いらっしゃいませ!

 スーパーの鮮魚売り場で、スピーカーから「いらっしゃませ〜!」という声が再生されていた。
 はじめはちょっとうるさいなぁと思っていたが、魚を吟味している間、ひたすらに「いらっしゃいませ〜」が繰り返されているということに気づいた。
 「いらっしゃいませ〜」専門のスピーカーということに驚き、魚そっちのけで、「いらっしゃいませ」に集中するようになってしまった。
 よく聞いてみると「いらっしゃいませ」にもバリエーションがあって、「いらっっしゃいませぇ〜!!」と元気よく声を張り上げた後には、少し抑えめな「いらっしゃいませ」がくるような抑揚も感じ取れた。
 そんなわけでしばらく面白がって聞いていたが、次第にこんなスピーカーを売る奴もどうかしてるし、買う奴もどうかしてるな。という考えに至り、お惣菜売り場に行くことにした。

 翌日。そういえば、「いらっしゃいませ」スピーカーおもしろかったなぁ〜としみじみ思い出しながら、あのスピーカー作ってる奴は声優さん呼んで、「いらっしゃいませ〜」のレコーディングしたのかなぁ。「もうちょい、元気よくいってみようかぁ〜」「今度は少し抑えめに」とか指示しながらだったのかなぁ。なんて制作秘話に思いを巡らせていたら、いくらで売ってるのかなと気になって、Amazonで調べてみることにした。

 いらっしゃいませ と入力すると、予測で「いらっしゃいませ センサー」が候補にあがり、意外と売れ筋なのかなと思いつつ、探してみると、センサースピーカーは売っているのだが、いらっしゃいませボイスと書いてあるものがいくら探してもない。
 何ページか探したところで、私は「好きな音を録音できるセンサースピーカーを買って、スーパーの店員がひたすら「いらっしゃいませ!」を吹き込んだのではないか」という、恐るべき仮説にたどり着いた。

 声優さんが仕事として、ひたすら「いらっしゃいませ」を録音することと、スーパーの店員が仕事として、ひたすら「いらっしゃいませ」を録音することでは、いらっしゃいませ!の重みが全く違うではないか。

 これを踏まえた上で、もう一回「いらっしゃいませ!」を堪能しに行きたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?