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高校生による引退馬支援クラファンに、高校生が意見してみる

注意 : この記事においては、競走用から肉用と用途を変更されたウマが屠畜に至るプロセスを、便宜上殺処分と記述している箇所がございます。定義(人間に危害を及ぼすおそれのある動物、または不要となった動物を殺すこと)とは異なりますが、一般的なメディアなどでも慣用的に使用されているものとして、ご理解頂けると幸いです。

こんにちは、こんばんは。印度孔雀です。

ちょっと今執筆していた記事があり、そちらの記事を優先しようとも考えていのですが、何やらTwitterで騒がれていることがあったようで。見てみると、乗馬クラブに通う高校生が引退馬の支援をクラウドファンディングで始めようとしていました。

私も引退馬支援に関心のある者として、この活動自体は素晴らしいものだと思いました。しかし、騒がれていること―競馬に携わっている方々への一方的な非難とも取れる説明文章には少し疑問を抱きました。

私自身も半年前から競馬を見始めた不束者の高校生に過ぎませんが、今回の件について思うことをちょっとだけ、述べていこうと思います。以下が、問題のクラウドファンディングです。


セールで売れ残った馬は処分されるのか?

まず、私を含めた多くの人が突っかかった部分であろう、

国内産のサラブレットは年間におよそ7000頭生産され、およそ半年でセリに出されます。しかし、そこで売れ残った馬たちは殺処分されてしまいます。

の記載についてです。

この件については、馬産や馬の取引に直接関わっていない人からすれば分からない点が多く、殺処分があるのかどうかという点について、私から断言することはできません。Yahoo!知恵袋などでは「食肉処分となる」ことを示唆する回答も多いですが、これは信用しきれない情報源です。

まず売れ残ってしまう要因としては、血統・脚の具合・体格などが挙げられると考えられます。例えば、上のいずれも良くなければ、オーナーさんが見つからない事もあるでしょう。

しかし、そんな馬をすぐに処分するということは有り得るのでしょうか。まだ実際にレースで走っているわけではないのに。

正解は...有り得ないですね。実際、セリで買い手の付かなかった馬からも名馬が誕生しています。
この高校生は、

馬業界ではあまり知られていない

という書き方をされていますが、まず詰めが甘すぎますね。主取り庭先取引については、何も調べられなかったのでしょうか?

主取りとなった競走馬には、安田記念などを制したリアルインパクトなどがおり、必ずしも買い手の付かなかった馬=素質のない馬になるとは限らないのです。また、日本国内においては、そもそもセリ市で取引される馬より、庭先取引で売買される馬が圧倒的に多いです。

このような流れや背景があることを理解していれば、セリで売れ残ったがすぐに殺処分されることは基本的には少ないと考えて良いと思われます。


ただし、例外として生産していた牧場が倒産・解散してしまった場合、未デビューのまま行方不明になってしまうケースもあります。オルフェーヴルを父に持つスイープトウショウの2015は、トウショウ牧場の解散後、残念ながら行方が分からなくなっています。スイープトウショウも2020年に亡くなってしまったため、伝説の池添殺しの気性難の2頭の産駒が見れないのはとても悔やまれますね。

引退馬の処遇について

続いては、このクラファンの主題である引退馬についてです。

引退した競走馬がどうなるか。ウマ娘による競馬ブームもあるのだと思いますが、昨今の競馬界の課題として議論が盛んになっています。

Twitterでは、セリで売れ残った馬と同じように、引退した馬もすぐに殺処分されることはないという主張が散見されました。ただし、これについては現実問題として起こっていることだと言って良いと思います。

先日のABEMAでは、生放送で引退馬のその後について議論されていました。引退馬協会の沼田氏、競馬評論家の花岡氏、競馬ファンで知られるカンニング竹山氏も出演しており、なかなかの熱い議論になっていました。当然、その中でも引退馬の食肉処分(屠畜)に関する話題が出てきており、屠畜となった馬の使用例として、馬肉(馬刺しやペットフードなど)、馬皮(衣料品やランドセルなど)、馬油(シャンプーなど)が挙げられていました。

同番組内では、この引退馬の処遇について、「競馬ファンがタブーとして目を瞑ってきた」ことが原因であるとも言われています。これには確かに筋が通っており、競馬ファンが意識して、早くから引退馬支援について声を上げていれば何かが変わっていた可能性もあるのかもしれません。

