ゾゾに何が起きているのか
前澤社長が絶え間なく芸能ネタを提供することでお茶の間のマダムの間ではたいへん話題のゾゾですが、二期連続で大幅減益と最近は経営的には振るいません。
とはいえ画期的なサービスを作るためには会社の新陳代謝も必要で、そのための投資も必要なのは理解できます。サイバーエージェントもアベマTVに毎年200億円を投資するなど大胆な経営を行っているため、ゾゾのような新規事業の投資はそこまで珍しいものでもありません。
個人的に「おや」と思ったのは、その投資の象徴だったゾゾスーツの配布を、配布開始からわずか半年で撤退することを発表したことです。
あれだけ思い入れとビジョンを語っていたゾゾスーツの事業を、わずか半年で軌道修正し、撤退することになったのはなぜなのでしょうか。
その疑問から、色々と調べてみた結果を書きます。なお、以下は完全に外部の人間による推測のため、どれだけ実情に近いか、正しい情報なのかは保証ができませんことをお断りしておきます。
また、株式会社ゾゾの方々の気分を害したり、抗議等が届いた際は、すみやかに記事を削除させていただきます。
ゾゾのプライベートブランドはどれくらい稼いでいたのか
ゾゾスーツは、その人の詳細な採寸データを取得することで、ECサイトでは難しかった試着のプロセスをオンラインで行い、そのことで様々なビジネスの横展開、可能性を導き出すツールとして導入されたものだと理解しています。
ゾゾスーツの採寸データの応用先として一番力を入れているように見えるのはゾゾのプライベートブランド事業で、ゾゾスーツの採寸データを元にその人向けの服を作成し、どのような体型の人でもジャストフィットする服を提供する、という事を目的としていました。
このビジョンが、多くの人の期待と共感を呼び、株式市場も大きく反応しました。
では実際、どの程度の人がゾゾのプライベートブランドを購入したのでしょうか?
10月末のIR資料を読んでみると、プライベートブランドの売上高については記載されていますが、どの商品がどれだけ売れたか、どの地域で売れたか、という情報は伏せられています。
ですので、以下は著者による仮説を含みます。
プライベートブランドの売上
まず、プライベートブランドの売上ですが、2Q、3Qの半年の合計で約5億円です。
当初の目標が15億円の売上だったところに比べると大幅なショートですが、IR資料では受注自体は15億円以上あったものの商品の配送の遅れのため目標売上からショートした、と解説されていました。
プライベートブランドの商品として最初に発表されたのが、Tシャツとデニムの組み合わせでした。
Tシャツが1200円、デニムが3800円で、ゾゾスーツの採寸を終えた後に表示されるのがこちらの組み合わせだったため、おそらくこの5000円の商品の組み合わせが一番購入されている組み合わせだと思います。
こちらの組み合わせだけが購入したと雑に仮定すると、
5億円/5000円=10万ペア
になります。実際は、オーダーメイドのビジネススーツやセーターなど単価の高めの商品を購入している人もいると思われるため、単一商品で10万点以上売れたプライベートブランド製品はおそらくないと思います。
ちなみに、意味でユニクロのヒートテックは15年間で10億枚を売り上げており、単純計算でも半年で数千万枚売れていることになります。
ベーシックアイテム同士の比較とはいえ、アパレルの王者のユニクロと新参のゾゾを比べるのは時期尚早かなとは思いますが、規模感の参考にはなると思います。
プライベートブランドの営業利益
プライベートブランドの営業利益は、2Q、3Qの半年の合計で約70億円のマイナス。つまり5億円分のプライベートブランドの服を売るために70億円の損失を出しています。これは製品の原材料費、作成コスト、販管費、ゾゾスーツの配布にかかったコストをすべて合わせてのものとされています。
単純計算の仮定を積み重ねても実情に近づけないかもしれないですが、上述の雑な仮定に倣い、10万ペアのTシャツ・デニムが売れたとして、1着を売るためにどの程度の経費がかかっている事になるでしょうか。
