【なごめぐSS】君と、だから

ネオンが輝く夜の街。
はあ、と名護は思わず深いため息を漏らした。
苦労して練りに練ったデート計画だったが、その殆どが計画通りに行かずズレ込み、あげくディナーも食べ損ねてこの様だ。
なのに腹立たしいほど恵は楽しそうににこにこと笑って俺の前をスキップして進む。

「なんて顔してんの」

恵が俺の顔を覗き込んで言った。

「せっかくのデートなのに」
「そのデートが上手く行かなかったんだ。こんな顔になって当然だろう」
「あたしは楽しかったけどな」

そう言う恵の気持ちが心底分からない。そんな俺の気持ちを察したのか、恵は苦笑いして続ける。

「計画通りにデートをすることが大事なんじゃなくて、“誰と”デートをするかが大切なの」

わかる?といつもの俺を諌める調子で言う。

「どこに行ったって……名護君と一緒じゃなきゃ意味ないの。」

そうぽつりとこぼした恵は照れくさそうに俯いた。

……そうだ。確かに、そのとおりだな。

「…君の言うとおりだ。」

そう伝えて微笑むと恵は嬉しそうににっこりと笑った。

…人通りの少ない、川沿いの道。
街の明かりが川に反射してきらきらと輝く。
思いがけずロマンチックになったこの瞬間に感謝して、俺は恵の腰を引き抱き寄せた。
びっくりしている恵を見つめると、恵の瞳にも夜景の光が反射してきらきらと輝いていた。

……きれいだな。

素直にそう思った。

「恵」

小さく名前を呼ぶと、恵は何も言わずその瞳を閉じ、俺はそっと彼女のくちびるに口づけた。
…触れるだけの口づけ。そっと顔を放すと惚けた恵の顔。物足りなさそうな表情に思わずにやけてしまう。

「続きは後でな」

そう囁くと恵は恥ずかしそうに俯き、「もうっ!」と、照れ隠しに俺を突き飛ばしずんずん歩いて行く。

「その前にいつものお店で焼き魚定食なんだから!」
「…焼き魚定食か…」

色気も何もないなと呆れる。

「何よ、悪い?」
「…いや」

だが、俺たちらしいな、と笑って先行く恵を追う。
何より、愛する人と一緒だから。