DX3rd「ATRI -My Dear Moments-」
◆トレーラー
昨日と同じ今日。
今日と同じ明日。
世界は繰り返し時を刻み、変わらないように見えた。
だが―――世界は既に終わっていた。
原因不明の海面上昇により、地表の殆どが海に沈んだ近未来。
失意の底にある義足の少年は、海の底で一人の少女と出会う。
「マスターが残した、最後の命令を果たしたい」
これは、一人の少年とロボットの少女が紡ぐ、忘れられない夏の物語。
ダブルクロス the 3rd Edition
「ATRI -My Dear Moments-」
ダブルクロス、それは裏切りを意味する言葉―――。
◆PC紹介
■PC①:斑鳩夏生
シンドローム:ノイマン/モルフェウス
ライフバス 出自:安定した家庭/経験:大事故/邂逅:初恋の女性/覚醒:渇望/衝動:恐怖
ロイス:キャサリン 推奨感情 P:連帯感/N:不信感
君は、最近故郷であるこの海辺の町に戻ってきた少年だ。君は幼い頃事故に遭い片足を失ってから、夜な夜なその時の光景を悪夢として想起している。その悪夢は君の精神を蝕み、それは結果として君の進路を閉ざしてしまった。そんな君にある日突然、キャサリンと名乗る女性が現れて言った。
「あんたの祖母の借金を取り立てに来た」
頭の痛い話だが、どうやら彼女には返済の当てがあるという。君は半信半疑ながら、彼女の話に乗ることにした。
主要エフェクト:《インスピレーション》《巨匠の記憶》他
■PC②:アトリ
シンドローム:ブラッグドッグ/ウロボロス
ライフバス 出自:人工生命/経験:記憶喪失/邂逅:PC①/覚醒:生誕/衝動:解放
ロイス:PC① 推奨感情 P:庇護/N:無関心
君は、PC①の手によって海底から引き揚げられたロボットだ。君はどういう訳か大部分の記憶を失ってしまっていた。しかし、覚えていることがある。自分が仕えていたマスターに、何か命令を与えられたのだ。
それがどんな命令かは全く思い出せないが、君は君である限り、その命令を実行しなくてはいけない。そのためにも、先ずは海底から引き揚げてくれたPC①に付き従うことにした。
主要エフェクト:《ハードワイヤード》《喰らわれし贄》他
◆プリプレイ「こんにちは太陽」
おはよう、オタク。ご機嫌如何だろうか。
妄言はこのくらいにして、ここからは「ATRI -My Dear Moments-」の感想をつらつらと書き連ねていきたく思う。ネタバレ全開で。
まだ遊んでいない幸運な君は、これから遊べる幸福を感じながら今すぐ購入するか私にDMでSTEAMのフレコを送るんだ。いいな?
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◆オープニングフェイズ「おぼろげな輪郭」
物語は、夏生が潜水艇サーペントアルバス号で、アトリを引き揚げるところから動き出す。夏生を新しいマスターとして認めたアトリは、とにかく終始可愛い。いやマジで可愛い。可愛いしかない。
アトリは作中でもそういわれる通り、ロボットとは思えない程感情豊かである。それは人間に親しみをもたせるためであるとして、夏生はその親しみやすさに絆されぬよう用心していた。
SF作品において人間がロボットに感情移入をすることで、人間やロボットがヒトとモノの挟間に苦悩する描写は私の乏しいオタク遍歴でも見かけたものである。角川から出版されているSF小説、『BEATLESS』もその一つだ。
アニメにもなった
社会の殆どを「hIE」と呼ばれるロボットに任せた近未来、ヒトを超える知能を得たAIが現れた。モノがヒトを超える知能を得たとき、その関係性がどうなるのかを描いたこの作品において、主人公はロボットの少女に恋をする。『BEATLESS』においてロボットに抱くそれらの感情は「人間の共感性が機械にハッキングを受けたようなものだ」とされ、ある側面において忌避されていた。夏生もまたそのように考え、アトリと必要以上の関係を望まなかった。
しかし、夏生はアトリに恋をすることになる。その恋心をアトリもまた受け入れ、二人は愛し合う恋人同士となった。ここから、物語は本当の始まりを迎える。
◆ミドルフェイズ「ハレーション」
アトリに、感情は存在しなかった。全ては模倣に過ぎず、ただ望まれる振舞いを望まれるがまま演じていたに過ぎなかったのだ。靴を貰って喜んでいたのも、星空の下キスをしたのも、全てはまやかしだったのだ。
かなり衝撃の展開だったが、数多の人工生命沼を潜り抜けてきた私は「まぁワンチャンあるかもな」と頭の片隅で考えていた。何とか踏みとどまったのだ。無表情アトリも可愛かったし。
などと下手な言い訳をしながら、チャプターも切り替わったのでセーブしようとした私は高らかに響く「セーブは大事です!」のシステムボイスにより死亡した。耐えきれるわけねぇだろ。
