ごく私的2010年代ベストアルバム

久しぶりに日本らしい年越ししようと思って紅白を見てたんですが、まあまあ飽きてきたし、ベストとかまとめてみようかな..と思ったら今年本当に音楽聴いてなくて、まとめるほどもなかった。
どーしよっかなーということで、時勢とかムーブメントとかを一切考えない、ごく私的な10年代ベストを年明けまでの勢いで構成せずうわーっと書いてみることにします。

個人的に、この10年は20歳から30歳になった10年間なんですけど、ある意味で音楽を自分の青春的なものや熱情と重ねあわせられる最後の10年だった気がしています。
勿論これからも心打ちふるえる音楽や、自分を重ねあわせるような楽曲との出会いはあると思うんですけど、10~20代前半の頃のような、原体験的なものを作る時代はもう終わって、これからは良くも悪くもクリティックな感じで曲を聴いてしまう年齢になるんじゃないかなという気がしています。

大学生でロッキンやCDJに行きつづけた邦楽厨としての聴取がピークに達し、社会人になった後、新しい音楽の出会い方がわからなくなって模索していたところで出会った、岡村詩野さんのライター講座をきっかけに色んな音楽の存在に気づかせて貰って、その後、協力隊に行ったり留学したりしてる間は現地の暮らしにいっぱいいっぱいだった結果、時流を追うのではなく昔から励まされてきた歌ばかりを聴いて...ってなったら、見事にその形が反映されて、前半は全部邦楽、中盤で他の国の音楽も聴くようになって、後半は17年で止まってるという、個人的には人生の動きとリンクしてておもろい感じでした。

音楽的な良さについて語るのは、たくさんの優秀な書き手さんにゆだねて、僕はつらつらと自分語りを絡めた感じの文章を載せて行こうと思います。

1.ファンファーレと熱狂/andymori(2010)

キャプチャ

リリース当時に熱狂的に聴いていたような記憶はないんだけど、国際協力的なものに携わる様になってから行くようになった東南アジアや中東、アフリカといった国々で必ずと言っていいほど流してきた一枚になりました。
アルバム内でもたびたび歌われる途上国のバックパッカー的風景から連想されるボヘミアンな感じとか郷愁感と、自分自身の旅の思い出を沢山重ねあわせてきました。
歌の歓びがはじける、等身大なロックンロールを鳴らしていたバンドだったと思うし、そのピュアさと途上国での混沌と純粋がないまぜになったうねりみたいな熱量には、なにか似たものがあったように思います。
特に記憶に残っているのは、卒業旅行で行った東南アジア周遊中、ラオス行きの夜行列車に乗るまでの時間をつぶしていたタイのバンコクの公園の芝生の上で、寝っころがってだらだらしながら見た夕日と共に聴いた"SAWASDEECLAP YOUR HANDS"です。


2.14/HEY-SMITH(2010)

キャプチャ

ELLEGARDENが活動を休止して絶望にくれ、10-FEETが新譜を長く出さずにいた頃、ただただブチあがるメロコアを鳴らしてくれたのがヘイスミでした。
ラテンな響きのあるホーン隊のセッション、実際に土台になるバンド隊はスリーピースながらも非常に力強くて、自分の中の穴の空いたパンクロックの部分を埋めてくれたように思います。
2016年のライジングサンで見たのが最近では最後なのですが、その時も「ライブハウスからやってきたイキのいい兄ちゃんたち」って感じで頼もしくイキってくれてて、嬉しかったなー。
"DRUG FREE JAPAN"を初めて聴いたときの「おおおお!」って感じは今もなかなか越えてないですね。


3.TVアニメ「けいおん! ! 」劇中歌集 放課後ティータイム II/放課後ティータイム(2010)

キャプチャ

さほどアニオタってわけでもないはずだけど、多分『けいおん!!』は確実に俺の人生の価値観の一部を決定付けたと思う。『ゼロ年代の想像力』(宇野常寛,2008,早川書房)を参照して凄く腑に落ちたのだけど、俺は放課後ティータイムのような「有限である(が故に)入れ替え不可能な関係性」というものが自分の中でずっと価値のあるものだったし、それをこれからも求めていきたいということをこのアニメで気付かされた。
各種OP、EDの今をめいっぱい楽しんでいる歌詞や、桜高軽音部とその関係者達とが作り上げてきたコミュニティのことを歌ったはずのごくミクロな歌に何度も何度も心打たれた。
『U&I』や『天使にふれたよ!』に隠れているものの、名曲だと思っているのは『冬の日』。


4.homely/OGRE YOU ASSHOLE(2011)

キャプチャ

忘れもしない、このアルバムツアーのファイナルで赤坂BLITZにいた時のポカーンという思い(笑)。前作までの、USインディーを影響源にしたヘロヘロギターが大好きで、次はどんな作品だろうと思って来てみたら、もう何をどうしたらそうなるの?っていう豹変ぶりを、ノーMC、アルバム全曲演奏、観客置き去りで見せつけてきて、これどうしたらいいの??となったもんだ。
ところがその後の彼らの躍進ぶりと言うか、孤高ぶりは知っての通り。
音源のミニマルな作りは、ライブになるとカタルシスを伴うすっごい高揚感をもたらす演奏になってて(特にこの時期本編最後に演奏されていた"ロープ"は白眉!!)、確実に日本の音楽史に残る作品を作ったと思うし、今も新しいものを作り続けているそのスタンスは本当にリスペクト。
それまでいわゆるドメスティックでロキノン的なものばかり聴いてきた(それ以外の音楽の楽しみ方をわかりかねていた)中で、明らかに毛色の異なるこのサウンドをはっきりと好きになれた自分も嬉しかった。


