恥ずかしい失敗

私は他人をあまり信じないほうなので、裏切られたと感じるようなこともない。基本的にネガティブじゃないしむしろポジティブだけど、常に最悪の状況は考えていたりする。

うちの家族は逆で、入信レベルで信じてしまう人たち。母はそれでいて人を見る目が無いので、今まで幾度となく失敗している。なんとなく会わなくなったとかでなく、必ずひと悶着からの疎遠ってパターン。私が幼少で気が付けなったが、ねずみ講に引っかかっていた期間も長い。
そんな母を見ていることもあり、私の警戒心は強くなっていったと思う。

母は勝手にしてくれたらいいけど、一緒にいるじいばあには引っかかって欲しくないと思ってる。怪しい商品を買ってしまったり、お金を渡したりしないように普段からきつく言っている。


そんな私がやらかした買い物がひとつあって。車なんですけども。他人にとやかく言ってる癖に人生で一番高額な買い物に失敗するというおまぬけをやらかしたわけ。


車を買う時、私には3通りの選択肢があった。

①じいばあが長年車を買ってきたディーラー。付き合いは長いものの家から40㎞も離れていて、担当も適当な人。正直そこになんの義理もなく、以前より私が車買う時は別のところで買うと宣言していた。ただ母体は正規ディーラーの中でも規模の大きいほうで、県内に37の店舗があるなど、会社としての安心感は強い。

②近所で最近リニューアルオープンした、①と同じメーカーのディーラー。正規ディーラーではあるけど、小規模な地域型の会社で、所有する店舗も3つ。とはいえオープンした店舗は都会的な立派な作りで、距離も近いしこっちに乗り換えるのもありかもしれないと家族で話していた。

③友達の働く近所の板金屋。ディーラーじゃないからサポートはしっかりしていないんだろうなとは思ったけど、すぐ連絡のできる友達がいればちょっとした不具合でも頼みやすいからアリだなと思っていた。

既にお察しかもしれないが、私が選んだのは③、友達の働く近所の板金屋。

その友達、仮に大森くんと呼ぼう。大学時代に一度、大森くんから車買わないかと持ち掛けられ、当時は必要なかったので断ったということがあった。その時からいつか車が必要になったら大森くんから買ってあげたいと思っていた。

ただやはりディーラーではない店から買うことには不安があったし、友達とはいえ売りたい一心で悪いことは言わないだろうとは思っていたので、考えうる全パターンを自分で調べてレポート形式にまとめた。それによるとやはり金銭的にもサポート的にもディーラーのほうが魅力的だったが、即決でやめるほどの差は感じなかったし、友達の成績になるなら飲める程度の条件だった。

かつて3DSを買う時も、ただ色を決めるだけで数日間悩んだ私だ。それが車となればどれだけ悩み考えたかお分かりいただけるだろうか。全ての利点欠点を書類にまとめ、考えに考え抜いた上でその友達から買うことを決めたのだった。

私がそれだけ悩んだのは、何かあった時に自分のせいにするため。相手の言うことを鵜吞みにして契約したら、失敗だった時に相手を恨んでしまう。どちらにしても最終的に決めるのは自分だけど、どうしてもムムムとなってしまうと思う。そうならないために、満足のいくまで自分で調べて決めた。


さて、何をもって失敗と思ったのかという話。実は特にこれといって大きな事件が起きたわけではないのでつまらない話になる。

まず契約から納車までが3か月かかったことから話は始まるのだが、私の頼んだ車種は当時人気だったようで、調べるとディーラーでも数ヶ月かかると話題になっていた。それを聞いて少し安堵。
とはいえそういった説明は一切なかったし、既に不信感を抱き始めていた。車が届くまでの間、大森くん以外の店員とも話す機会が何度かあったが、どいつもこいつもいまいち話が通じにくく、車が届かないことも相まって私の不安を煽った。
そうして時間はかかったが車は納車され、私は人生初の愛車を手に入れた。嬉しかった。

ある時、大森くんが子連れの人と結婚した。それから、と言っては悪いけど、その頃から人が変わったようにだらしなくなってしまって、子育てのためか付き合いも悪くなり、段々と友達グループの中で浮いていった。そのことも不安を煽った。頼みやすい人だったから買ったのにって思ってしまった。人を見る目がなかったとのだと自分を責めた。でもそう思っちゃうのはかわいそうだよな。友達付き合いがなくなっても、仕事だけちゃんとしてくれたらそれでいいんだからと立ち直った。

そんな中、ある日通勤中にタイヤがパンクしてしまった。JAFより板金屋より前に、大森くんの携帯に電話した。仕事に遅れる焦りから、慣れ親しんだ人と話したかったのかもしれない。すると『あー…店に電話してみたらやってくれるよ』と返されて、色々と察した。少し前から嫌な予感はしていたが、たぶん大森くんは私の知らぬ間に店を辞めたのだ。契約からそう時間は経っていない、数か月後のことだった。
「ああそう。わかったよ。」とだけ返事して電話を切り、それから私は二度と大森くんに連絡をすることはなかった。大森くんも、私が店に電話すれば自分が辞めたことを知られるのはわかっていただろうし、電話でやめたと言わなかったのはもうむこうも私と連絡を絶ちたかったのだろう。

頼みやすいからとは言っても、必要以上に優遇して欲しかったわけではない。何事も見返りを求めてはいけないというのはわかっているし、彼の成績になるからと思ったのは私の勝手。
ただもう少し考えて欲しかった。安い買い物じゃないこと。買った瞬間に完結する買い物じゃないこと。
私が契約した時から辞めるつもりだったのか、急に決まったことなのか。どちらにしても一言欲しかった。確かに会社を辞めたら客とは関係ないのかもしれないけど。友達じゃなくても、担当ならそうすべきだと思う。