70億円/10万ペア=7万円/1ペア
ということで、1着のTシャツとデニム、あわせて5000円の商品を売るごとに、7万円の損失が出ていることになります。
この計算は妥当な分析ではないと思いますが、ゾゾのゾゾスーツ・プライベートブランドの事業が極めてコストパフォーマンスの悪い、1着の服を作るためにびっくりするくらいの損失を垂れ流すモデルになっていることはわかります。
ゾゾの海外事業はどの程度順調なのか
ゾゾのプライベートブランドの、2018年度の売上目標は200億円。直近半年の実際の売上は5億円。というのが現在地です。
極めて大きな目標を掲げていますが、これを実現するための起爆剤として、ゾゾの海外事業があります。実際、ゾゾスーツの配布開始と時をあわせて、ゾゾの海外サイトが展開されています。こちらから日本以外のユーザーがゾゾスーツの申し込みも行えますし、商品の購入も行えるようになっています。
中期計画では、この3年間のうちにゾゾ全体の海外売上比率40%を目指す、となっています。
たとえ半年の売上が5億円と大幅にショートしていたとしても、海外事業での売上比率が中期目標の水準に近いなど事業として良い兆しがあるのであれば、10月の決算資料の中で大きく語られるべきだと思います。
しかし、決算資料では、海外事業についてはほぼ黙殺、無かったことにされています。これはなぜなのでしょうか?
SimilarWebでのzozo.commの調査
ゾゾの決算では黙殺されており、IR資料からは海外事業の規模感を測ることができません。
ここでは、月間アクセスユーザーなどの数値を解析してくれるSimilarWebを利用して、サイトの規模感を推測してみます。
まず、直近のアクセスユーザー数です。
月間で70万ほどのアクセスがあるようです。単純計算で、一日あたり2万強。厳しい言い方をすると、人気のある個人ブログよりもアクセスが無いようです。
日本のゾゾタウンとの比較のため、ゾゾタウンのアクセスユーザー数を貼ります。
月に3600万人のユーザーが訪れており、堂々たる数字です。日本を代表するファッションECサイトである、という肩書は嘘ではありません。そしてゾゾの海外事業は日本単体の事業にくらべて1/100程度の規模、という感じです。
ただし、アクセス傾向が両者は多く異なります。多くの商品を閲覧して購入まで至っていると思われるゾゾタウンは平均滞在時間や1訪問あたりのPV数が多く、結果離脱率も低いです。
一方、海外サイトの方は数ページ見たあと会員登録や商品購入までたどり着くことなくすぐ離脱しているように見受けられます。
厳しい言い方をすると、ティザーサイトとしてしか機能してない、という言い方ができてしまうのかな、と思います。
サイトの流入はソーシャルやオーガニックな検索だけに頼るのではなく、ディスプレイ広告に依存していることも見て取れました。
広告にはSkimlinksを多く使用しているようです。純粋にオーガニックに頼るというよりは、アドの力もそれなりに借りている事が見て取れます。
海外事業のサーバーはおそらくAWSのようなパブリッククラウドを用いていると思いますが、一日あたり数万のアクセスユーザーであれば数台のEC2インスタンスがあれば捌けるため、インフラの運用費用はそれほどかかってないと思います。
ただし、広告費用にそれなりの額を投じており、こちらが運用コストとなります。それに見合うだけの収益を上げているかどうかは、数字が公開されていないため不明です。ただ普通に考えると、かけたコストに見合う収益は海外事業においては期待できないでしょう。
ゾゾスーツのプライベートブランド以外への活用はどうなのか
ゾゾスーツはプライベートブランドの計測用だけではなく、「服の選び方改革」のための重要なツールとして位置づけられています。
この辺については、4月に発表された中期計画の中にも記載されています。
採寸データのプライベートブランド以外の応用として、既存のゾゾタウンの数々の商品の中から「自分にあうサイズの服」を検索できるようにする、とされています。
