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「タ・ティ・トゥ・テ・ト」?

 日本語のた行と言えばご存知、「た・ち・つ・て・と」ですよね。でも、この5つの音の中に「異音」、つまり少し質の違う音が混じっていないでしょうか・・・・ 「ち」と「つ」です。

 た行の音は、基本的に舌を上顎ウワアゴのどこかに付け、離す時の吐く息で出す音なのですが、実は接触させる場所や舌の使い方が微妙に違うのです。細かく分けると、次の3種類の音が含まれています。
1)ちゃ・ち・ちゅ・ちぇ・ちょ
2)つぁ・つぃ・つ・つぇ・つぉ
3)た・てぃ・とぅ・て・と

 聞きなれない専門用語で恐縮ですが、上顎に接触する舌の位置によって、1)歯茎硬口蓋破擦音(=ちゃ行)、2)歯茎破擦音(=つぁ行)、そして3)歯茎破裂音(=た行)という名前が付いています。

 また、ある学説によると、奈良時代以降のた行の発音は、3)た・てぃ・とぅ・て・とだけだったされています。例えば現代語の「土(ツチ)」という言葉は、当時は「トゥティ」と発音されていたことになる訳ですね。

 もっと興味深いことに、現代語の「は行」は大昔、奈良時代には「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ」だったと言われています。実は平仮名の「は・ひ・ふ・へ・ほ」の元々の漢字は、「波・比・不・部・保」です。しかし、この漢字が中国から渡ってきた当時、ご本家の中国語では【pa】【pi】【pu】【pe】【po】と発音されていたという文献が残されているそうです。
★ちなみに現代中国語では、これらの字はすべてBの音、つまり「ば・び・ぶ・べ・ぼ」です。

 さらに室町時代になると、このぱ行がふぁ行へ、つまり「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」へと変化します。この頃書かれた本の中に、「母には二度会うけど、父には一度も会わないもの、なぁ~に?」というなぞなぞが収められていますが、その答えは「唇」。母はこの当時「ファファ」という発音でしたから、母は唇が2回触れる、一方の父は1回も触れないのです。
★ただし、実際には前歯と唇では?という疑問はミステリーのままのようです。
★本とは、後奈良院御撰何曾(ごならいんぎょせんなぞ)という、日本最古のなぞなぞ本です。

 その後迎えた戦国時代(=江戸時代の少し前)、ポルトガルの宣教師たちが欧州に向けて発信した日本語指南の教科書や辞書の中にも、五十音のは行(=当時のふぁ行)はやはり「fa/fi/fu/fe/fo」と書かれています。例えば、日本ならNifonですよね。現代語の「は・ひ・ふ・へ・ほ」の音が定着してきたのは、江戸時代も半ばに入ってからだそうです。

 それ以外にも、大昔の「つぁ・つぃ・つ・つぇ・つぉ」が変化して現代語のさ行になったとか、例の宣教師たちは「さ・し・す・しぇ(xe)・そ」と紹介していたとか、奈良時代には母音が8個もあった割に、その前の古代日本語の母音は逆に3~4個と少なかったとか、日本語の音も実に様々な変化を経ているようです。しかも、昔の標準日本語の発音とは、おそらく京都や奈良の言葉だったはずですよね。

 各時代によって、現代語の発音とは違う「音」が数多く存在していたのかと思うと、先人の方々の日本語を聞いてみたくなります。実際にYouTubeでも、恐らくAIが作ったと思われる音声がいくつか見つかるようです。この種の話、まだまだ面白い情報を提供してくれそうです。

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