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Japanese dreamの果てに

今の日本ではもうとっくに顕在化した問題で国会でも話題になって皆知っている問題だけれど、いまだに知らない人は知らない。先日も知り合いに言われた。”ベトナム人って最近犯罪が多くてイメージ悪いよね”って。悲しくなったので書いておこうと思いまして。

まだコロナウイルスの気配すら無かった2019年夏、短期留学としてベトナムに4週間滞在した。語学留学とはいえ学習歴4か月の1年生、プログラムには観光もたくさん盛り込まれており、私たちには現地のガイドさんがついて案内してくれていた。

そのガイドさんが最終日に語った言葉が忘れられない。

”若い頃、日本人の女性が着物を着た写真のポスターを見かけた。とても綺麗で、こんなに綺麗な国があるんだ、と思った。それからずっと日本に憧れていて、日本語を勉強した。今は日本人観光客を相手にガイドをしているけど、まだ日本には行ったことが無い。いつか必ず行ってみたい。”

ベトナムに溢れる日本製のバイク、家電、自動車。質の高い製品。礼儀正しい国民性。綺麗な桜。着物。先進国。経済的に豊か。貧しい生活から抜け出すために、憧れの日本に出稼ぎに出て、家族に仕送りをしながら技術を身に付け、貯金して帰国できたらいいなぁ。Japanese dreamだ。そして、丁度良い制度がある。技能実習制度だ。現地の斡旋業者に行く。法外な手数料を支払うことになり借金を負うけれど、日本で稼げばすぐに返せるだろう。少しずつ日本語を覚えて、下請けの縫製工場で働けることが決まった。来日する。婦人服の縫製と聞いていたが来る日も来る日もタオルばかり縫わされている。工場長はいつも怒鳴ったり、時には殴ったりもする。深夜の2時まで作業しても記録には残らない。そして賃金も安い。法律で定められた最低賃金の額を大幅に下回る。窓の無い部屋で、他の実習生と共同生活だ。パーソナルスペースはベッドの上だけ。いつもじめじめしていて洗濯物も乾かない。来る日も来る日もタオルを縫い続ける。たまに外部の機関から調査が入るが、その日はいつもの勤怠表を隠していつもと違うものを縫わされる。賃金は安いので借金の返済や仕送りどころか自分の生活もままならない。早く抜け出したい。そんな中、新型コロナウイルスが瞬く間に広がり、帰国出来なくなった。企業が経営難になると雇用の調整弁になるのは技能実習生だ。真っ先に解雇される。元々真っ当な賃金もなかったけれど今度はいよいよ収入が無い。川でカエルを捕まえて食べる。救済措置は民間の支援団体が担っているがたどり着かない場合も多い。支援団体のキャパシティをオーバーすることもある。食べるために、お金が欲しい。梨を盗って食べてしまう。もしくは横流しに売ってしまう。家畜を盗んで売ってしまう。麻薬を仕入れてしまう。犯罪だ。ベトナム人をよく思わない日本人は増える。益々居場所を失う。そして、失踪する。

最近では、ドキュメンタリー番組でも、ゴールデンタイムのドラマでも、映画でも、新聞でも、取り上げられている。充分に社会問題として顕在化し、現状や当人たちの置かれた状況に理解のある人も増えているが、それでも尚駆け込み寺のような草の根的な活動が無いとどうにもならず、さらに足りていないのが現状だ。
彼らの労働力を欲しているのは私たち日本だ。憧れてきてくれるから嬉しい、と手放しでは喜べない。今の日本には、「来ないで」と言いたい。憧れ続けた日本に、失望してほしくない。

国は、まず招き入れた実習生を保護し、無事に帰国出来る手筈を整えるべきだ。それから、一旦技能実習制度を廃止して新しい在留資格を整備する。来てもらわないと人手不足で困ると言うなら、労働力に見合った正当な扱いを徹底し、その水準を日本人と同等に引き上げるべきだと思う。

そして、1人でも多くの国民の誤解を解かなければならない。現場で起こるいじめや排除、分断はそれでこそ解決に向かう。
この記事が、あまりにも微力ながらその一助となることを願って。

また、今年からXin chao ベトナムというコーナーを始め、第一面で問題の背景や現状を綴っている宮崎日日新聞、継続的に取材を続け放送しているNHKのETV特集、3回にわたって特集コラムを組んだ東京新聞、技能実習生を描いた映画「海辺の彼女たち」(2021/5公開)、ゴールデンタイムのドラマでエンタメとして昇華した脚本家の野木亜紀子さんに敬意を込めて。

2021

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