以上をアニメ制作に孤独に捧げ続けた男の作品を見ずに終わるなんてもったいなさすぎる。暇ならこの期間中に伊勢田作品を観て、人生の実績を解除しよう!


おまけ

伊勢田勝行氏はそもそもはアニメーターではなく漫画家で、「自分の漫画をアニメ化すれば箔が付くだろう」という思いで自らの漫画をアニメ化し続けている。ということは当然すべてのアニメには原作が存在するということで、それらは「伊津原しま」の名義でマンガボックスというサイトにアップロードされている。まだアニメ化されていない作品も大量にある。中にはアニメ版とはオチが異なる作品もあるので、ファンの方は必見。

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