以下の中期計画の中では「自分サイズ検索」と呼ばれており、こちらについても益々拡大していくと述べられています。
また、定期的にコーディネイトした商品を家庭に送ってくれる「おまかせ定期便」についても、ゾゾスーツを用いた採寸データを用います。
このように、ゾゾの計画の中では、ゾゾスーツを基軸に様々なビジネス的な横展開を行い、相乗効果を狙っていることが伺えます。
つまり、プライベートブランドの売上が振るわなくても、これらのサービスの売上へのポジティブインパクトがあれば、ゾゾスーツからの撤退という選択は取られないと想像できます。
今回の決算資料中では「自分サイズ検索」「おまかせ定期便」いずれについても触れられていません。
少なくとも、ゾゾスーツを用いた「服の選び方改革」という点についても、さしてアピールする事ができるような良い効果は得られなかった、と見るべきでしょう。
以上からの考察
ここまでで、以下について述べてきました。まとめると三点です。
1.プライベートブランドの売上が振るわず、目標に比べて大幅にショートしている。
2.売上拡大の中心と期待されている海外事業も、サイトのアクセス傾向から見て芳しくはない。
3.ゾゾスーツの採寸データの応用としての「自分サイズ検索」「おまかせ定期便」もおそらくうまくいってない。
とはいえ、ゾゾスーツの事業が本格的に開始されてからまだたった半年の出来事です。本気でゾゾスーツとともに掲げたビジョンを達成しようと考えているのであれば、この短期間で撤退をする、という決断は理解に苦しむところではあります。
新技術でゾゾスーツによる採寸が不要になるのか
ゾゾスーツから撤退する事について、決算説明会の場で語られた理由は以下のようなものでした。
「身長、体重、年代、性別を打って(入力して)いただくと、このたった4つの項目だけで、あなたにはこれがいいんじゃないかという最適サイズを出すんです。」
過去にゾゾスーツから取得した採寸データを用いて機械学習で解析することにより、たった4つのパラメータからその人の体型が推測できるようになった、という説明です。これは技術的に可能なのでしょうか?
個人的な結論としては2つ。
1.平均値の算出はできるだろうが、個々のユーザーにフィットした測定ができるとは思えない。
2.ゾゾの提供しているプライベートブランドはカスタムオーダーと称しているが、Tシャツやデニムはパターンオーダーであり、ある程度サイズが合っていれば良いような作りの服である。これらは詳細な体型データは不要で、そもそもゾゾスーツでの採寸プロセスが不要だったのでは。
前者については、決算説明会でも実際に以下のように述べています。
「お子さまのサイズだったり、本当に大きな方のサイズだったりとか、一部の特殊サイズは今後もデータとして必要な可能性があります。ただ、データを集めるというのは、そういう方にお集まりいただいてその場でテーラーで実寸することもできます」
つまり、平均的な体型の人以外は、ある意味切り捨てる、と述べているようです。
前澤社長は、かつてゾゾスーツのビジョンを述べる中で、以下のように述べていました。
「背も小さく足も短いので、自分に合う服を探すのに苦労していた」という自身の体験がきっかけで、サイズがぴったりの服を提供するプライベートブランドを立ち上げたという。「世界には、同様の悩みを抱えている人がいる。S・M・Lという既成のサイズに捉われないブランドがあってもいい」
しかし最終的に、ゾゾスーツを捨てて、一般的な体型の人向けの売り方をすることを選択したと思われます。これは単純にコストダウンやコンセプトの微調整にとどまらない、大きな方向性の変更であると捉えざるを得ません。
また、平均的な体型データは、ゾゾスーツに頼らなくても収集可能です。以下のように、性別年代ごとの体型データを商用販売している企業は、いくつかあります。平均値で良いのであれば、そもそもこのようなデータを用いることで推計が可能です。
もちろん、同じ身長・体重でも体型は異なります。平均値では補えない、ある意味マイノリティな人たちにもジャストフィットする服を提供するというコンセプトで展開されていたのが、そもそものゾゾスーツの目的だったはずです。
