Hitomi Moriwaki「Subtropic Cosmos」

2022年配信にてリリース。レコードも出るらしい。
幾何学模様というサイケバンドのメンバーが運営するGuruguru Brainというレーベルからのリリース、幾何学模様のメンバーのHideki Urawaがプロデュース、とのこと。
サウンドのほうは、直近の短編ズやひとみナルド、森脇ひとみのサウンドクラウドなどをチェックしている人なら馴染みのある、電子音の飛び交う浮遊感のあるサウンド。


1. Yu Yu Familia
アフリカンなリズムに電子音とチャイナっぽい効果音が絡む。耳の奥から聴こえてくるような、宙を漂うサウンド。


2. Numbers
ループされる音に音が重なり、数字の波に溺れるようにどんどんカオスが広がっていく曲。

3. Song for My English Lesson
短くて小気味のいいポップな曲。確かこれは一時期英語を勉強していて、そのために作った曲だとブログかyoutubeで言っていたと思う。英語を勉強するのにまずテーマ曲を作るという発想が素晴らしい。ちなみに英語の勉強はすぐにやめた様子。森脇ひとみのブログは定期的に「今日から〇〇をする!〇〇になる!」と宣言しては、三日後ぐらいにやっぱりやめたと記してあり、自分の知る限りそれを何年も繰り返していて、もはや様式美のようでほんとうにおもしろい。本物のミニマリストって彼女のことなんじゃないかとすら思ってしまう。

4. Torch
アンビエントチックな内省的で深く沁みてくるサウンド。呟きのような、ざわめきのような声や序盤に奥で鳴っている電子音が心地良い。

5. Sunny Day
ドリームポップのような曲。タイトル通り晴れた日にまどろんでいるような、あるいは白昼夢をみているよう。

6. Fever
なんとも表現しがたい、とりとめのない曲。タイトルから見れば、熱にうなされてるような感じにも聴こえる。

7. Rpg
軽快でコミカルでもあり、不気味でもある曲。途中で呪文を幾つか唱えているが、効きそうな気は全くしない。

8. Rainforest
Rainforestを描いた淡い水彩画のような、あるいはそのサウンドトラックのようなインスト曲。

9. Adventure
軽快なダンスミュージック。打ち込みで作ったダンスナンバーなのに、どうしても手作り感があるのがこの人の凄いところだ。「四季折々の色々」という色々で済ませてしまう雑な歌詞も(たぶんその前の「色とりどり」と韻を踏んでるだけだけど)らしくてすごくいい。


10. Goo Choki Per
Adventureから流れで続く発展したアウトロのような曲。

11. Water Fowl
音響派のような、アンビエントでスタイリッシュで美しい曲。

12. Mini Mini
ポップなDIYヒップホップ。ずっと耳に残る中毒性のある曲。

13. Living
おどろおどろしい曲調だけどふわふわした浮遊曲。

14. The Sun
エンディングにふさわしい締めくくり感を感じる。アニメのエンディング曲のような、穏やかで心に沁みる幕引き。


素晴らしいアルバムでした。Subtropic Cosmosというタイトルの通り、アフリカや東南アジア辺りの民族的なビートが時折流れ、宇宙へと広がっていくような精神世界。こう書くとスピリチュアルやオカルト方面の香りがしてきそうだが、全然それを感じないのは、本人の持ってるどこかぎこちない人間臭さだったりユーモラスな感覚だったりがあるからなのだろう。
日常的な物事が未知なる感覚世界へと広がっていくという意味では、尾崎翠やその第七官界彷徨辺りもふと想起した。ほんとはイカレヤロウなのにおとなしい少女幻想的なイメージを持たれがちなとこも尾崎翠と似てるかもしれない。
ともかく初期短編ズからサウンドは常に変化しているけれど、根っこはずっと変わらず、ついつい惹き込まれてしまう森脇ひとみの音楽の魅力はいまも健在。初めて短編ズを聴いた時、これはパンクなんだって直感的に思ったのだけれど、その印象のまま、永遠の初期衝動というか、いびつで未完成なその形こそが完成形とでもいうか…。ずっと下手っぴでへなちょこで、だけどハッとさせられる瞬間が幾つも散りばめられている。
この人は魔法を使えるんだってずっと思っていたのだけど、その魔法にいまも掛かりっぱなしです。こんなふうに思うのは短編ズと滝沢朋恵くらいだけど、滝沢朋恵はすっかり姿を消してしまったし、短編ズや森脇ひとみも頻繁に活動はしなさそうですが、たまにでもいいからこうやって新たな作品を聴けるのはありがたいことだ。
まあ森脇ひとみはyoutubeやブログもおもしろいし、たぶん日常が、というか人間そのものがおもしろい人なんだと思うので、今後も追っていきたいと思います。

余談ですが森脇ひとみのyoutubeで印象に残っているのがあって、彼女がムーミンのゲームについて長々と語っているとき、たぶん農場ゲームみたいなやつだと思うんだけど、そのゲームは収穫待ちとかで待ち時間が必要で、そのあいだに人生を生きる、ムーミンのゲームの待ち時間に自分の人生を生きるって思ったら人生がちょっと楽になった、というようなことを言っていて、それが素晴らしいなと思った。どう言ったらいいのかわからないのだけど、なんか、そういうのって、すごくいい。



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