人生という鉱山を掘り当てにゆく者たち

某雑誌より

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編集長コラム ピエル・ベルゴンツィ

もはやほんとうの自転車大使と言っていい。それだけではない、自転車への愛を説いて回る福音者だ。ジョヴァノッティことロレンツォ・ケルビーニ。私たち二輪の愛好者なら誰もが羨むアドベンチャーで、かれは旅への情熱、そしてペダルを踏むことへの情熱を爆発させた。今年の始め、チリからアンデス山脈を越え、ブエノス・アイレスまで風のように自由に疾走した40日間。永遠に続くかに思える道、現実とは思えない村々、犬やリャマたちのあいだをゆく4,400キロだ。1月13日に出発したのは、友人だったマルコ・パンターニ*へのオマージュとして、かれが生きていればちょうど50歳になる日だったから。そしてちょうどいいタイミングで故郷コルトーナに帰り着き、それからこの長い外出禁止令のあいだ家にこもるしかないものの、思い出となってゆく記憶のカケラをじっくり味わうこととなった。数え切れないほど自身へ問い続けたこの旅の話は、ドキュメンタリーフィルムとなって(とにかく素晴らしい!) Raiplay*で16回にわたってみることができる。番組タイトル「Non voglio cambiare pianeta (私は星を変えたくない)」は、パブロ・ネルーダ*の詩「怠け者」から拝借している。

今日は《私たちの》ジロ・ディ・イタリア*が始まるはずだったのもあり(10月に延期された)、私たちは《かれの》ジロについて語ろうと思った。私たちのためにそれをしてくれるのはファビオ・ジェノヴェージ。ジョヴァノッティとは同じトスカーナ出身、パンターニへの愛もわかちあえる作家だ。サイクリング、音楽、旅……ファビオとロレンツォは、人生の鉱山を掘り当てにゆく孤独な探求者という同じ種族に属している。出会うべくして出会ったふたつの美しき魂だ。そして、かれらの出会いから、本誌の巻頭インタビューがうまれることとなった。きっとロレンツォの冒険から高く飛ぶためのヒントを得ることだろう。ジョヴァノッティが旅のドキュメンタリーフィルムの最後に引用した、セプルヴェダの猫ゾルバ*が言うように「飛ぼうとするものだけが飛べるのだ」から。ロレンツォがよく何度も言っていた。サイクリングは音楽のようだ、自由を感じさせてくれるし、自然の詩情に調和させてくれるのだと。それではここで、より心に残ったフレーズで飛び出すとしよう。「もし人生が旅だとすれば……ぼくは自転車でいきたいね」

「ラガッツォ・フォルトゥナート*」ロレンツォ・ジョヴァノッティ。チリ─アルゼンチンの自転車旅行を苦しみながらも楽しんだ53歳。40日間、4,400キロ、ペダルを漕いだ。

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*訳注

マルコ・パンターニ
絶大な人気を誇る自転車ロードレーサー選手。2004年、34歳の若さで亡くなった。

Raiplay
イタリアの国営放送Raiのストリーミング放送チャンネル。

ジロ・ディ・イタリア
世界三大自転車レースのうちのひとつ、イタリアで行われる。主催社であるスポーツ新聞の紙色からバラ色(rosa)がテーマカラー。本誌はそのガゼット・デロ・スポルト紙が発行する週刊誌。

パブロ・ネルーダ
チリの国民的詩人。ノーベル文学賞。イタリア亡命時代がイタリア映画「イル・ポスティーノ」になった。

セプルヴェダの猫ゾルバ
チリ出身の小説家ルイス・セプルヴェダ。今年4月に新型コロナウイルスにて死去。猫ゾルバは『カモメに飛ぶことを教えた猫』の主人公。

ラガッツォ・フォルトゥナート
ラッキー・ボーイの意味。ジョヴァノッティの人気曲タイトルから。