脚本術から見る-ive aLive!
はじめに
-ive aLive、100点とさせていただきます。久しぶりに脳が痺れるイベントシナリオでした。未だ興奮冷めやらぬ本木ですが、今回は「脚本術から見る-ive aLive」と題しまして、物書き視点から今回のシナリオを分析していきたいと思います。一般的なシナリオ解説とは異なると思いますのでご注意を。今回使用する脚本術はこちら
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私のバイブルであるSAVE THE CATの法則から「ブレイクスナイダービートシート」というテンプレートを引き合いに出して解説をしていきます。SAVE THE CATは名著中の名著。私が今更解説するのもおこがましいので概要だけかいつまんで基本は-ive aLiveのシナリオ解説に終始したいと考えています。詳しく知りたいならこれを買うか、nolaで解説記事が出ているのでそれを見るのも良いでしょう。それではとりあえず概要から!
ブレイクスナイダービートシート
ブレイクスナイダービートシート(以下bs2)は以下の要素で構成されています。
1 オープニング・イメージ
2 テーマの提示
3 セットアップ
4 きっかけ
5 悩みのとき
6 第一ターニング・ポイント
7 サブプロット
8 お楽しみ
9 ミッド・ポイント
10 迫り来る悪い奴ら
11 すべてを失って
12 心の暗闇
13 第二ターニング・ポイント
14 フィナーレ
15 ファイナル・イメージ
知らない人から見たらなんのこっちゃだと思いますので、各パートを解説しながらシナリオに触れていきます。脚本術に触れたことがない方は今は「ふーん、こういうテンプレがあるんだ」くらいに思っておけば大丈夫です。
BS2から見る-ive aLive
ここからはネタバレしかありませんのでご注意あそばせ
1. オープニング・イメージ
物語の冒頭として印象に残るイメージ。主人公が物語を通して変化するのであれば、変化する「前」を象徴的に描くパートです。「後」を描くパートである15.ファイナル・イメージとの対比になります。
-ive aLiveにおいてはプロローグ「ちょっと物足りなくない?」です。プロローグはこんな問いかけから始まります。即ち――
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この問いかけこそがオープニング・イメージと言って良いでしょう。
2.テーマの提示
そのままです。物語のテーマを示します。
これまたプロローグから。
電車の中でクラスメイトと学園祭の出し物について話すアイリ。クラスメイトからは「カフェをするならもう一工夫欲しい」つまり「ちょっと物足りなくない?」と問いを投げかけられます。章タイトルになっている「ちょっと物足りなくない?」は当然ながら文化祭の出し物に対する言及ではあるのですが、同時にアイリの現状に対する問いかけでもあります(もちろんクラスメイトはそんなこと意図していません。メタ的な話です)。
アイリは自身に対して「本当にそのままで良いのか」「ちょっと物足りなくない?」と疑問を抱いている状態であることが示されています。つまり「自己確立」あるいは「自己承認」がこの物語のテーマであるとわかります。
3.セットアップ
キャラクターや世界観、設定の開示をしつつキャラクターの日常と欠点を描きます。
これはプロローグと1話「バンドしよっ!」が該当すると思われます。
プロローグにおいては「クラスメイトからの問いかけにうまく答えられない」描写。1話においては放課後スイーツ部がどういう部活なのかを示す日常描写です。
4.きっかけ
物語が動くきっかけ。主人公が新たな世界へ飛び込む呼び水です。
話は戻りプロローグです。基本的にBS2は時系列順になるのですが、順序が入れ替わることもあります。別にこのテンプレに囚われる必要はないのです。てか、プロローグに重要な情報が詰め込まれてて凄まじいですね。私はこのプロローグですでに心をがっちり掴まれてしまいました。
さて、このきっかけですが、こちらもとてもわかりやすい。
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これです。椎名ツムギとの出会い。これはオープニングイメージでもあるのかなぁと思っています。
路上ライブを行う彼女を見てアイリは「バンド、しよ!」と放課後スイーツ部に提案することとなるのです。しかし……
5.悩みのとき
主人公は簡単には新たな世界へ行くことができない。新たな世界へ行くことへの疑問と否定が示されます。
該当箇所は第1話「バンドしよっ!」
アイリが放課後スイーツ部に対してバンドをしようともちかけますが、突然すぎる提案にメンバーたちは動揺。アイリに心酔しているカズサまで「急すぎる」と拒否反応を示します。
6.第1ターニングポイント
主人公が「悩みのとき」で示された疑問を打ち払い新たな世界へ旅立つパートです。
第1話にてメンバーから拒否反応を示されたアイリは秘密兵器を投入します。それは「セムラ」と呼ばれる伝説のスイーツ。それが景品であることを伝えるとカズサたちは豹変。一気にバンド活動へ乗り気になります。こうしてアイリは「放課後スイーツ部」という日常の世界から「バンド」という未知の世界へ足を踏み入れることになりました。
7.サブプロット
メインの筋書きとは少し離れた副筋の物語です。少年漫画の恋愛パートを思い浮かべるとわかりやすい。
第3話「ワイルドハントの貴人」が該当。
ここまでの話からわかる本筋は「学園祭オープニングライブのオーディション合格」です(のように見える)。つまりバンド活動が本筋に該当するわけですが、それとは別にアイリはある少女との邂逅を果たします。