腹は立ったけど裏切られたとかは思わなかった。選択を誤ってしまった自分がただただ恥ずかしかった。


それ以来長らく大森くんと話していなかったけど、去年久しぶりに友達の葬式で会って話す機会があった。その時は死んだ友達のことでいっぱいで、仕事の話はしなかった。
ただ、友達が死んだこととその葬式で避けるようにしていた仲間たちと再会したことからか、この日を境に大森くんは元の性格に少し戻ったような気がした。仲間の輪にも徐々に戻っていって、私も前のように普通に接した。このことでたぶん、私は彼を許したことになったと思う。許すというか仲直りというか。許すも何も、彼のせいじゃないけどね。選んだ私のせい。


大森くんが辞めてからも、契約の関係でまだ引き続きその店を使っているわけだが、まあ対応が酷い。考えてみれば大森くんがいなければ選択肢にも入らないような店で、それがそもそも間違っていた。

とにかく店から連絡が来ることなど一切なく、定期点検とかも、こちらから言わなければやってくれない。それでいて、「オイルないみたいなんですけど」って持っていったら、『こんなに減る前に来ないと車壊れちゃいますよ!』とか言われる。
「それは私が自分で気にしなきゃいけないんですね。そろそろ半年経ったから点検しましょうか~みたいなことは言ってくれないってことですね。」と返した。
嫌味ではなく、今後のことを考えて確認。『そうですね。』とのことだったので、それ以降私はイエローハット的なオートバックス的なところで点検をしてもらっている。

その後2度目のパンクも経験した。直接JAFを呼び、タイヤ館に運んでもらって修理した。板金屋にはもう連絡しなかった。

そうして板金屋との関わりを避けてきたわけだが、今月いよいよ車検の時期が来てしまった。車検も他のところに頼んでしまおうかと思っていたところに、丁度電話が来た。さすがに車検は向こうから連絡が来るらしい(車検期限10日前)。
久しぶりに店員たちと話すと相変わらずイラッとさせる天才の話しっぷり。
途中で契約破棄したら違約金どれくらいかかるのかとか聞きたいけどめんどくさいから聞かない。ちょいちょいつっかかることあったけど聞かない。最低限のことしか話したくない。返事だけして済ませた。

これが普通なのかもしれん。私が無意識に比べてしまっているのが長年見てきたディーラーの対応だから、板金屋なんてみんなそんなもんなのかもしれない。それを選んだのは私だ。そう言い聞かせ、静かに契約が終わる日を待っている。


めんどくさいから知り合いから買い物したい人、めんどくさいから知り合いから買い物したくない人、両方いると思う。
前者は、
・何かあった時に相談しやすい
・安くしてもらえる
・融通を利かせてもらえる
・知り合いの成績に貢献できる
などが理由になるだろうか。一方で後者は真逆で、基本的にそういうことで知り合いに関わりたくないのだ。何かあった時に相談するのも知り合いがいるとめんどくさいし、揉め事になったりでもしたらその後の関係がめんどくさい。クレームとまではいかなくても希望を言うことすら、知り合いがいるとめんどくさい。こっちがお金を出して買っている側なのに借りを作っているような気分になる。

私は本当は後者だ。それもあったから、車を買う時に必要以上に悩んだのだと思う。今までの通り、知り合いから買い物をするのは避けたらよかったのに。なんかその時だけは買っちゃったんだよなあ。

今思い出したけど、選択肢①②③全てに知り合いがいて、どっちみち知り合いから買うことになるから、その中で一番仲良い人を選んだのかも。本当は知り合いから買わない理論でいくと、1番仲良くない人から買うべきだったんだとは思う。無意識に信念を曲げちゃってたんだな。

それが一番悔しい。私が普段から知り合いから買う派で、この失敗がその中の1つなら仕方ないと思うけど。違うのに。「私は知り合いから買わないよ。めんどくさいもん。」と脳内で昔の私がいやみったらしく責めてくる。


そんなこともあり、契約前から既に不安だったのだと思う。問題ないと自分に言い聞かせていただけで、どこかで不安は感じていたのだと思う。1つのちょっとしたモヤモヤ全てが不安に感じた。


買った当初は家族にやっぱりあっちの店にしとけばよかったじゃんとか何回も言われたけど、私がその話題をシャットアウトしていることに気づいたのか最近は言ってこない。

そういえば、うちの家族はわざと知り合いを選んでいるな。だから遠く離れたディーラー使うのを長年やめないんだろうし、自動車保険も昔からの知り合いに頼んでて、車ぶつけた時も私はかなりめんどくさかった。普通に知り合いに担当してもらうの恥ずかしいでしょ。
家も知り合いが建てた家だから今後も関わらなきゃいけないし。そうだ、庭木も知り合いに切ってもらってるけど、相手もお金とりにくいみたいで、いつもお金ではなく贈り物をしている。業者呼んだほうが安く済みそうなくらい。事務的に済ませたほうが楽なのになあ。家族はまだ知り合いに頼む方が楽と思ってる。やだなあ。
っていうぼやきも車の件のせいで滑稽なのよ。くそう。


いくら言い訳を並べたって事実は変わらない。失敗したのだ。この大きな買い物に失敗した私になんの説得力もない。私も母の子だったということ。

これ以降危機回避への自信がゼロになってしまったし、それによりいろいろなことを楽観視するのも苦手になった。もちろんもともとがどえらいポジティブなので依然として他の人よりはポジティブだけども。

今ちょうど給湯器の会社からそろそろ取り換えたほうがいいと言われて保留してるけど、もう正しい判断できてる自信がないから決められない。

貧乏なんだから変なのに引っかからないようにしないと破産しちゃうよな。気を付けます。

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