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最後の離任式①

昨日、3月30日は離任式だった。退職・転任の先生を全校生徒・職員で見送る式だ。
私にとっては大学卒業後、10年のブランクの末、2002年に幼い息子たちをシングルマザーとして育てていく覚悟を決め、生活のために初めて教壇に立ってから21年目、最後の離任式となった。

長年、講師(非正規の教員)として、ほとんど毎年離任を繰り返していたので、見送られることには慣れていたし、どの学校にも長くても2年しかいなかったので、担任や部活顧問などで生徒に泣かれたり手紙や花束をたくさんもらったりする先生がいる中、私自身は深くかかわった一部の生徒や保護者から惜しまれることはあっても、少し寂しいというか空しい離任式を繰り返してきた21年間だった。

3月24日、人事発表があった。退職するのは校内で私一人。どよめきが起こったと後で聞いた。採用試験に合格し、正規採用となってまだたった2年。講師時代には叶えられなかった「1年生から3年生まで学年を持ちあがり、大きく成長した教え子を涙と感動で見送る」という夢はついに叶わなかった。

発表の翌日の土曜日から日曜日にかけて、長期休暇中は部活がないため、この時期一番忙しい事務の先生と荷物や用事を片づけに寄った2,3人の先生以外は休んでいる中、一人で夕方までかかって職員室と教室のごみや書類等を処分し、私物を持ち帰っていた。生徒から集めた学年費で購入したものや、クラスで使うため自分で買い足したものは、次の学年(3学年)でも使えるため、そのまま置いてきていた。あとは離任式で感謝だけ伝えてお別れするのみ、のはずだった。
しかし、離任式前日に、代わりに学級を受け持ってくれていた同僚からラインが来た。「教室に残した荷物を明日自分で片づけてほしいと学年の先生からもアドバイスを受けた」というものだった。その途端、一気にまた学校への恐怖が蘇ってきた。
不安な状態を友人や仲間に打ち明けたところ、「行かなくていいんじゃない」と言ってもらい、唯一話せる同僚にも事情を話し、行けなかった時のフォローをお願いできたおかげで「どちらでもよい」と思えたことが良かったのか、当日の朝は頭痛も吐き気も腹痛も起こらず、自分でも意外なほど冷静に迎えることができた。

緊張しながら校長室で待機していると、離任される先生が集まってきた。早めに行ったので、待っている間、2回もトイレに行くはめになった。時間になったので、校長先生を筆頭に初めて1番目に並んで職員室に入った。(講師は教諭より身分が下なので、どんなに経験年数が長くても今までは末尾だった。)
教職員向けに一人一人挨拶をしたが、私は短めに「短い間でしたが体調を崩してしまい、いろいろとご迷惑をおかけしたにも関わらずフォローしていただきありがとうございました」と一言だけ挨拶をした。正直、他に言うべきことは何も見つからなっかった。

その後、また校長室に戻り、しばらく待機してから生徒が待つ体育館へ。その時もまた1番に壇上に上がり挨拶をした。生徒には必ず伝えようと決めていたことがあった。だいたい以下のような感じでゆっくりと話した。

「おはようございます。途中で体調を崩してしまい、来られませんでしたが、久しぶりに皆さんに会えてうれしいです。
今の2年生が入学してきたときに私も一緒にこの学校に来て、一緒に入学してきた気持ちでした。みなさんにはたくさん支えていただき、感謝しています。その時から一貫してみんなに言ってきたことは、「ありのまま、そのままの自分でいいよ」と言う事でした。最後にみなさんに伝えたいのはこの言葉です。
"You are perfect imperfect"  意味は、「あなたは不完全なままで完璧です」という意味です。この世界には一人として完璧な人はいません。今年55歳になった私も・・今まで29歳と嘘をついていましたが、本当は55歳です(笑)・・そんな私もまだ発展途上です。だから、失敗してもいいんです。失敗するという事は、挑戦しているという事です。だから、1日の終わりには、そんな自分を「よく頑張ったね」ってねぎらって、ほめて、自分を好きでいてください。そして、何でも良いので、自分の好きなことを頑張ってください。応援しています。 ありがとうございました。」

実際に1年生の時から、教室には相田みつをの「みんなほんもの」という詩の拡大コピーを貼っていた。今思い返しても、私が子供たちに願っていたのは、ありのまま、そのままの自分で生き生きと輝いていて生きて、好きなことに挑戦してくれることだった。

「みんなほんもの」
トマトがねえ
トマトのままでいれば
ほんものなんだよ
トマトをメロンに
みせようとするから
にせものに
なるんだよ
みんなそれぞれに
ほんものなのに
骨を折って
にせものに
なりたがる    
(相田みつを書 佐々木正美著 「育てたように子は育つ」小学館より引用)

私はこの詩が大好きだ。声を大にして子供たちに言いたい。「あなたはあなたのままでいいんだよ!」と。



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