第16話 改心

全部リセットしたいな。

その夜、翔は珍しく弱気になっていた。最近色々ありすぎた。上手くやっていたつもりだった。しかしミスを挽回しようと百合子を利用しようとして失敗し、腹いせに今度は早苗。彼女に口をきいてもらったクライアントとの会食を終え帰宅したが、意気込むどころか消沈していた。

何をしているんだ、俺は。会社の女には手を出さないと決めていたのに。仕事に対するプライドもあったはずなのに。挽回したところで、今度は二人のケアをしなければならないだろう。そして更に姑息な手段を重ねていくのだろうか。

自分が嫌になる。

仕事に対する熱意が急速に失せていくのを感じる。

今まで仕事もプライベートも上手くやってきたはずだった。周りにも恵まれて、自他共に認めるお手本のような生き方だ。いつも高いところから周りを俯瞰していた。必死に生きるさまを見下していた。

でも、いざ降りてみると自分も周りと何も変わらなかった。ただ、上にいたつもりになっていただけだったと気づく。自分を知らなかっただけだ。

「そうやってずっと自分が高尚な人間だと思って生きていけばいいじゃない。私はそんなあんたを見下してるし、不幸と挫折を心から祈るわ。」

いつか真知に言われた。

「効いたよ。呪い」翔は自嘲気味に笑った。

最近真知はバーに来ていない。元彼とはどうなったのだろう。あの時確かに感じた始まりの予感は、恋ではなく終わりの始まりか。これもすべて、女を軽視してきた見返りか。

ゆっくりと目を閉じ、ここ数か月を振り返る。

希。ユキ。百合子。早苗。そして真知。

彼女たちも、きっと必死だった。必死に生きていた。分かろうともしなかった。考えもしなかった。


翔はゆっくりと目を開けた。今更自分の態度を弁解するつもりはないが、思いやりを持って接するようにしよう。そうだ。そうすれば、きっとうまくいく。

翔は幾分すっきりした気分で水を一気に飲み干し、明かりを消した。


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さて、翔が心を入れ替えたところで(本当に入れ替えたかは謎であるが)、そのころの彼女たちの翔への思いを簡単にご説明させていただく。

希→この人には私しかいない。私にもこの人しかいない。

百合子→自分のものにしたい。ていうかしてやる。

早苗→かっこいい。付き合ったら自慢できる。

ユキ→諦めの境地である。

真知→???


・・・恐ろしい。私としては、この五人と一同に会してしまえば手っ取り早いと思ってしまうのであるが、現実はそうもいかない。

彼女たちと翔の未来が、これからどう交わっていくのか非常に興味深い。

普通にいけば、百合子はメンヘラと変し自滅し早苗は普通に失恋してユキはもう登場もせず、真知は亮太とハッピーエンド。翔は希と無難にくっついて終わりだろう。

ただ、忘れないでほしい。

人生は、いつも予想外だ。












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