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Inahouseコラム: 「相似」

Inahouseコラム: 「相似」
さて自由研究の発表をさせてください。

中学で頂角36°の二等辺三角形を知った時も、『野生の思考』(レヴィ=ストロース)の元ネタがソシュールの言語学だと知った時も、世界の神秘に触れるときはいつも「相似」でした。
マジ∽ (=マジソウジ)
研究はまだ途中ですが、幾何学と野生の思考からの補助線を整理します。
アートにおいて「良い表現とは良い模倣のこと」なんて言ったりしますが、Inahouse的解釈だとそれは「相似を見つけること」といったんなりそうです。

[1]相似(幾何学)

「相似」(そうじ)とは、数学や図形において、形状が同じで、サイズが異なる関係を指します。具体的には、二つの図形が相似である場合、一方の図形を適切に拡大または縮小することで、他方の図形と一致させることができます。相似な図形は、対応する角度が等しく、対応する辺の比率が一定です。

相似の基本条件

  1. 対応する角度が等しい: 相似な図形のすべての対応する角度が等しい。

  2. 対応する辺の比が等しい: 相似な図形の対応する辺の長さの比が一定である。

相似比

相似な図形の対応する辺の長さの比を相似比と呼びます。例えば、二つの相似な三角形があり、一方の三角形の辺の長さが他方の三角形の辺の長さの2倍である場合、相似比は2:1です。

実生活での相似の例

  • 地図: 地図は実際の地形の相似な縮小版です。地図上の距離は実際の距離の一定の比率で縮小されています。

  • 模型: 建物や車の模型も実物の相似な縮小版です。

相似は数学だけでなく、日常生活や科学技術のさまざまな分野で重要な概念です。理解すると、多くの実際の問題を解決するのに役立ちます。

[2]相似の歴史

「相似」という概念の歴史は、古代から現代に至るまでさまざまな学問分野で発展してきました。特に数学においては、図形や数の関係を理解する上で重要な役割を果たしています。以下に、相似の概念の歴史を時間軸に沿って、主要なエピソードを交えて説明します。

古代ギリシャ

  • ユークリッド(紀元前300年頃): 古代ギリシャの数学者ユークリッドは、『原論』の中で幾何学の基本定理や概念を体系化しました。彼は相似の概念も扱っており、特に相似な三角形の性質について詳述しています。ユークリッドは、二つの図形が相似であるための条件として、対応する角度が等しく、対応する辺の比が一定であることを示しました。

17世紀

  • ライプニッツ(1646-1716年): ドイツの哲学者・数学者であるゴットフリート・ライプニッツは、数学記号の発展に貢献しました。彼は、相似を表す記号として「∽」を考案しました。これにより、相似関係を簡潔に表現する方法が確立されました。

18世紀

  • レオンハルト・オイラー(1707-1783年): スイスの数学者レオンハルト・オイラーは、幾何学や解析学の多くの分野で重要な業績を残しました。彼は相似の概念をさらに発展させ、相似な図形の解析において重要な定理や公式を導きました。

19世紀

  • カール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855年): ドイツの数学者カール・フリードリヒ・ガウスは、幾何学を含む多くの数学分野において重要な発見をしました。彼の研究は、相似の概念が幾何学における基本的な関係としての理解を深めるのに寄与しました。

20世紀

  • 現代数学と教育: 20世紀に入ると、相似の概念は数学教育の中で広く教えられるようになりました。相似の性質や定理は、初等教育から高等教育までの数学カリキュラムに組み込まれ、図形の理解や解析において基本的なツールとなっています。

まとめ

「相似」の概念は、古代ギリシャのユークリッドから始まり、ライプニッツによる相似記号「∽」の考案、オイラーやガウスによる幾何学の発展を経て、現代の数学教育において重要な役割を果たしています。この歴史を通じて、相似は数学における基本的な概念として確立され、図形や数の関係を理解するための重要なツールとなっています。

[3]思想、芸術においての相似の利用

相似の概念は、数学以外のさまざまな分野でも重要な役割を果たしています。特に文系分野やアートにおいては、相似は多様な形で利用されています。以下に、相似の概念がどのようにこれらの分野で使われているか、いくつかのエピソードを交えて説明します。

文学

  • ミメーシス(模倣): 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、文学における模倣の概念を「ミメーシス」と呼びました。彼の『詩学』では、文学作品が現実世界をどのように模倣するかが議論されています。ここでの「模倣」は相似の一形態であり、現実の人間の行動や感情を文学作品がどのように再現(相似)するかを意味します。

美術

  • ルネサンス絵画: ルネサンス期の芸術家たちは、自然や人体をできるだけ正確に描写することを目指しました。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなどの芸術家は、解剖学的な研究を通じて人体の構造を深く理解し、それを絵画や彫刻に反映しました。これにより、作品はより現実に近い(相似な)ものとなり、視覚的なリアリズムが追求されました。

  • 透視図法: ルネサンス期に開発された透視図法(パースペクティブ)は、三次元空間を二次元平面上に相似的に再現する技法です。これにより、絵画において奥行きや立体感が効果的に表現されるようになりました。