5.LISTEN TO THE MUSIC/Shiggy Jr. (2014)

キャプチャ

この年に、人生で初めて自主企画というものをやらせて頂いて、その際にご出演頂いたのが秘密のミーニーズ、sukida dramas、そしてこのShiggy. Jrでした。このアルバムに関してのレビューは、執筆に参加させて頂いた「YEAR IN MUSIC 2014」こちらの文章に記載させて頂いているのでご参照頂きたいのですが、本当に瑞々しく可能性を感じた作品でした。
誤解を恐れずに言えば、紅白歌合戦に出る様なお茶の間へのグッド・ミュージックを運ぶ存在になると思っていたのですが、今年惜しくも解散されました。それでも2010年代の半ばにはこんな音楽があったんだぞ、と伝えられるように。


6.ROTH BART BARONの氷河期/ROTH BART BARON(2014)

キャプチャ

初めて聴いたとき、今まであまり触れたことのない、静謐なのに大きな包容力を持った音楽だと思った。そして今をもって、2010年代で一番自分の中で大きな存在になった日本のアーティストは彼らかもしれない。
"氷河期"というタイトルからもわかるように、雪の降りしきる曇り空の下を思わせるような、厳しい寒さを想起させる曲が並ぶ。しかしどの曲にも、どこか寒空の中のランタンのような、じんわりとした温かさが灯っているようだ。彼らの音楽を通じて、自分はフォーク・ロックと言われるものが好きなのかもしれないと自覚するようになりました。
2019年にも『けものたちの名前』という名作を上梓した彼ら、この先も応援していきたい音楽家です。なお、本作で一番好きな曲は"Buffalo"です。


7.paradise lost, it begins/吉田ヨウヘイgroup(2015)

キャプチャ

上記ROTH BART BARONと並んで、自分にとって日本の音楽の聴き方を新しく教えてもらったグループが彼らでした。管楽器によるクラシック的サウンド、存在感を放つ西田修大さんのすさまじいギター・プレイ、セロニアス・モンクが好きだと公言する吉田ヨウヘイさんのジャズ的アプローチ、などなどを混淆し、制作にあたってストイックな合宿を経て生み出された本作は様々なメタファーで「音楽」について歌われる作品である。
「楽園を失って、音楽が始まる」というタイトルが表すように、これまで楽しく音楽を摂取していれば良かった楽園の立場から、それを生み出し、その真理を求めようという覚悟を提示したアルバムだったと思うし、もっともっと評価されて欲しかったなと個人的には思います。
現在は主宰者の吉田ヨウヘイさん以外のメンバーは入れ替わってしまい、実質的にこのアルバムを作ったチームは2010年代のうちに離散してしまいましたが、いつかまたこの時のメンバーが笑って音楽を鳴らすステージがみれたらな、と思います。


8.To Pimp a Butterfly/Kendrick Lamar(2015)

キャプチャ

もうこれに関してはたーくさんのテキストがあるので、却って何かを書くのが恐ろしいのですが、なんていうかほんとに、これから歴史に残る一部を今聴いているんだなっていう感覚がありました。
ブラック・ライブス・マターの旗印として掲げられるアフリカン・アメリカンに関する話、制作に関わった名だたるプレイヤー達、色々と話題はこと書かなかったですが、こと個人的には、それまでギャングスタ・ラップ的なもののイメージから全般的に好きになれなかったラップ・ミュージックを素直に「かっこいい」と思わせてくれた作品でした。
"i"のギターリフとかめちゃくちゃ聴き易くてかっこよかったし、そこから"King Kunta"とか"Alright"とかどんどんはまったなー。
多分この作品以前、以後っていう区分が出来上ったと思うし、以後の現在にならされている音楽について、文脈をたどってもっと聴いていきたいな。


9.Surf/Donnie Trumpet & The Social Experiment(2015)

キャプチャ

ROTH BART BARONにフォーク・ロックの良さを教えてもらったとしたら、Social Experimentにはコンシャス・ラップやゴスペルの心地よさを教えてもらったなと思っています。キリスト教徒じゃないんでどこまでこの音楽の精神性が理解できたかはわかんないですけど。
これがフリー・ダウンロードで流通するなんて世の中進んだなーとも思いました。
なんか世の中貧しく暗い話が多くて、歳をとるほどどんどん気持ちがダウナーになってるんですけど、"Sunday Candy"の持つ多幸感には今も助けられています。なお、セイヴ・マネー周辺では僕はnonameが好きです:)


10.22, A Million/Bon Iver(2016)

キャプチャ

Bon Iverはこの2010年代で出会えてよかったなっていう風にどんどん思うようになっているアーティストですね。彼のコミュニティ・ミュージックっていう考え方も素晴らしいと思うし、彼のアメリカ由来の土着的なフォーク感とFrancis and the Lightのプリズマイザーと言われるヴォコーダーを通して発されるデジタル・クワイアの美しさはほんとに心洗われる思いです。何よりほんとにジャスティン・ヴァーノンの歌がいいですよね。
この美しさ、清らかさには救われる思いで耳を傾けています。来月の公演楽しみだー。

ふう...、年明け前どころか、朝まで生テレビが半分以上終わるところまでかかってしまいました(笑)
途中でも記載したように、フォーク/カントリー・ロック的なものが好きらしいなということにここ最近気づいたので、次はこの辺のルーツや聴けてない代表アーティストを改めて聴いてみたいなと思ってます。まずもってちゃんと音楽聴く時間とらないとなー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?