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モナリザ通り

近所に、モナリザの家がある。

間口の狭い一軒家。
玄関の脇に、障子が閉まった窓がある。
塀が低いので、窓は丸見えだ。

ある日、障子が片方開いており、老婆がニコニコして外を見ていた。
窓枠のサイズ感が、まんま、モナリザの微笑みである。

当方を見ているわけではない。
向かいの家も、何も面白そうではない。
車がすれ違うのがやっとの狭い道に向かって、彼女はただ、微笑んでいる。

初めて遭遇した時は、自転車ごとクラッシュしそうになるくらい驚いた。
待ち合わせた知人に、
「なんか今、モナリザいたんだけど!」
と叫び、考え込ませてしまった。



モナリザの家には、よく軽自動車が横づけされている。
たまに違う色だったりするので、ヘルパーさんかと推察する。
狭い道なので、雪の時期は正直迷惑なこともあるが、仕方がない。
あぁ、今日も来てるなぁ。と思って通り過ぎる。

モナリザが外に出ていたことは一度もない。
他の住人も見たことはない。
軽自動車に乗り込む女性の服装で、あぁ、やっぱりヘルパーさんかな、と思うだけだ。

モナリザの窓は、彼女がいなくても、時折障子が開いている。
主人公が抜け出した絵画のようだ。



この冬、軽自動車に全く遭わなかった。
もう何年もここを通るのに、初めてだ。
モナリザに、何かあったのだろうか。

表札も出ていない、モナリザの家。
モナリザがいること以外、何も知らない。




昨日、軽自動車が停まっていた。
あぁ、モナリザの帰還だ。
窓の外を眺めるくらい、元気になっただろうか。


また、彼女にびっくりさせられたくて。
わざと、この道を通るのである。



☆ヘッダー写真、お借りしました。ありがとうございます。

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