生音とエレクトロの境目を泳ぐ~Tune-Yards Japan Live 2019~
tUnE yArDsの来日公演を観に行きました。
昨年アフリカ滞在時に、you tubeを繋いでみたフジロックでの彼女達の演奏が自分の中ではベストアクト級によく、プロジェクターで家の壁に映し出したレッドマーキーを前に、家で踊り回ったのが決め手でした。
2年ぶりに帰ってきたライブハウスはWWW X。初めてでしたが、洗練されたヴェニューで非常に高まりました。
開演30分前くらいに着いたときは人はまばらだったものの、開演に向けて皆がダラダラと集まってくる感じが心地良く、それでいて最終的にはいっぱいになっていたのが、洋楽離れが嘆かれる日本でもこれだけ関心のある人たちはいるという証左であり、頼もしいなあと思いました。
公演は最新アルバムの『I Can Feel You Creep Into My Private Life』を中心としたセットリストとなっていました。
私は前作の『Nikki Nack』を音楽ライター講座の先生である岡村詩野さんが推していたことで出会い、実験的なのに非常に間口の広いポピュラー・ソングを作っていることに大変驚かされたのですが、今回実際に観て、即興性と緻密性が同居したアーティストであることを改めて感じさせられました。
ボーカルのメリル・ガーバス(以下、メリル)はその場で自分の声をループマシンに多重録音することによって、原曲のハモりや一人数役の歌唱を再現しており、自分の目の前で楽曲が今まさに出来上がっていく様を見るのは、即興の妙味とでも言うべき、圧巻のライヴ体験でした。
やや趣向は異なる部分もありますが、機材マジシャン的なところで言えば、avengers in sci-fiなどと並べると面白いかもしれません。
彼女は非常にソウルフルな力強さを持つ声の持ち主なので、基本的にはシャウトや伸びやかなビブラートで全編を通して我々のテンションを引っ張ってくれたのですが、それだけではなく、"Home"の冒頭のように静謐な歌い方での多重録音をすることでゴスペル隊の聖歌を思わせたかと思えば、今度は"Powa"の冒頭のフレーズなどに代表される、ある意味でグロテスクとも言えるよれよれの奇妙で独特なメロディラインを歌いそれをループによって変化させて行くなど、決して力強いだけではない様々な歌唱表現を魅せつけられました。
自身の歌声が、楽曲の構成要素の一部であることに自覚的であろう、確信犯的なボーカリストであると思います。
その場で音階の違うフレーズをすぐさま重ねていくなどの技術は、大学時代にはGlee(アメリカのミュージカル・ドラマ)のようなアカペラをやっていたという経験も、大いに納得できる表現です。
先に即興性と書いた一方で、緻密な構成を思わせる場面も多くありました。そして、この面では特にリズム・セクションの二人の働きが大変素晴らしかったと思います。
メリルは歌唱の最中に自身の横に設置したサンプリング・マシンのようなものと足元のエフェクター類を使って、予め録音された音源を用いた演奏も多用していたのですが、それにリズム隊であるベースのネイト・ブレナーとサポート・ドラマーのハミア・アトウォールが寸分違わずタイミングを合わせた演奏をしており、緻密な構成を理解した上で演奏されている楽曲であることを思わせました。
例えばリード・トラックの"Look at Your Hands"は、演奏の中盤で音がぴたっと止むブレイクがあり、そこでのメリルのパワフルなボーカルがアクセントとなります。これが曲の緩急を生み、スリリングな展開を作り出しているのですが、この部分は直前まで多くの重なった音が鳴らされています。リズム隊である二人はこのストップ・アンド・ゴーを見事に乗りこなすことで曲の良さを最大限に発揮していると思います。
また二人とも手数的なものは然程派手ではなく、淡々としたフレーズを演奏しているのですが、テンポ・キープなどの正確さは目を見張るものがありました。
淡々としているからこそ、曲としての締まりがあり、その上に乗るメリルのウワものがキワどいものにならずに済んでいるのだと思います。
メロディーを担当する楽器がない珍しい編成は、ともすればカルト的にも捉えられかねないところで、最終的にポップに仕上がっているのはこのリズム隊の功績が大きいのではと感じさせるパフォーマンスでした。
MC少なめで1時間半ほどの然程長くはない内容でしたが、オーディエンス、関係者、WWW Xに感謝を伝える言葉があったり、ダブル・アンコールに応えてくれるなど、奇抜な演奏とは裏腹に、彼女たちの温かい気持ちが伝わる公演でした。
まだ聴いたことのない方には、是非勧めたいアーティストの一組です。