「生きるぼくら」(原田マハ)【読書録】
子供の頃から学生時代、そした大人になって、未来へ・・・そんな壮大なテーマでは無いと思うが、この本を読みながら僕は楽しかったことも、苦い思いや辛い思いが湧いてきた。そして過去から近い未来へ思いは巡り、身の周りの家族や自分のことまでついつい憂いてしまう自分がいた。
ただし、この本はそんな重い内容ではない。
原田マハさんの本を読むのは2冊目。(前回は「キネマの神様」)
今回はあまり内容を知らないまま、評価が高いという安直な理由で読んでみたが、今回も読みやすくて面白かった。緩急がついているというか展開、進み方も良いし登場人物もなかなかにユニークだったりする。そして最後にはほっこりする。
この小説は自然と、命と、人と、共生することの大切さを物語る。
「自然と、命と、自分たちと。みんなひっくるめて、生きるぼくら。そんな気分になるんだ」
学生時代のいじめから始まり、就職、解雇などからひきこもりになっていた主人公の「麻生人生」。
ある日、唯一生活の頼りとしていた母親が突然消えた。
そして、ある手紙がきっかけで「人生」は祖母のいる蓼科へ行くことになる。それまでの誰とも関わらないひきこもり生活から一転して、人、自然、命の大切さを知る生活へと大きく変わっていくのだった。
人に頼って生きている人間から、立派に自立し、人をも支える大人へと成長する。短期間に逞しくなった主人公「人生」の姿に感動した。
自然に備わっている生き物としての本能、その力を信じること。すなわち、生きる力、生きることをやめない力を信じること。
このように内容は成長物語なのだが、テーマはなかなか深い。
いじめ、不登校、ひきこもり、離婚、認知症、介護、地域社会、農業(自然農法)。
それぞれのテーマでどれも自分なりに改めて考えることも多かった。
生きていると様々な問題に直面する。正面から立ち向かわなければならないこともある。そのことに物語を通して改めて気づかされ、また勇気ももらえるのではないかと思う。(逃げていいいときもあると僕は思っているが。)
この本の表紙のイラストは、東山魁夷の長野県(茅野市)の御射鹿池の描いた「緑響く」。
本の中に登場するとは思っていなかったので思わず嬉しかった。ヘッダー画像に本と一緒に映っているフレームの写真は、僕が2年前に御射鹿池に行った時の写真。
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