掌編いろは/ら「羅針盤」

空の羅針盤をなくして困っているひつじ雲がいた。
あれがなければ風に乗ることもできないという。
ひつじ雲はいわし雲に聞いてみた。
あいにくいわし雲は、いわし雲専用の羅針盤しか持っていなかった。
ひつじ雲は困りはててめえめえ鳴いた。
声を聞いた南十字星が、ひつじ雲たちの今夜のねぐらを示してくれた。
ひつじ雲はめえめえお礼を言って、仲間の元へ帰ることができたという。
ひつじ雲の羅針盤は、まだ見つかっていない。