少し話が脱線してしまいました。このように、馬の屠殺は実際に行われていることで、それを悲しいことと捉えるか、仕方の無いことと捉えるかは人それぞれでしょう。ですが、最近のオーナーさんは引退した所有馬が余生を過ごせるよう努力される方が多いですし、「メイショウ」冠名で知られる松本氏のようなベテランのオーナーさんのように引退馬の余生を探ることに積極的な方もいらっしゃります。このクラファンの説明文章中には

競走馬として使えない理由で馬主さんが競走馬を手放すケースがほとんどです。

という記述が見られますが、これは上記のようなオーナーさんも多くのいらっしゃるというのに、「ほとんど」と一括りにしてしまうのは大変失礼な書き方なのではと思います。

また、屠畜処分が決まった馬についての記述で、

ほとんどの馬は馬喰(バクロウ)という業者に渡すことになります
馬喰とは、行き場のなくなった馬をお金を払って引き取ってもらう業者です。
馬喰に預けた後は馬喰が馬を処理、管理をすることになります。
そこでほとんどの馬が肉にされるか殺されるかです。馬喰に渡された馬の中で生き残る馬は多くはありません。

という項がありましたが、私はこの書き方にも疑問を抱きました。この職業は、決して馬を殺すために存在している訳ではなく、その肉を出荷し、日本の畜産業を動かすために存在しているわけです。本筋は、私たちが普段食べている牛、豚、鶏を解体し、食卓に届けてくれる方と変わり無いのではないのでしょうか。

...ですが、この書き方では、馬喰の職についてネガティブに述べているように見られてもおかしくありません。確かに、走らなかった馬が人間の都合で殺されてしまうのは可哀想かもしれません。ですが、だからといってその馬に手をかける人を批判するのは筋違いだと考えます。畜産業者の方には最期まで馬に愛情を持って接される方もいます。

そして、そのような方がいらっしゃる事で、馬の生産頭数と、死んでいく馬の数が均衡になるのです。仮にすべての馬が救われたとすれば、それは素晴らしいことでしょう。ですが、毎年馬が生まれ、毎年馬が引退していきます。そのような状況で、すべての馬が救われるようになれば、いずれ多くの牧場がパンクし、最終的には馬産に影響を及ぼし、それが競馬開催にまで繋がる恐れもあります。そうなってしまえば元も子もありません。

馬は経済動物です。重賞を勝ったような馬が行方不明になってしまうのは悲しいですが、その強さで命に貴賎がつけられてしまうのは倫理的にも正しいこととは言えません。可哀想だから処分するな、と言うのであれば、豚や牛や鶏も食べないことが道理となります。

私たちは、馬を処分する馬喰の方を非難するのではなく、馬の命の循環という形で競馬開催を支えて下さることに感謝すべきなのではないのでしょうか。

終わりに

さて、ここまで長々とこのクラウドファンディングについての所見を述べていきました。かなり批判的にはなってしまいましたが、個人的には、高校生という年齢で、実名を出して、引退した馬を救いたいという思いを行動に移したという点は素晴らしいと思っています。クラファンとはいえ、なかなか行動に移せることではないと思いますし、その点については、同じく引退馬の余生に関心のある高校生として嬉しいことでした。

ですが、競馬関係者が引退馬に対してあまりにも関心がないとも読める書き方や、馬の屠畜処分についてのネガティブな書き方については、やっぱり見過ごせない点があると思います。申し訳ないですが、私はこのクラウドファンディングには寄付することはできません。

引退馬の力になりたい、そう考える方は、やはり引退馬協会様のフォスターホースの支援者(フォスターペアレント)になることやTCC様への入会や寄付することが手っ取り早いのかな、と思います。詳細は以下の参考リンクの項から飛んで読んでいただきたいですが、いずれも引退馬の余生を繋ぐための活動実績があり、信頼できる機関と言えるでしょう。

最後になりますが、この高校生が、引退した競走馬を救う上で何が大事なのか、何を考えなければならないのか。それらを今一度検討し直した上で、適切な行動を起こせるように、ただ非難するのではなく見守ってあげることが大切なのではないのでしょうか。私自身も、この活動の進捗を定期的に見ていこうと思います。

それでは次の記事でお会いしましょう。印度孔雀でした。

参考リンク

【セレクトセール】売れ残りの馬から活躍馬が出るか。
「走れなくなっただけでお肉にしてしまうのはもったいない」馬刺し・家畜の餌になるケースも…競走馬、年間1万頭の“余生”を考える (ABEMA Prime)
第3回「生かすことが幸せなのか」(「今日もどこかで馬は生まれる」引退馬支援情報)
馬の屠畜・肥育・家畜商 松林要樹『馬喰』より
認定NPO法人引退馬協会
引退馬ファンクラブTCC

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