渡独71日目 伝われ課題作文

 ドイツ文学に関する授業を一つとっている。留学生向けとはいえ、私ほどの言語レベルの学生が対象となっているとはいえ、なかなかこれがみんな喋れる奴だから委縮してしまう。取りたい人が好みで選択できる授業だからそこそこ余裕のある学生しかいないのだろうが、おかげで毎回気が重い。内容が面白いのでとりあえず続けてはいる。授業が終わるころには言いたいことが言えない悔しさで窒息しそうになるものの、まだ耐えられている。

 今回の課題はE・T・A ホフマンの『砂男』から、登場人物の視点で日記をつけるというものだった。兼ねてより精神の不安定だった主人公が回復し、婚約中の恋人と散歩で塔に登るが、あることから発狂して転落死してしまうというラストシーンの日についてである。恋人クララの目線から書いた。

 この日記で書こうとしたことは主に2つで、1つはクララの自責の念とそれを軽減させようとする心の働き、もう1つは現実と理想(幸せな結婚生活)との落差を軽減させようとするそれである。

 クララは転落死の当日、自分から主人公を塔に誘っており、これがかねてから精神不安定だった主人公を刺激してしまったのでは、という罪悪感を抱えていると見る。クララの脳は、愛する人を自分が危険にさらしたかもしれないという認知的不協和を解消しなければならないので、主人公が(彼女の責任ではなく)既に狂っていたこと、それを支えようと努力したこと、しかしそれにも疲れてしまったことを挙げ、クララを擁護しよう。

 次に、幸せな結婚生活と現実の差異を軽減し、落ち込みを軽減しなければならない。狐と葡萄的な高の括り方をして、幸せな結婚生活の夢を非現実的なものと認めることでこの差異を縮めてあげよう。この日、主人公は突然狂気に襲われてクララを塔から突き落としかけている。この男と結婚できていたとしても、家族は幸せになれたのだろうかと自問すれば即マリッジブルーになれるだろう。

 最後に、それでもクララは主人公を愛していたと思うし、死人に鞭打つような考えをもった自分自身を責めると思うので、”愛しい主人公が不幸になったのはサンドマンのせい。真相の解明はあまりにも恐ろしいし、もう疲れてしまった。”というようなことを書いて締めてみた。

 個人的には気に入ったものを書いたのだが、日記形式というものを自分が誤解している節がないか、とか、すでに数か所見つけている文法上のミスとかが気がかりである。いつも授業で多く話せない分面白みのある文章を書けたらと思うが、以上の観点が伝わるだろうか。日記と指定されたので、クララ視点で書くしかなく、ここまでの拙い分析をそのまま表現できるわけではないのだ。伝わってくれ、課題作文。

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