9 噓つき自伝

イギリスの大学受験の仕組みについて触れておくのを忘れていました。本当にざっくり説明すると、
①出願→書類審査、面接
②内定(条件付き合格、大学入学資格試験の結果次第で判定が決まる。この時点で一発合格or不合格の場合もある)←グレアムの場合、あと体育だけAレベルをクリアできればケンブリッジに入学できる。
③最終合格

こんな感じです。間違ってたら教えてください。たぶんケンブリッジ以外の二校は一発合格もらえたってことだと思う。ケンブリッジは面接官(学長)の言い方がごにょごにょしてたせいで、グレアム青年は自分が受かったのか何なのかよくわからずに不安な日々を過ごします。ケンブリッジに確認の手紙を書いたけど返事はいまだ来ず。聖スウィツィンに入ることになるのかな~、まあいいかそこでも、兄貴もいるし…。って感じで聖スウィツィンであったお兄ちゃんの誕生日パーティに参加し、もうそこの大学病院に入るもんだと周りも思ってて酒めっちゃ飲まされた翌日から、続きです。

~中略~

酷い二日酔いで目が覚めた。記憶はないけど、ここは寮の部屋のベッドの上だ。昨日の夜のことは全てアルコールの酩酊が見せた夢だったのかもしれない。そんなわけないけど。兄が僕の聖スウィツィンへの合格を祝ってくれたことは確かに覚えてる。だからあんなに泥酔したのだ。

くらくらする頭で朝食の席に着く。ケンブリッジからの返事はまだない。突然寮の玄関の方から大声が響いて、僕の母親がキッチンに滑り込んできた。
「ケンブリッジからよ!!」
平生を装いながら金切り声でそう言い、ひとつの白い封筒を僕に渡した。
「いっそ殺してくれ…」
そうつぶやきつつ、運命の封筒を開ける…。

僕は手紙を4回読み、一度窓の外を見て、もう一度読み直した。
「なんて書いてあった?」
「えっと、えっと、つまり、その」
一度外に出て寮の周りを二周歩き、もう一度手紙を読もうと食堂に戻る…。手紙がなくなってる。何もなかった。なにも。
なるほどね、お前さん疲れてるんだよ、チャップマンくん。はやく朝食を終えようじゃないか。手紙なんて最初から無かったんだ。それよりこのエドワード8世の記念マグカップは、大事にとっておけばそのうち価値が上がるはず…。


二匹のコーギーのはしゃぐ鳴き声が聞こえ、窓の外に見える副寮監の家(僕らのよりずっと大きい)に目をやると、コーギーのシャンディちゃんが芝生に転がって遊んでいた。そして副寮監の家の裏口にはフォーマルなドレスに身を包んだチャップマン夫人とアシュクロフト夫人がいて、警察署の大きな入口に向かってぞろぞろと歩いていく。任務時間外の警察官が厳かに静粛を促すと、入口の階段の上で警官の制服を着た花婿たちに、美しく清らかな花嫁たちが合流する。群衆を促すように少し間を置くと、カメラのフラッシュが次々にたかれた。
地元新聞に載った記事はこうだ。
「冗談を言って笑いを交わしあう副寮監とアシュクロフ夫人、そして警察官警部とチャップマン夫人。アシュクロフ家の娘であるジェーンは、グレアムチャップマン氏への正式なプロポーズを直前に控えていた。記者からの問いかけに対し、ジェーンは『私たちは深く愛し合っています。彼がケンブリッジに合格したのも、この婚約の大きな後押しになりました。』と語った。」

僕は手紙をひったくり、逃げるように走った。広い廊下を走り抜け、鍵の束をもぎ取り、階段を駆け上がり、ビリヤード用の部屋に逃げ込んで内側から鍵を閉めた。手紙は本物だった。僕はケンブリッジ大学のエマニュエルカレッジに合格したのだ。
副寮監はドアの外で4時間の間、膝をついて僕に出てくるよう説得し続けた。話し合いの結果婚約は破棄され、260部の地元新聞のコピーは押収されて焼き払われた。
物事がひと段落つき、ジェーンは今は他の男性と結婚して幸せに暮らしているそうだ。

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個人的なこと。

☆ここ数日急にやることがなだれ込んできた&季節の変わり目の体調不良で、翻訳の作業が滞っています。更新頻度が急に遅くなると思いますが、続けますのでご安心を。

☆イギリスの古本屋から、イエロービアードの本が届きました。映画のノベライズかと思いきや、制作の裏話やスクリプトがそのまんま載っているまとめ本みたいな感じ。ありがたい。冒頭の制作に至るまでの裏話がめちゃくちゃ生々しい。グレアム…大変だったね…。。肝心な本編はいまだに観れてない。オッドジョブと抱き合わせでブルーレイにでもしてくれればいいのに。

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