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「フェルディナント・ホドラー展」(兵庫県立美術館)「チューリヒ美術館展」(神戸市立博物館)

(この記事は全文公開の投げ銭制記事です。また YADAMANIARTのブログ にも同様の記事を載せております)

(画像は展覧会のチラシ(の一部)です)

昨日3/21、兵庫県立美術館にて「フェルディナント・ホドラー展」を、また神戸市立博物館で「チューリヒ美術館展」を鑑賞しました。「フェルディナント・ホドラー展」は兵庫県立美術館にて4/5まで、「チューリヒ美術館展」は5/10まで神戸市立博物館で開催中です。いま詳しい内容や批評を読みたくない人はここから下は読まないでください。

昨年は日本・スイス国交樹立150周年記念だったらしく、昨年東京で開催された2つの展覧会が巡回して神戸の2か所で展覧会が開催されていた。その中でもフェルディナント・ホドラーというのは私が知らない画家だ。またチューリヒ美術館展は印象派からシュルレアリスムの作品が集まるということで、色々な作家の作品を一度に見られるだろう。そう思って、無謀にも展覧会をハシゴすることにした。

京都だと京都市内で大きな美術館である京都国立近代美術館と京都市美術館のハシゴは容易である。向かいにあるから。ところが兵庫県立美術館と神戸市立博物館はそうはいかない。2駅分電車に乗らなければならない。しかもどちらも最寄駅からの距離は徒歩10分ぐらいある。

だから少々体力が心配だったが、日頃あまり動かしていない身体を存分に動かそうと出かけてみた。

★兵庫県立美術館「フェルディナント・ホドラー展」

ホドラーの絵について、リトミックを発展させた音楽家エミール・ジャック=ダルクローズは「ホドラーの作品の生命原理はリズムである」と言ったそうだ。他の画家、文学者などからもホドラーの作品が持っているのは「リズム」であるという旨の評価をしている。

リズム。なんだか楽しそうではないか。

初期の風景画は、とても明るい。アルプスの山々を多く描いており「山小屋とアイガー山、メンヒ山、ユングフラウ山」は光を浴びる雪山など、筆致と光がとても優しい。また「スペインの風景」は、木が中央に2本、右に1本生えているシンプルな絵だが、背景の空がとてもまばゆい。

しかしその後、ホドラーは象徴主義へ向かった。人間の内面や心理を、労働者や老人を描くことによって「苦しみ」などの象徴として表した。その結果、どこか陰鬱な絵になっていた。中でも「傷ついた若者」は、暗い草原の中に頭部から血を流して倒れている白っぽい色の裸の青年の絵で、遠くからでも描かれたものがわかって、私にはあまりにも衝撃だった。

しかしホドラーの人間の内面を描く表現は、暗澹たる方向だけでは終わらなかった。明るい方向へも向かったのが、ホドラーの優れたところだと思う。そして、感情と身体を結び合わせ「リズム」のある絵へ向かった。

ギリシャ語で良きリズムという意味の、男が5人並んで少しずつ違うポーズで歩く「オイリュトミー」は、確かにリズムを感じる。それもゆったりしたリズム。かと思えば、フライヤーに使われている「恍惚とした女」は、髪をふり乱して踊る女の絵で、こちらは躍動感を感じる。また「感情III」は「オイリュトミー」の女性版といった感じで、女4人が赤いポピーの花に囲まれて列をなして歩くさまが、鮮やかかつ優しくて今回私が最も気に入った絵である。

「リズム」は風景画にも取り入れられ、アルプスの山々に雲が反復したり、うねったりしている。「ミューレンから見たユングフラウ山」という名のそれぞれ違った絵が3枚展示されていたが、そのどれもが岩がずんずんと迫ってくるものを感じた。また「トゥーン湖とシュトックホルン山脈」ではぼーっとした景色の中で山の輪郭だけ強い線で描いていて、それが折れ線グラフのように見えて面白かった。

ホドラーは生涯にわたってリズムとかたちと追求し続けたと言える。そしてその躍動感、内面の表現において私にとってもとても参考になるものだった。

★神戸市立博物館「チューリヒ美術館展」

こちらは本当に代表的な作家の代表作を集めた展覧会という感じのものなので、簡単にまとめる。

ここにもホドラーの絵が7点並んでいて、人物画、風景画のリズムを楽しんだ。またフィンセント・ファン・ゴッホの「サント=マリーの白い小屋」は白い壁の小屋にくっきりと赤いドアが描かれ、目を奪われた。まぶしい、原色の風景だ。またフェリックス・ヴァロットンの単純化された形態による風景画は不思議なものだった。「アルプス高地、氷河、冠雪の数々」は、氷河がおし迫る描写がなんとなくCGのように見えた。

シャガールは、明るい恋人たちの絵が好まれがちだが「戦争」のような暗く、社会的なテーマを描いたことに目を向けることも重要だと思った。また、嬉しかったのは私の好きな彫刻家、アルベルト・ジャコメッティの作品が6点もあったことで、人間の身体を極限までそぎ落とした彫刻に確固たる人間の存在を見た。

展覧会のハシゴは疲れたが、充実した1日だった。

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