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未来の畳屋さん

 ぼくが子どもの頃、畳屋さんは社会科の教科書だった。広く開け放した玄関先の仕事場で、職人さんが藁の塊のようなもの(藁床)に、大きな針でグイグイ畳表を縫いつけていく。子どもたちは学校の行き帰りにその姿を見て、自分の家の畳がどうやって作られるのかを自然と学んだ。お豆腐屋さんや、八百屋さんや、石屋さんのように、大人はああやって稼ぐものなのだとその目で理解した。

 いつ頃からか、子どもたちの前から畳屋さんが姿を消した。新しい家に引っ越したら、畳は「すでにそこにあるもの」だった。畳屋さんの玄関はいつしか閉ざされ、働くお父さんの代わりに「スタイロ畳」なんて看板を見るようになった。

 2016年5月、山形で100年続くという鏡畳店4代目の鏡芳昭さんに出会って以来、ぼくの視界から消えていた畳屋さんがまた「見えてきた」。東京の街角にだって畳屋はある。でも、あの特徴的な広い玄関先は閉ざされたままで、すでに廃業していたり、もはや畳屋の看板も掲げていない店が多いことに気づく。いまではたいてい小規模な工場のようなところで畳を生産するから、畳屋さんの仕事ぶりを見ることなんてないし、畳は工務店やリフォーム屋さんに注文するか、ハウスメーカーやゼネコンが勝手に入れてくれるものだと多くの人が思っている。

  そのせいで、いまの大方の畳屋さんは、仕事へのプライドを失って、受注体質に慣れてしまった職業集団のように、ぼくには見える。相手(個人・工務店・ゼネコンなど)の条件に合わせて畳を納品するだけなら、どこの畳屋さんでも、どこで作られた畳表でも変わらない。安ければいいのだ。畳を買ったり仕入れたりする側から言えば。

 ぼくは、未来の畳は、お客さんが直接お店に行って「選んで買うもの」でもあって欲しいと思っている。どんな畳がいいか、値が張る畳があったらその理由を聞いて、できることなら自分の趣味に合う質感やデザインを選んで買えるものであって欲しい。家にある椅子やテーブルや照明器具と同じように。洋服の素材やワインのように、畳にだってオーガニックなものがあり、数値には表せないかもしれないが、人の健康に影響を及ぼしかねない自然素材であることを伝えて欲しい。そのためのコミュニケーション(店頭での対話やネット・SNSでの発信)ができない畳屋さんは、未来には姿を消すだろう。あたり前のことだ。

 T1/4(T-Quarter)は、店頭で売りやすい商材になる可能性を秘めている。なにしろ1/4サイズの畳だから、ディスプレイしやすい。知り合いに子どもが生まれたからと1枚だけ買ってプレゼントにすることもできるだろう。子どもがハイハイするようになったから、もう2枚買い足そうなんてこともできる。「フローリングの床の上に敷いて昼寝したいから4枚ください」などと店頭で言っているお客さんが容易に想像できる。プレゼントならギフトボックスに入れてリボンをかけてもらおう。2枚なら、買ってそのまま地下鉄に乗ろう。ネット販売が多くなって、未来の畳屋さんはパソコンの前でも忙しそうにしているだろう。

 T1/4は、そのサイズから、スツールにもしやすい。そのままならベンチ仕様に。さらに半分のサイズにすれば、1人掛けにもなる。そんなモダンなスツールを置いた未来の畳屋さんは、きっと、カフェのようだろう。「お茶でもどうですか?」と客に勧めて、世間話に花が咲く。畳には、やっぱり、リラックスとお茶が似合うよね。そんな未来の畳屋さんが、町に帰ってきますように。

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CMディレクターとして、これまで数多くのTV-CMを企画・演出してきました。2012年より、東北芸術工科大学デザイン工学部映像学科教授。映像にとどまらない、モノや地域のブランディングに活動の幅を広げています。
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