篠澤広は何者か

学マスちょっとだけやった。噂の色白のガキa.k.a.篠澤広ルート(ルート?)。
ゲーム性がStSというのはマジでしたね。ていうか完全に寄せている。ショップ、レリック、毒、筋力などすべての概念が名前を変えたに過ぎない。そういう意味ではコツを掴みやすくはあった。周回前提だけど。
一番気に入ったのはレベルによってアイドルの歌唱パターンが変わること。事前に情報として知ってはいたけど、せいぜいウマ/ヘタの2パターンくらいだろうと思ってたらかなり細かくバリエーションがある。イイネ。

で、肝心の篠澤さんですが……イイネ・ 事前情報がマジで色白のガリガリのマゾという以外なかったんですが、蓋を開ければ……まぁ、そんなに間違ってはないけど。まるっきり正解でもないな。彼女は別に被虐趣味じゃないですね。成長することに対する快楽が人より強いだけ。これをマゾと呼ぶなら円堂守やキホもそうなってしまうよ。
彼女を理解するうえで一番重要なバックグラウンドは最初のプロフィールですでに提示されている。「14歳で海外の大学を卒業した天才」であるということ。これだけで大枠はもうこれ以上ないくらいわかりやすいと思うんですけどね。今までの人生で、その頭脳的才覚故に労せず物事を解決できて「何をやってもうまくいく」状態にあったからそれに辟易してしまった。だからあえて自分が一番向いてなさそうな世界に挑戦して、挫折や成長を味わいたい、というきわめてシンプルな動機。ほとんどの要素においてはこれで説明がつく。無論説明がつかない部分もあるのでそれは後述するが。ようするに貧乏生活に憧れるお嬢様キャラのようなもの。それが才能と努力に変わっただけ。「苦しくて幸せな日々」という言葉がそれを裏付ける。うまくいくことが平常であった彼女にとっては、うまくいかないことは幸せなのです。
彼女のもうひとつの特異(に見える)点は、成功時の反応。「……ふう」というもの、つまり失望の溜息。ここのメカニズムは、以下のダイアログを参照するのが一番わかりやすい。



ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている。
篠澤は苦痛が好きというより「順調フォビア」とでも言う方が近くて、望みどおりうまくいくことへの倦厭の副反応として成長に伴う苦痛を愛している。別に彼女は成功が嫌いなわけではない。それは成長の先にあるものだからだ。しかし同時にそれは成長レートの低速化を意味する。彼女はそれを知っており、喜びと失望を同時に(あるいはとても速い切り替え速度で)味わっている。
それを裏付けるのがこのダイアログ。「プロデューサーに褒められて、とっても嬉しい……」→「……ふう。」です。この気持ちはどちらも嘘ではない。褒められて嬉しいんです、彼女でも。ただそれがもたらす次の結果を知っているから即醒めるだけ。ふつうの人でも、いくら褒められた瞬間は嬉しいと思っても数日もすれば(少なくとも意識の上からは)その時の感情はほとんど消え去っているだろう。篠澤の場合、その消え去るまでの速度が他の人よりもだいぶ速いというだけで、性質自体はべつに異常ではない。私自身も似たきらいがあるから共感できる。
最後の要素。プロデューサーに対する気持ち。「失望させないでくださいね」を「一番欲しい言葉」と呼んだり、呼び出された時に契約解除されるのではないかと期待したり、自分を低く評価してくれることを歓んだり。これは、正直私も解釈に苦しむ部分はある。最後のはそこまで難しくない。そもそも自分が平常として過大評価されていると思っている人間(≒インポスター症候群)は、自分を低く見積もってくれる人に出会うと「私のことをわかってくれている」と思いたいへん喜ぶ。現実にもよくあることだ。ただ、「見限られる」ことに対する羨望は今まで述べてきたどの要素でも完全な説明はつかない。いちおう説はいくつか出せるが、個人的にはいずれもまだしっくりきていない。大別すると冷笑主義説と破滅願望説になるんだけど、どちらもあまりしっくりこないというか、どちらだったとしてもそれを公然にするタイプには見えない。そう、公然にしているというのが肝です。公式設定において天才である彼女は、プロデューサーとのコミュニケーションにおいて見限られ願望のようなものを公然と伝えている。これが私を惑わせる。
篠澤は被虐趣味ではないと言ったが、実際の所、彼女は被虐趣味と順調フォビアと破滅願望が微妙なバランスで複合されて出来上がっているのだと思う。いずれかひとつに専有されているということはありえない。
総じて苦しいことが好きというよりは「うまくいくことが嫌い」が行き過ぎたキャラだと思っている。印象的だったのは、試験合格時、プロデューサーにどうだった?って聞いて「評価は特に変わりません」と言われた時、「そうなんだ。頑張ったのに……」と落ち込む様子を見せていたこと。これは、篠澤広をただの被虐趣味と単純化してしまえばありえないセリフだ。いま書いていてなんとなくわかったが、彼女はネガティブな言葉こそが他人の本心であると信じ込んでいる節があるのではないか。つまりおべっかやおためごかしに飽き飽きしていて、痛烈であっても常に本気のフィードバックが欲しい。だから手毬にも辛辣な意見を求めた。これは言い換えれば、彼女にとっては「本気の意見」が欲しい、に近い。プロデューサーに対してもおそらく同様で、彼とのファーストコンタクトで「アイドルに向いていない」と言ってもらえたことが彼女にとってはかなり信頼を寄せるに値する出来事であったのだろう。あの幻想を忘れられず、プロデューサーが自分に遠慮して痛烈な本気の意見を隠しているのではないかと常に疑っており、また期待している。冷笑主義説よりも破滅願望説よりもこっちの方がしっくりくるな。総じて錯誤してはいるものの動機は純真である。


かくして彼女の大きな3つの要素を私なりに解釈した。これだけやれば充分でしょう……。手持ちの情報からの推論としてはね。まだTrue行ってないんで全部ひっくり返る可能性もありますけど。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?