メーカーの意図した挙動かは兎も角として、夏生が感じていた虚しさを身をもって体感させられた気分だった。このゲームを起動したばかりのとき、私は「お、システムボイスあるやんけ!可愛い!」などと眠たいことを考えていたのだ。術中。この明るいコミカルなボイスも、そう望まれたからに過ぎないのだ。そうして私は死んだ。
私が死んでいる間、夏生も死んでいた。大好きだった恋人が実は人形ごっこでしたと知ればそりゃあ死ぬわ。当然である。しかし残酷にも時は過ぎ去り、アトリの機能停止の日は刻一刻と迫ってきていた。そういえば機能停止の話が出てきたのもこの辺りである。それと暴走の話も。展開が怒涛過ぎて情緒が追いついてこない。頼むからちょっと待ってほしい。私の情緒を置き去りにしたまま、物語はクライマックスを迎える。
◆クライマックスフェイズ「ごきげん戦闘ロボ」
戦闘である。敵はヤスダと名乗る男。ブラッグドッグのピュアブリードである彼が繰り出すエフェクトは、《バリアクラッカー》により装甲を無視しアトリを傷つける。
彼はアトリを生み出した科学者の弟子であり、暴走事件を引き起こしたアトリを酷く憎んでいた。《ハードワイヤード》により機械化された腕で、彼はアトリを殴りつける。
なんというか……
その……
下品なんですが……
フフ……
とか言ってたらアトリが暴走してヤスダは戦闘不能になった。散々殴られても平気な顔してたのに他の誰かが傷つけられると殺戮マシーンになっちゃうアトリ、可愛すぎる。一歩間違えるとここでバッドエンドです。きちんとハッピーエンドを見た後に空いてるCG画面を見て慌てて回収しに来た私はあまりの高低差にその下品なんですがフフ。
アトリが何故暴走したのか。それは「怒り」という感情を獲得していたからだ。そのことを自覚したアトリは感情を発露させ、ありったけの涙を流す。数十年分の「悲しみ」を爆発させた後には、心ある一人の少女が誕生していた。
◆エンディングフェイズ「希望の光」
終わりの時が近づいていた。
機能停止まで、もう幾ばくもない。
催されたのは、アトリの誕生会であった。彼女はそこで自らが築いてきたものを実感する。
アトリが過去の事件を引き起こした存在だと知っても、町の誰もがアトリのことを温かく迎えた。彼女が殺戮マシーンなどではなく一人の優しい少女であることを、誰もが知っていたからだ。
そうして、彼女は決意する。エデンの中枢へと自身を捧げることを。
「喜びを教えて欲しい」と願った少女は、「みんなを笑顔にしたい」と願った。誰かの喜びが、自分の喜びであるかのように。それは彼女が接してきた、温かな人たちから学習したことであったのだろうか。
アトリとは、渡り鳥の名であるという。
渡り鳥は生存のために島から島に移り住み、されどいずれは故郷に帰る。
どれほど遠く離れようと、自らの帰るべき場所を、自らのすべき使命を覚えている。たとえ記憶がなくなろうとも、その身が覚えている。
エデンに渡り、町に電気をもたらしたとき、アトリはその光を見つめていた。まるで、星空を眺めるように。
どれほど遠くに行こうとも、鳥は宇宙にいくことはできない。その星空に手が届くことは永遠にない。
されど故郷に戻った渡り鳥は、次代にその意志を遺す。
夏生はいずれ帰ってくることを約束し、「世界を救う」と誓う。
彼にとっては、アトリこそが世界の中心だ。
◆アフタープレイ「親愛なるあの日々へ」
世界は救われた。後は、次代がなんとかしてくれるだろう。彼はそう言い、故郷へ帰る。あの夏の、最後の一日を始めるために。
ATRIだが、全体の完成度が兎に角高かった。音楽やグラフィックは勿論のこと、それらを用いた演出のどれもが素晴らしかった。細やかな演出で織りなされる繊細なストーリーは、最早私の陳腐な語彙で表現するのも無粋だ。この記事は別にレビューでもなんでもなく、ただの私の感情の出力なので全てを放り出す無礼を許してほしい。
あんまり関係ないのですが、つい先ほどポチったサントラの特典でついてきたクリアポスターのイラストを見て欲しい。Amazonの、夕日に笑顔のCGである。
いやこの笑顔ヤバくない???????夕日バックで、この笑顔ですよ?しかもこれ、なんならこの時感情自覚してませんからね。いや、こう、こう、さ。ほら、いや、さ。作中でも言ってたけどさ。学習した笑顔がさ。こう、な。あー無理無理無理無理無理無理。トゥルーエンドのCGも夕日なのも併せて全部最高です。有難う。こんな神ゲーをつくってくれたメーカーと、勧めてくれた友に感謝。有難う……。
※補足:なんでダブルクロスなんだ
アトリは感情を模倣して夏生を裏切り、暴走し脱走して開発者を裏切り、夏生母はアトリを裏切った。ダブルクロスは裏切りの物語ですが、同時に絆の物語でもあります。ATRIも、同じことです。裏切りは清算され、紡いだ絆が世界を救う物語。
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