滝沢朋恵「私、粉になって」

滝沢朋恵は北海道出身のシンガーソングライター。クラシックギターを奏でて演奏される曲は繊細な感覚世界を描き、風変わりでありつつ記憶を呼び覚まさせる不思議で心惹かれる物語のよう。またCDでは伝わりづらいが、彼女の歌声はまるで霧のようで、一聴してインパクトを与えるものではないが気付けば声の余韻に包まれ魅了されてしまう。おそらく多くの人に広く聴かれるのではなく、限られた人に深く突き刺さるタイプのアーティスト。



滝沢朋恵「私、粉になって」

2014年NARISU RECORDSから発売された1stアルバム。
曇天の下に差し込む消えかかった光の筋を見ているような、あるいは部屋で読書中ふと顔を上げ、カーテンから漏れる光の筋で踊る埃に見入ってしまうような、ゆるやかな空気を纏った静かで淡い作品。感受性の塊のような作品ではあるが、一定の冷たさを保った作品にもなっている。それはきっと視点がどこか遠くて、物語の背後に置かれているからかもしれない。滝沢朋恵のライブではCDとは違う歌詞で歌うことも多くて、というかCDに収録されている音源ですら歌詞カードと歌詞が違うことがよくあるのだけれど、この作品で特に印象的だったのは「GYPSY」のなかで「私は私自身を探す」と歌詞カードに書かれている部分を「私は私以外を探す」と歌っているところ。ただこれは矛盾などではなくて、これは違うことでもあり同じことでもあって、物語を違う側面から表現したというだけの話。そんな語り尽くせない物語が幾重にも重なった作品。


1. とき
誕生と記憶と現在を当て所なく彷徨っているような曲。叙情的なギターの背後のキーボードの音色がときを進めるよう。


2. 知らない人
ゆったりとしたテンポで語り部のように物語を歌う曲。

3. 帰り道
アコーディオンの音色が昭和感を醸し出している曲。

4. ワルツ
ギターの旋律に惹き込まれていく曲。幻影のなかで踊っている誰かの姿を見つめているような映像が浮かぶ。


5. わすれもの
漠然とした歌詞なのでよくわからないが、残り香から記憶を辿っていくようにわすれものに思いを巡らせているような印象の曲。

6. 本の中
初期の代表曲。本の中の世界に入り込んで目を覚ますという本の中の世界というような多重構造に感じる曲。


7. おねがいごと
流れ星に願う誰かの曲。テルミンが星空の雰囲気を醸し出している。

8. GYPSY
砂漠を彷徨うジプシーの曲。ギターの旋律が耳のなかでいつまでも聴こえてくるようで印象的。

9. おわらない恋の歌
唯一現代っぽくて現実感のあるアレンジ。ラジオで流れる無数のラブソング、次から次へと流れるラブソングの一つという曲。


10. 曇った海辺
曇った海辺で流れていく雲をただ見つめているような、傍観者の視点のまま作品が閉じられる。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?