逆転する主動作筋と補助筋のパワーバランスについて

はじめに

今回は主動作筋と補助筋のパワーバランスが逆転する現象を考える。この思考の有用性は、ある筋肉が過剰収縮(過用)を起こしてしまう原因解明にある。過剰収縮を余儀なくされた筋肉たちは、事態が悪化している現状を私たちセラピストに「痛み」として知らせてくれる。


背臥位で膝を屈曲させる動きを例に考える

この動きでは膝関節の屈曲に伴い、股関節の屈曲が必要となる。主にハムストリングス、腸腰筋が働くだろう。両筋ともに停止が起始に近づくことが想像できる。

しかし、腸腰筋の起始部であるTh12〜L5が不安定な場合、どのような現象が起きるだろうか。起始が停止に近づく(以下、リバースアクション)、つまりTh 12〜L5が伸展してしまう。(モーメントにより屈曲もあり得るが)

腸腰筋がリバースアクションを起こした場合、股関節の屈曲はだれが補うのだろうか?それは大腿直筋、大腿筋膜張筋、薄筋、縫工筋などといった股関節屈曲の補助筋たちである。もし、そのうちの大腿直筋が過剰に収縮してしまった場合、膝も伸展しようとするため膝を曲げようと思っても、ハムストリングスとの同時収縮により膝が曲がらないという現象に陥る。その結果、膝蓋骨は大腿骨に押しつけられたり、脛骨粗面には過剰な牽引力が働いたりして痛みが出現することが多い。

続いて、ハムストリングスのリバースアクションが起きると、坐骨結節を牽引して骨盤が後傾し、十分に脛骨を牽引することが不可能になる。またしても、大腿筋膜張筋、薄筋、縫工筋などといった膝屈曲の補助筋に頼らざるを得なくなるため、過剰努力を強いられたこれらの筋肉による痛みが出現してしまう。

上記の現象を起こしている犯人はどこにいるのか?それは、膝屈曲の主動作筋である腸腰筋とハムストリングスのリバースアクションを起こしている部位(起始)に注目すべきだろう。おそらく、腰椎・骨盤を含めた下部体幹の固定性低下がリバースアクションを起こしている犯人である。(厳密に言うと、さらに下部体幹の固定性低下の原因を探るため、真犯人ではないかもしれない。)


立ち上がりの体幹前傾相を例に考える

この相では股関節屈曲/骨盤前傾し、その上位である脊柱は固定されていることが望ましい。先ほどとは反対に、リバースアクションを起こす腸腰筋の必要性に気づく。

同じく腰椎、骨盤の固定性が低下しているとき、どんな作用が生まれるのか。おそらく大腿骨、下腿の重みにより大腿骨側の固定性はある程度担保されているため腸腰筋は大腿骨を牽引してしまうのではなく、腰椎や骨盤が固定されていないことにより、体幹を前方へ牽引するパワーを引き出せなくなる。つまり腸腰筋はリバースアクションを起こせない。そうすると、骨盤を前傾させる補助筋(大腿直筋、大腿筋膜張筋、縫工筋など)が過剰収縮を起こし、膝の前面や内側、ASISの付着部が痛くなったりするのである。


最後に

このように主動作筋と補助筋のパワーバランスが逆転してしまう現象を考えると、補助筋の悲痛な叫びの背景の理解を、少し深めることができるのではないだろうか。この考え方が身につけば全ての関節運動、生活動作などにおいて応用することができるだろう。あなたの臨床推論の一助になれば幸いである。

※あくまでも私自身の臨床推論の一部であり、他の考え方を否定するものではありません。


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