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椎名ツムギ。彼女と出会いアイリはある種の示唆を得ますが、それについて理解はしていません。が、サブプロットはメインプロットに「合流」するものです。実際、物語はツムギの思い描いたように進んでいきます。
8.お楽しみ
PVで使われるような箇所だと思ってください。緊迫したカーチェイスとか、その作品の売りになるような部分です。
4話「今までとは違う私」に該当します。
ここは放課後スイーツ部の楽しい掛け合いが魅力の話です。ブルーアーカイブ全体の売りは「キャラ」にあると考えています。そしてその「キャラ」が遺憾なく発揮されるのはコメディ描写なのです。……ええ、言いたいことはわかります。もちろん私もエデン条約編の緊迫感や謎が謎を呼ぶ展開、最終編における今までの物語が回収されていくカタルシス、そういった描写に強い魅力を感じています。が、視点をパブリックにしてみてください。
SNSで一番言及されるのはどんな描写ですか?
例えばアルの「なんですってーーー!?!?」
例えばシロコの「ん、先生は私とあっちむいてほいすべき」
例えばカズサの湿度が高い描写。
こういった場面が多いのではないでしょうか。多くのユーザーが求めているのは笑えるシーン。-ive aLiveにおいては
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になるでしょう。
9.ミッドポイント
物語の真ん中。たいていは偽りの勝利or敗北になります。つまり、勝利に見えるが実は敗北への布石になっているor敗北に見えるが実は勝利への布石になっている。
こちらも4話「今までとは違う私」から。ちょうどストーリーの真ん中になっていますね。ここがぴったり半分の位置にあるシナリオと遭遇すると構成のオタクは射精してしまいます。
さて、4話のどこに該当するかです。
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端的に言えば「アイリの失踪」でしょう。「失踪」には一般的にマイナスのイメージがあるでしょうから、今回は「偽りの敗北」パターンです。つまりこれが布石となり最高の勝利へとつながっていきます。
10.迫りくる悪い奴ら
ミッドポイントを経て状況が変化します。例えばミッドポイントで打ち負かした敵が新たな作戦を画策するみたいな。たいていは状況が悪くなります。
5話「誰が為に」にて。
アイリが失踪し、放課後スイーツ部の面々がアイリの心情について推理を始めます。そして出た答えは――
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プレイヤーから見ると「んなわけあるかい!」なんですが、本人たちから見るとこれ以外に妥当な答えがないんですよね。だってアイリが放課後スイーツ部にいるのは当たり前のことで、当然のようにありのままのアイリを受け入れているから。そこに疑問が挟まる余地はないわけです。
そして的外れな結論を得たスイ部が打った次の一手はセムラを「強奪」
することでした。
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部室も、部費も、「放課後スイーツ部」という部活も。全て投げうってでもアイリを救う。感動的ですね。感動的ですが、名前の通り「迫りくる悪い奴ら」になってますね。
実はここはただの「迫りくる悪い奴ら」パートではないのですが、あとで詳しくお話しします。
11.すべてを失って
名前の通りです。主人公がすべてを失います。だいたい誰かが死ぬ
6話「資格」
さすがに誰かが死ぬことはありませんが、アイリはすべてを投げ出し、ツムギを代役へ据えようと動きます。バンド活動において、という前置きを挟みますが「放課後スイーツ部」を失おうとしているとも捉えられます。
あるいは。
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とも解釈できます。
カズサには頼もしさが。ヨシミには行動力が。ナツには独自の世界観が。しかしアイリには何もない(と本人は思っている)。すべてを失っていると表現できるかもしれません。
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またこの時点でアイリは自身の目的を失っています。
当初アイリの目的は「自己実現」でした。「オーディションの合格」ではありません。
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これはアイリ自身しっかりと認識していたことです。オーディションの合格は「新しい自分」「物足りなくない自分」を実現するための手段でしかないはずでした。
しかしアイリはオーディションの合格のために自分がバンドから抜け、ツムギに託そうとしています。手段と目的が逆転しているわけです。これは即ち目的の消失ともいえるでしょう。
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12.心の暗闇
すべてを失って、を経て主人公は悲しみに暮れます。
同じく6話。
先生との対話でアイリは「何もできない自分」そして自身の抱える闇と向かい合います。
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13.第2ターニングポイント
起承転結の結へつながるポイント。解決すべき問題にたいして何をすべきかを理解する。
