掌編いろは/い「色」
いつからあの色を見るようになったのだろう。思い出せない。
透明だけどうすくくすんでいて、やわらかそうだけど固く変化を嫌うようにも見える。たまに笑うけれど声は聞こえない。
色は桃の枝にポストの裏に電線の上にビルの壁に犬の背にあなたの肩の上にいる。たまに顔を覆われている人も見るが、視界を遮られていても気にもしないところを見ると、どうやら僕以外は見えていないようだ。
今日、色をひとつ持ち帰ってみた。とりあえず白い紙に乗せたところ、雪のように跡形もなく融けてしまった。色も残さずに。
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いろはにほへと…の題で書いた掌編です。