いま学びつつあること

世界中でいま立ち向かっている新型コロナウイルス。
なかでもイタリアはかつてない困難にあって、
バルコニーに出て歌ったりする陽気さが話題になるなか、
現状はあまりに残酷です。

そんななか、イタリアのある人気トーク番組司会者ファビオ・ファツィオ Fabio Fazioがレプッブリカ紙に寄せた記事があります。

ファツィオさんは、誠実で温和なイメージ。カリスマ司会者とかでは全然なくて(番組の成功をみればまさにカリスマ的手腕なのでしょうが)、いかにも「いい人」といった印象のひと。

そのファツィオさんが書かれたのが「いま学びつつあること Le cose che sto imparando」。
https://www.repubblica.it/cronaca/2020/03/16/news/le_cose_che_ho_imparato-251384470/

この記事は、バチカンのフランチェスコ教皇が「彼の書いたことは真実だ。私たちのふるまいはつねに他の人たちに影響を与える」とおっしゃったことで、さらに話題になりました(教皇のこの発言も、おなじレプッブリカ紙のインタビューという「忖度」はちょっとあったかもしれないけどね)。

いまとてつもない困難な日々だからこそ、今まで気づかなかったこと、考えたことを率直に記しています。

ふむふむと思って訳してみることに。

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「いま学びつつあること」

自宅隔離が教えてくれること。
整理整頓してみよう、家の戸棚のなかとかタンスに眠ったままの服のポケットのなかだけじゃなくて、自分自身のなかを。

とてもきびしい日々がつづいているけれど、だからこそ私たちは皆、ことばの持つ力や、ささやかだけど大切な日々のあれこれといった、ふだん当たり前にあると思っていたものについて、よくよく考える機会を得たのではないだろうか。

私たちが目の当たりにしているのは、これまでになくきびしい、そして思いもよらなかった試練のとき。それでも恐怖をわきに置き、もしくは、きちんと取り除いて、自分のなかに学びを得る訓練をしていれば、ここからよりよい形で脱出できると思う。私たち自身を見つめ直すために。自分の心に耳をかたむけ、他者から学ぶために。そしてなにより、再始動に向けてものごとを整理整頓するために。
そこで私は、よりよい日々がやってきたときに役に立つであろう訓練を提案したい。その日は必ずやってくるのだから。

日々のなかで学びつつあることを、みんなで一緒に、書き出してみよう。たくさんある。言葉の数ほど、ほんとうにたくさん。

1.ほんとうに大事なものがなにか気づくために、自分にとって価値あるものの順番を改めて考えてみよう。
2.すべてにかたがついた時、1で決めた順番をしっかり守ること。
3.まちがいなく重要なのは、好きな人のそばのいること。我が子を抱きしめることより大事なことはなにもない。
4.地球や生態系との繋がりにいまいちど想いを致さなくちゃいけない。そのバランスを尊重することでのみ、私たちは守られ生かされるのだから。
5.ときに人間の意思にそぐわないこともあるのだとわかった。私たちは全能じゃないんだから。
6.私たちはいくつかの言葉や考え方をあまりにも拙速に放り出してしまっていたけれど、その価値にあらためて気づかされる。たとえば社会福祉国家。もうひとつ例をあげるなら、連帯。
7.税金を納めないひとは単に違法行為をしているだけではない、殺人といった重罪に加担しているのも明らかになってしまった。病院のベッドや人工呼吸装置が足りないとすれば、彼らのせいだから。
8.もうどんな形であれシニズムは受けつけないことにした。これほどまでにきびしい時期には、とにかく愛し合うこと、おなじことを分かち合っていると思えるのがいい。
9.言葉のもつ力は神聖なものだと確信している。
10.重責や政治を担っている人たちには、自分が統治しているものごとにもっと備えるよう、強く求めていくつもりだ。
11.手を握り合うのは大切だと学んだ。
12.手を差し伸べなければならないと学んだ。
13.私たちはネット上だけでなく、本当につながっていることを学んだ。
14.国境なんてものはなく、わたしたちはみな同じ船に乗っていることがわかった。
15.私たちはみな同じ船に乗っているのだから、港はすべて、そして誰にでも、開かれているのがいい。