7話「ひとつの青春物語」
無事(?)正実に確保されたカズサたち。アイリは牢屋で彼女たちと再会します。なぜそんなことをしたのか理解できないアイリに対してナツがそばに来るよう語りかけます。そしてナツから手渡されたのは――
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成果と呼ぶにはあまりにもちっぽけな欠片。しかしアイリは理解しています。このちっぽけな欠片を手に入れるためにナツたちがどれほどの犠牲を払ったのか。そしてそれが全て、自分のためである、と。故にこそ、アイリは問います。
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自分が何者でもなかったとしても、それでも受け入れてくれる友達がいる。それがアイリの抱える問題「このままで良いのか」に回答するヒントになるのです。
さて。ここで「迫りくる悪い奴ら」に戻ります。
本来あのパートは主人公が成長するためのきっかけの布石を敷くものです。例えば、悪役が次の作戦を考える≒主人公がそれを打ち破る≒主人公が成長する、といった主人公が相対する壁を生成する部分なのです。
が、-ive aLiveにおいては違います。
ヨシミの的外れな推理から転じた的外れな行動は、しかしそのままアイリの「救い」になるのです。これ、ハッキリ言って天才の所業です。
話は若干逸れますが、何も的外れなのはヨシミたちだけではないのです。アイリもまた、的外れな見当違いをしています。アイリがバンドを抜けようとしたのは「迷惑がかかる」から。つまり、カズサたちにセムラを食べさせるため、でした。確かにバンドの話に乗ったのはセムラがあったからです。しかし、それは彼女たちの目標でこそあれ、目的ではありませんでした。
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極論、セムラなんてどうだってよかったんです。放課後スイーツ部は仲良し四人組がスイーツを食べながら楽しい時間を過ごすための部活。日常を送るための部活。ならセムラが手に入ろうが入らなかろうが、彼女たちにとっては些細な問題なのです。……アイリがいなくなることに比べたら。
しかしアイリはこう考えています。「みんなはセムラを食べたいに違いない」。無理もありません。最初は否定的だったバンドに対してセムラを餌に乗っかってもらったのです。そう思うのは当然でしょう。しかし実態は
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これと同じです。名探偵アイリ、爆誕。
奇しくも同じ勘違いをした両者は、だからこそ次の結末へ至るのです。
14.フィナーレ
主人公は変化し、欠点を克服します。
放課後スイーツ部の面々はアイリに語り掛けます。
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アイリはアイリのままでいい。
すべてを投げうって自分のために行動してくれた友達がこう言うのです。
ナツが問いかけます。
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そして、アイリの答えは。
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15.ファイナル・イメージ
オープニングイメージの鏡映し。主人公の変化を示すワンシーン。
エピローグ「物足りなくない」に該当。
プロローグにて学園祭の出し物について「物足りなくない?」と問われていたアイリ。同様の質問をされているアイリはこう答えます。
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プロローグでは「どうしたらいいと思う?」と尋ねていたアイリが「今のままで行く」と回答したのです。この変化は当然、アイリの自己認識の変化から生じたものです。
物足りなくない? という問いかけに対する「物足りなくない!」というアンサー。アイリがアイリ自身を受け入れることができたと、これだけの描写で表しているのです。アッパレだ……
そして電車から降りたアイリは今度はツムギではなく、放課後スイーツ部と出会い――
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プロローグと同じ表情。しかし抱える感情が異なるのはもはや言及の必要すらないでしょう。そして再度、最初の問いかけに立ち返ります。
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YESでもNOでもない。アイリに必要なのはそんな答えではありませんでした。もう大丈夫。その答えを得て、物語は終幕を迎えるのです。
このように滅茶苦茶効果的にアイリの心理的変化を描写しています。構成が上手すぎるとしか言いようがありません。絶頂してしまいます。
さいごに
いかがでしたでしょうか。こうしてみるとガッツリBS2と一致しています。素晴らしい物語、心に残る物語というのは、自然と優れた構成をしているのです。
本当は椎名ツムギとかいうおもしれ―女のこととか、問題を解決しない作劇とか、アイテムとしての椎名ツムギとかいろいろ語りたいことはあるのですが、それらは他の先生方に任せて、私はここまでにしておきましょう。
こんなnoteを執筆して何が言いたかったのかというと、-ive aLIVE!マジでスゲーから全人類読め、放課後スイーツ物語を読むのを忘れないようにな、です。
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