【400文字小説】残像
そこになにを期待していたの。
いつか聞いた言葉が容赦なく心を叩きのめす。
違うと言いたいのになにも出てこない声帯は、無様にうめき声をもらすだけ。
なにを期待していたの。なにがほしかったの。なにがしたかったの。
あえぐ顎を、炎の熱い風が打ちつける。なにかが爆発した。炎は一層吹き上がり空を焦がす。
違う。違うんだ。こんなことをしたかったわけじゃない。本当は、本当は――。
心で繰り返す言い訳はひたすら空虚で、涙が次々にあふれていく。
期待なんか、ひとつしかなかった。
救いたかった。
大事なものを壊すつもりはなかったんだ。
やっと言えた言葉はかすれていた。
「どうして……」
どうしてこんなことになったんだろう。
なにもわからないよ。
わかっているのは、二度と彼女に会えないということ。
せめて最後の炎が消える時まで、ていねいに記憶に焼きつける。
家屋は彼女とともに焼け落ちていった。
了 (20060108)
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自HP「いなくろねっと」 より引っぱってきた掌編です。http://www8.ocn.ne.jp/~inacro/