語る道

10月の新月の夜にだけ 
終わらない道がある 
 
どこまでも続く土は 
踏みならされた独特の固さをもち 
草原をさわさわと渡る風と 
ひんやりした星の明かりにつつまれている 
 
その夜はいつしか‘語りみちの夜’と呼ばれ 
夜を徹して語りたい者が自然と集まり 
満足いくまで道すがら話す場所になる 
 
友と語り合う者 
うしなった想いをこぼす者 
過去を熱弁する者 
 
その中で 
肩を並べた語らない影がふたつ 
 
満足したような 
うっとりしたような 
まどろみのような 
おだやかな表情で 
目を合わせず 
手をつないだまま 
ゆっくりゆっくり 
ならんで歩いていく 
 
通りすがりにミナトが聞いた 
 
どうして話さないのですか 
 
片方が笑顔のまま答えた 
 
語るものは 
手のぬくもり 
それだけで 
充分なのです 
 
朝になり家路につくまで 
道は終わらない 
夜が明けるまで 
ふたりは手を離さない 
いつまでも 
いつまでも 


(2003年10月1日up)