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武蔵野音楽大学ウインドアンサンブルVol.7

12月12日(火)、東京芸術劇場では武蔵野音楽大学ウインドアンサンブルの定期演奏会が開催されました。そこで指揮を務めたのは、1990年に客員教授として指揮を振って以来、武蔵野音大WEと長い付き合いのR・クレーマー博士。今回の演奏会に先立って着任30周年の記念演奏会も開催されたようで、クレーマー博士にとって記念すべき年のようです。
そんなこともあり、本日手にしたCDはこちら。


Vol.6は未入手ということで手持ちのクレーマー博士×武蔵野音大WEの一番古いCDを。1991年後期~1993年前期の演奏をまとめたCDです。
年度によって指揮者もプレーヤーも違うことで音も年によって若干の差があります。録音場所や録音日などのデータが記載されていません。

1.百年祭序曲/F・ベンクリシュートー
2.春になって、王たちが戦いに出るにおよんで/D・R・ホルジンガー
3.デリー地方のアイルランド民謡/P・A・グレインジャー
4.ガムサッカーズマーチ/P・A・グレインジャー
5.ファイヤー・ワークス/G・ユーツ
6.アスペン・ジュビリー/R・ネルソン
7.コンサートバンドとジャズアンサンブルのためのラプソディ/P・ウィリアムズ
8.大空への挑戦/D・R・グレインジャー
9.バンドのための序曲/J・ヘインズ

1と2は1991年前期にF・ベンクリシュートー博士が指揮を務めています。この時期の録音の解像度が低く(特に1曲目)、曲の細部を理解するのに苦労する箇所があります。
「百年祭序曲」は自作自演という形になります。全体的にリズミカルな曲で演奏会の冒頭に相応しい曲になっています。
「春になって・・・」は日本でもおなじみの曲。日本でも1時期流行していたように思います。小学生の頃、吹奏楽部の部室にあったバンドジャーナルを興味本位で読んだ際にコンクールの支部大会特集でこのタイトルが多く出てきて、どんな曲なのか気になっていた記憶があります。マークカスタムからリリースされた赤ジャケの作品集で初めて聞いたときは「ゴージャスな曲だなぁ」という印象でした。今回収録されている演奏も大変ゴージャスな演奏です。
3~5が1992年前期の演奏。指揮は冒頭で紹介したR・クレーマー博士。このCDの中では一番音の輪郭がハッキリしていて聴きやすいです。乱暴に聞こえない、ほど良いハリが良いです。
「デリー地方の・・・」はたっぷりと歌いまれた充実した演奏。「ガムサッカーズマーチ」は聞いていて楽しくなる演奏です。ホールで聴くときには「こんなに聞こえないよなぁ・・・」というピアノ含む鍵盤打楽器群の音。CDならではのバランスでグレインジャーが欲していた音はこうなのではないか・・・?と頭を巡らせながら聴いていました。
「ファイヤー・ワークス」は1990年のABAオストウォルド賞を受賞した作品で、鍵盤と皮打楽器群の使い方などシュワントナーを彷彿とする音遣いです。緊張感の中に各楽器によって奏でられるハーモニーが移り変わり様々な箇所から鳴るようで、花火の多彩な火花の色を連想とさせます。難しい曲ですがクレーマー博士の指揮で安心して聴くことが出来ます。
そして、武蔵野音大、上手いです。
6と7は1992年後期の演奏でF・ナイリーン教授が指揮を。
「アスペンジュビリー」はR・ネルソンが高校生バンドのために作曲した作品。前半はロッキーポイントホリデイを彷彿とするメロディーやリズムもあり活き活きとした表情が続きます。中間部の「夜の歌」が何とも言えない美しさで(イメージはアメリカの映画スタジオの「パラマウント・ピクチャーズ」の冒頭の雪山を連想します)ロマンティックな時が流れます。後半はまた賑やかさを取り戻して終わります。R・ネルソンはアメリカの日常を音で描写する卓越した作曲技術を感じます。美しいメロディーもネルソンにしか書けない独自性を感じます。ネルソン作品は一度しか実演に触れたことがないので、いつか聞いてみたいです。
「コンサートバンドとジャズ・・・」は日本でもコンクールなどで取り上げられ一定数の認知を得た曲だと思います。こちらも思い切りのよいバランスでピアノや鍵盤打楽器、E・ギター、E・ベースなどがしっかり聞こえます。またソリストも上手!この武蔵野音大のCDでこの曲の存在を知った人は多いと思います。
8と9は1993年前期でD・ウィルコックス教授の指揮。
「大空への挑戦」は当時アメリカ空軍の戦略空軍司令部軍楽隊の隊長だったローウェル・グラハム中佐の委嘱によって書かれた作品。「春になって・・・」ほど大味じゃなく、チープさをあまり感じさせません。
当時グラハムさんは中佐だったのですね。(後にUSAFバンドで指揮をされます)
最後の「吹奏楽のための序曲」は4分半で終わる作品ですが、モダンな響き(今どきモダンて・・・)が随所で鳴り、耳に残る作品です。

当時、アメリカの吹奏楽の最前線を知る際に武蔵野音大は欠かせない存在だったのではないでしょうか。今は昭和音大にコーポロン先生、洗足音大にはジャンキン先生やレイニッシュ先生など海外のバンドミュージックを肌で感じることは多くできるようになりました。しかし、コーポロン先生も昨シーズンのGIAのレコーディングでウィンドプロジェクトのリリースは最後というアナウンスがありましたし(今年のミッドウエストで何か情報が出てくれば良いですが・・・)、クレーマー博士もレイニッシュ先生も高齢ですし、世界各国のバンドレジェンドの演奏に触れる機会も貴重なものになっていくのでしょうね。



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