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季刊 自治と分権 2021年冬 第82号 ブックレビュー

尾林芳匡弁護士・入谷貴夫宮崎大学教育文化学部(現:地域資源創成学部)教授
編著「PFI神話の崩壊」

市川 京之助(自治労連愛知県本部・西尾市職員組合)


本書は、2009年(平成21年)に刊行されています。

奇しくも、2016年(平成28年)に愛知県の西尾市では、市の公共施設を対象として、14施設を解体して5施設に集約するほか、12施設の改修、7施設の運営、168施設の維持管理などを包括するPFI契約を市議会で議決しました。
この契約期間は最長30年間であり、総額は約214億円(税込み)です。

翌年の2017年(平成29年)には、市民団体の「西尾市のPFI問題を考える会」が支援した新市長が誕生し、市が2018年(平成30年)に策定した「西尾市方式PFI事業 検証報告書・見直し方針」に基づいて全面見直しが進むはずでした。

しかし、執筆時点(2020年11月)では、未だ膠着状態が続いています。
なぜ、このような状態になってしまったのか。書籍の内容をふまえて比較します。
本書は3部7章構成になっており、各章毎に関係著者が執筆しています。


第Ⅰ部 近江八幡市立総合医療センターPFI解約の教訓(第1章・第2章)

病院PFIからの脱却では、旧市民病院の移転・建て替えに伴い、30年にわたるPFI事業として開院しました。

しかし、初年度から資金ショートに陥り、検討委員会や市議会での議論の中で、契約相手方との交渉を経て、2年半後に解約となりました。

解約の成立には、契約相手方から損失補償額65億円以上の提示があったとのことですが、20億円で合意し、社会的責任を自覚してもらったとのことです。

西尾市においては、PFI契約において解除条項が明文化されていないことが問題視されています。市が不要と判断した公共施設について、契約したから何があっても建設するというのは、社会的責任も問われるところだと思います。


第Ⅱ部 運営型PFIの検証 ー病院・廃棄物処理施設・図書館ー(第3・4・5章)

高知県と高知市の高知医療センター、岡山県の倉敷市廃棄物処理施設及び三重県の桑名市立中央図書館の運営について、検証した問題
点が挙げられています。

PFIのメリットは、低廉かつ良質なサービスが民間資金によって提供されるというのが謳い文句でした。
しかし、契約後の利益確保のための追加請求、技術的根拠の不透明性及び人員確保と言いながらの低賃金労働は、そのまま西尾市にも当てはまる可能性があります。


第Ⅲ部 PFIをめぐる法と財政(第6・7章)

日本におけるPFIの導入は、自民党が1997年以降打ち出した経済対策の柱の1つとし、「民間資本主導の社会資本整備(PFI)調査会を設置したことが始まりです。
1999年(平成11年)には、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」が成立しました。
「等」が3つもある法律が他にもあるのかどうかは不勉強で思い出せないのですが、法律上での「等」は厳密に定義されます。

2000年(平成12年)には、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業に関する基本方針」が当時の総理府で策定されました。
今度は「関する」が2つです。法令用語では、広く関係するものを指します。

ところで、 2018年(平成30年)にはPFI法の一部を改正する法律が施行されました。
これに伴い、基本方針は次のように変更されています。
「PFI事業のための資金調達方法として、プロジェク ト・ファイナンス等新たな手法を取り入れることに加え、株式会社民間資金等活用事業推 進機構が、金融機関が行う金融及び民間の投資を補完するための資金の供給等を行うことにより、我が国におけるインフラ投資市場の整備の促進につながることが予想される。これらの結果、新規産業を創出し、経済構造改革を推進する効果が期待される。」

PFIは公共事業の分野で採用されるものであるため、情報公開による透明性が求められるものです。
西尾市のPFI契約においても、積極的な情報公開を進めながら、契約の見直しに相手方が応じることが望まれます。

払うものは払う。払えないものは払えない。
お金を必要としないのは、神様だけの話にしていただきたいものです。

(全文書き下ろし ノーカット版)

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