音楽

  • フーガ: バロック時代の音楽形式であるフーガは、テーマ(主題)が繰り返され、変奏される構造を持ちます。この過程で、主題が異なる声部やキーで再現されますが、基本的な旋律は保持されます。これも一種の相似といえます。

文学理論と批評

  • インターテクスチュアリティ(相互テクスト性): フランスの文学理論家ジュリア・クリステヴァは、テクストが他のテクストとの関係によって意味を持つという概念を提唱しました。これは、ある作品が他の作品との相似性や関係性を通じて意味を構築することを示しています。

人類学と文化研究

  • 構造主義: 前述のクロード・レヴィ=ストロースは、人間の文化や神話が共通の構造を持つことを示しました。彼の研究では、異なる文化の神話や儀式が、基本的なパターンやテーマにおいて相似的であることが明らかにされました。これにより、文化間の共通点や普遍性が理解されました。

建築

  • モダニズム建築: モダニズム建築では、形状のシンプルさと機能美が重視されますが、建物のデザインには相似形が多用されます。ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエの作品では、幾何学的な相似形が建物全体の調和と美を生み出しています。

映画と映像

  • 視覚的モチーフの繰り返し: 映画において、特定の視覚的モチーフやシーンが繰り返し使われることがあります。例えば、スタンリー・キューブリックの映画では、シンメトリカルな構図や特定の色彩パターンが繰り返し登場し、全体として視覚的な相似性を持たせています。

これらの例から、相似の概念が文学、アート、音楽、文化研究などの文系分野でも広く応用されていることがわかります。それぞれの分野で、相似は異なる形で表現され、理解を深めるための重要なツールとなっています。

[4]言語学と人類学の相似

人類学と言語学の関係を相似的に説明するためには、まずそれぞれの分野の基本的な概念と、レヴィ=ストロースがどのようにソシュールの言語学の影響を受けて文化人類学を発展させたかを理解することが重要です。

ソシュールの言語学

フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure)は、現代言語学の基礎を築いたスイスの言語学者です。彼は言語を「記号」(シーニュ)として分析し、記号は「シニフィアン」(音形)と「シニフィエ」(意味)の二重構造を持つとしました。また、彼は言語の研究を「共時態」(シンクロニー)と「通時態」(ダイアクロニー)に分けました。ソシュールの構造主義的アプローチは、言語をシステムとして捉え、各要素が全体のシステム内での位置や関係によって意味を持つことを強調しました。

レヴィ=ストロースの文化人類学

クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)は、フランスの文化人類学者であり、ソシュールの言語学から多大な影響を受けました。彼は、文化を分析する際にソシュールの構造主義的アプローチを取り入れました。レヴィ=ストロースは、文化を記号のシステムとして捉え、人間の文化や社会の背後にある基本的な構造を明らかにしようとしました。

人類学と言語学の相似的な関係

1. 基本構造の探求

  • 言語学: ソシュールの言語学では、言語は音形(シニフィアン)と意味(シニフィエ)からなる記号のシステムとされ、そのシステム内での構造的な関係が重視されます。

  • 人類学: レヴィ=ストロースは、文化や神話を一種の記号システムとして捉え、その背後にある普遍的な構造を明らかにしようとしました。

2. 関係性の重視

  • 言語学: ソシュールは、言語の意味は記号間の関係によって決まるとしました。

  • 人類学: レヴィ=ストロースも同様に、文化や社会の要素はそれぞれの関係性によって意味を持つと考えました。例えば、親族関係や神話の構造を分析する際に、要素間の関係性が重視されます。

3. 二重性の概念

  • 言語学: ソシュールは、言語をシニフィアンとシニフィエの二重構造で理解しました。

  • 人類学: レヴィ=ストロースは、例えば神話においても同様に表面的な内容(シニフィアン)と深層的な構造(シニフィエ)の二重性を見出しました。

4. 共時態と通時態

  • 言語学: ソシュールは、言語を共時的(特定の時点での構造)に分析することを重視しました。

  • 人類学: レヴィ=ストロースも、文化を共時的に分析し、特定の時点での文化の構造を明らかにしようとしました。

まとめ

レヴィ=ストロースは、ソシュールの言語学的アプローチを文化人類学に応用することで、文化や社会の背後にある普遍的な構造を明らかにしようとしました。このように、人類学と言語学は、記号のシステムとしての構造を探求し、要素間の関係性を重視する点で相似的な関係にあります。言語学が言語の背後にある構造を解明するのに対して、人類学は文化や社会の背後にある構造を解明しようとする点で、両者は共通したアプローチを持っています。

[5]ギャラリー

『Practice for Simirality 1』

『Practice for Simirality 1』(2024) by Inahouse

『Inahouse 2013』

寝室、リビング、キッチン&ダイニングそれぞれの小屋を作り並べる。
Inahouse 2013 ∽ 1LDK

『Inahouse 2013』(2013) by Inahouse

Golden Ratio (黄金比)

⊿ABC ∽ ⊿BCD

Golden Ratio (黄金比) ⊿ABC ∽ ⊿BCD


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