つまり、「新技術によってゾゾスーツが不要になった」と言うよりは、「ゾゾスーツが不要になるよう、もともと掲げていたビジョンそのものを変更した」という事になるのかなと思います。
このビジョンの変更は、ゾゾスーツに期待をしていた多くの人の失望を生む事につながると思います。
ゾゾスーツの本当の目的
ここまでは、ある程度公開されている事実から類推をし紐解いててきましたが、以下からは大胆な仮説、予測になります。
壮大なビジョンを実現するために世に出されたゾゾスーツ、たった半年でその使命を終えることになったわけですが、その本当の使命とは、つまり株価対策だったのではないかと思います。
事実、ゾゾスーツの配布が発表された2018年4月末から、株式会社ZOZO(当時はスタートトゥデイ)の株価が急上昇したことを皆さん記憶していると思います。
株価高騰の直後、ある出来事がありました。
それは株式会社ZOZOによる、自社株買いのオペレーションです。そして、市場にある株を購入したわけではなく、市場外取引で行われました。購入元は、前澤社長の所持する株式600万株です。
この取引自体は法律的に何も問題もありませんが、特定の個人の資産を会社が高値で購入したとも捉えられ、道義的にどうなのか、と思うところもあります。
それだけのお金が、なぜ必要になったのでしょうか?
もう皆さん予想ができると思いますが、9月に以下のような発表がありました。
月旅行に行くための費用は諸説語られていますし、前払いで一定額のお金を支払わなければいけなかったという噂もあります。
そのために手元の資金が必要な状況におかれた前澤社長が、手段として選んだのは「壮大なビジョンのプロジェクトを大風呂敷でも良いので掲げて、株価を上げよう」という手段だったのかもしれません。
事実、首尾よく株を売り抜け個人資産を増やした後、わずか半年でゾゾスーツは撤退の方向となりました。
会社としてはプライベートブランド事業で半年で70億円の損失を抱えましたが、これは会社の損失です。その損失を利用して、前澤社長は個人として、230億円の売却益を得ることができました。
ゾゾスーツの配布開始を発表した2018年4月27日の終値は3160円。この株価で600万株を売ると約190億円。ゾゾスーツ配布の発表前後で40億円も売却益に差がでます。そもそもゾゾスーツの事業コンセプトが発表された2017年には株価は2000円前後でした。
単純に株を保持している株主としてだけでなく、執行の最高責任者である前澤社長が、会社の株価上昇を企図し、実現できるかどうかわからない、そもそもどこまでやりきるつもりだったか怪しいビジョンを掲げ、首尾よく株価が上がったタイミングで私的財産である株式を会社に買わせる。一通りお金になったら、掲げていたビジョンを突如変更し、事業から撤退する。
私的な資産構築のために会社を利用した、と捉えられてもおかしくは無いと思います。
今後プライベートブランドはどうなるのか
プライベートブランド事業は、損失を垂れ流しているとはいえ、ゾゾタウンの収益をすべて食いつぶすほどではありません。ある意味、会社全体として利益を食いつぶさない程度のコストをかけ、一応実際に動くものをしつらえ、株価の高騰を演出した、ということなのかなと推測しています。つまり、そこまで事業としても本気でアクセルを踏んだ事業ではなかったのだと思います。
使命を終えた結果、まずゾゾスーツの撤退が発表されましたが、続いてプライベートブランド事業の撤退が、この1年の間にアナウンスされるのではないかと推測しています。
そもそも、会社としてプライベートブランド事業にどこまで本気だったのでしょう。ビジネススーツの配送遅延など、基礎的なPoCも取り組んでない状態で製品化をしたこと一つとっても、良いサービスをユーザーに届けることよりも、株価対策としてアドバルーンを適切なタイミングで上げる事しか興味がなかったのでは無いかと思います。
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