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欲しいですか?2

 下記の話は、以前「欲しいですか?」の中で挙げたあるエピソードです。    https://note.com/inasena_nihongo/n/n2e498eb9f4ab 

 ある日本語学校で、生徒が「先生、この宿題を明日までに(私に)提出して欲しいですか」と聞いてきたので、教師が「その言い方は失礼ですよ」と答えたそうです。するとその生徒、「明日までに提出して頂きたいですか」と言い直しました。何がどう変なのか、教えられますか?

  コンビニでヨーグルトを買うとき、スプーンは欲しいですか?と聞かれるとちょっと失礼だと思いますよね。実はこれ、「相手の欲求は尋ねない」ことが日本の文化的な背景にあるからです。上記の質問の答えは、(私は)明日までに提出すべきですか、提出はやはり明日ですか、が正解です。主語を自分やモノに置き変えてしまう訳です。

  他の例ですが、ある留学生が日本の著名な書道家を訪ね、その場で書いて見せてくれた作品に関して、「大変お上手に書けましたね~」と言いました。するとご本人や周りのお弟子さん達がとんだ苦笑い。尊敬するその書道家を心から褒めたつもりが、何故失礼に聞こえたのでしょうか。

 それは、相手の能力をその場で評価したり質問したりしないことが日本的なマナーかつ礼儀だからです。プロとして研鑽を積んだ書道家の作品が素晴らしいのは極めて当然のことです。例えば、ドイツ語の先生に「英語も話せますか」と尋ねるのも、何だかテストをしているようで随分馬鹿にしています。 

 このように日本では、敬意を払うべき相手の欲求、能力、心情、プライバシーに関わることを聞くのは失礼であるとされています。そのような場合は、私はこうすべきか(してもよいか)、作品が素晴らしいと伺った、などと伝えるとコミュニケーションがうまく行くのです。
★コーヒーをお淹れしましょうか。 ✕コーヒー飲みたいですか?
★パーティーにいらっしゃいませんか。 ✕パーティーに来たくないですか?
★何かお困りですか。お手伝いしましょうか。 ✕何がしたいんですか?

 また別の話ですが、最近「~して差し上げる」が失礼だという話をよく聞きます。これは相手を敬った「あげる」の謙譲語ですが、逆に、言わば上から目線で「欲しければくれてやる」のニュアンスに聞こえるそうなのです。どういうことでしょうか。

 例えば「皆さまに景品を差し上げます」など、誰もが期待することならば本来の敬意が伝わります。その一方、謝礼を~、〇円以上で割引券を~など、特に金銭・金品の類は相手を不愉快にさせたり、モノよりも行為で「してやる」感が出ると良くないのかも知れません。 

 ただ、普通に敬意を込めて言った「お電話またはメールを差し上げます」まで失礼だと解釈されてしまうと、何だか時代が変わったのかな?という印象を受けますよね。やはりコミュニケーションは難しいものです。

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