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「光の先、素敵なところだといいな」-VOY@GERと天海春香-

作詞:烏屋茶房​
作曲・編曲:井上馨太(MONACA)​
歌: THE IDOLM@STER FIVE STARS!!!!!​

2021年8月25日。かつてボイジャー1号が太陽圏を脱出した日に公開されたこの動画は、15周年という節目を超え、16周年を迎えたアイドルマスターの完全新作アニメーションコンセプトムービーだ。

アイドルマスターシリーズ15周年のその先の未来へ向け、TVアニメ「アイドルマスター」チームが再集結。
錦織監督とCloverworksによる完全新作アニメーションコンセプトムービー。
本作はさらにスタジオカラーがビジュアル制作として制作に参加し、
15人のアイドルたちによるイメージソング『VOY@GER』が、コンセプトムービーを彩ります。
公式HPから引用:https://idolmaster-official.jp/news/01_2310.html

”Are you ready?”と文字が映し出された後に、親の声より聴いた「READY!!」が流れる。こういう流れだというのは765のライブでも、バンナムフェスでもさんざん経験して分かっているのに泣いてしまう。(Are you ready?→歌マスでもムビマスと重なるので泣いていたと思う)

ぼんやり、なぜ歌マスではなくREADY!!が流れたのか考えたが、今年がアニメアイドルマスターの放送から10周年を迎える節目だからとすればなんとなく納得がいった。
アニマスの後日談といえるムビマスに関しては2014年1月公開だが、時間軸では2011年のアニメからそこまで時間経過はしていない世界線だ。
そのムビマス劇中でPが「10年後、春香はどんなアイドルになっているんだろうな」と話すシーンがある。
アニメ放送から10年経った2021年に、10年後の天海春香が生まれるという流れになっていることに気付き、意図的ではないと分かりながらもそれを思い出しながらまた泣いた。多分2024年も同じ理由で泣いてそうである。

本編に戻るが、データを読み込むように出てくる天海春香を見た瞬間、正直めちゃめちゃ怖くなった。
これを描いたのは錦織敦史監督。先述したアニメ アイドルマスターの監督で、異常なほど熱をもってアニマスを作り上げてくれた立役者の1人だ。
アニマスは13人の女の子たちが、自分にとっての「アイドルとは?」を見つけていきながら、人としても成長していく姿が描かれており、ヒューマンドラマ的な側面が強い。
だからこそ、この無機質な空間でデータとして生まれた天海春香が、アニマスのスタッフによって生まれたのが怖かった。人間としての成長を痛いほど魅せた監督が描いた、無機質な存在が怖かった。

怖いという感情がすべてを物語っているわけではなく、確かな「本物」であると強く感じた。
アーケードゲームから生まれたアイドルマスターのアイドル達は実在しない。ゲームの中やコンテンツだけの存在だ。
キャラクターデザインが書き起こされて、モーションで肉付けされ、声優とライターの書いたシナリオによって命が吹き込まれる。
そういうものだと頭では分かっていたが、生まれる未知のアイドルを目の前にし、改めて彼女たちは「0」から生まれた「1」であり、≒「I」dolなのだと思い知る。
その現実を叩きつける非現実的な存在を、「本物」と呼ばざるを得なかった。

歌割の話になるが、個人的に「I must go」を春香が歌っていたことが非常にエモかった。(すでにエモいという言葉が古い表現になっている気がする)
アイマス10thライブ「THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!2015」のテーマ曲の「アイ MUST GO!」を歌っていたオリジナルメンバーはミリオンまでの信号機3人であり、今回の選抜メンバーの中だと春香しかいない。
そんな10年の節目でも歌った彼女が、赤いまっすぐなライトに照らされながら「I must go」と歌う姿をみて、沢山の点と点を繋いで線にしたように感じた。

作り出された架空空間で歌い踊るアイドルたちは最先端なのに、春香からはどこか懐かしい匂いがする。
懐かしいというか、どこかで出会ったことのあるのに思い出せないような感覚だ。アニマスのキャラデザから少し大人びたからでも、色彩設定がミリシタやスタマスと比べて暗めだからではない。
彼女ではないと否定するほどかけ離れているわけではなく、でも知っている春香ではなかった。
知っているはずなのに知らない春香は、いつものように可愛く、最高のアイドルだった。

曲が終わると春香を中心に他のアイドル達が消えていき、春香だけが白い空間に残る。場面が切り替わり、合成背景での撮影であったことが分かると同時に、春香は一礼して画面の向こうに微笑んで終わる。
ここでやっと現実と非現実を分けていた世界線を描いているということに視聴者は気付く。
撮影風景という裏側が描かれることにより、視聴者側は一気に作り手の立場を知り、アイドル達はより一層「現実」に近づくように描かれる
見事としか言いようがない、まさに作り手の愛にあふれた時間だった。

最後の微笑んだ春香の顔を見て、アケマスではじめて出会った時の不思議な感覚を思い出した。
私はアイマス2からゲームをプレイしており、そこからアケマスに手を出すまでは約10年かかっている。春香とはじめましてをすることは何度もあっても、アケマスのはじまりの春香と出会った時の感覚は本当に筆舌に尽くしがたい胸の高鳴りを覚えたものだ。

「天海春香」は天海春香であって、天海春香ではない感覚。
知らない春香と出会った時の胸の高鳴り。
胸を締め付けるような後悔と苦しさ。
私にとっての「アイドルマスター」はこの気持ちであり、VOY@GERの最後の春香は、「それ」だった。
アイマスはそのプロデュース期間の有限性と何度もループできるゲーム性が「アイドル」という有限の永遠と合致しており、だからこそ私はアイマスが好きなのだが(なのでOFA以降なくなった有限が次作で生まれそうなので期待している)
春香はその象徴をもっとも表す存在だ。アイドルでいることを作中のPにすら望まれ、彼女はトップアイドルになる夢を何千回叶えたとしても、一人の女の子としての恋心は最後まで実を結ぶことはない。

私にとっての天海春香はそんな女の子なのだ。そういう運命にいる。
手が届きそうで絶対に届かない存在。私はそんな彼女だからこそ担当になることを選んだのだが、今回のVOY@GERの画面に笑いかけた春香は、現実に戻ってきた描写があったにもかかわらず、絶対に手が届かない存在だと感じられた。
うまく言葉にできずもどかしいが、「自分がプロデュースする・した天海春香ではない、アイドルマスターの象徴的なもの」が微笑んだように見えたのだ。
最後に微笑んだのは春香だが、アイドルマスターの全アイドルが、各プロデューサーに笑いかけたように感じられたのだと、文字を起こしながらそう実感している。

知らない春香とまた出会えた、そんなアイドルマスターの不変と進化の喜びを嚙み締めながら、いつの間にか3000字を超えた今記事を締めたいと思う。

タイトルはムビマスの春香のセリフから。
輝きの向こう側へ進んだ彼女たちがまだ進化を止めずに新たな光を追っていることが、とても幸せだ。
もちろんムビマス春香は今の春香ではないし、私が出会った今までの春香でもないが、どこかで繋がっているようにも感じる。
それぞれの天海春香に、私はこれからもはじめて出会っていくのだろう。
そんなすべての出逢いを運命だと信じているし、光の先は素敵な場所であることを祈っている。


ボイジャー1号の稼働時間は2025年までといわれており、その年はアイドルマスターが20周年を迎える節目の年だ。

宇宙を超えた未来を運ぶ箱舟は、
きっとまた4年後には新しい船に生まれ変わり、
新たな航海に出るのだろう。そう願わずにはいられない。

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