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市長選の争点となった「西尾市方式PFI」と住民運動

西尾市職員組合
市川 京之助

※平成29年10月20日の東海自治体問題研究所総会での講演内容に加筆し、自治体問題研究所に報告した内容を抜粋したものです。

1 はじめに

愛知県の南に位置する西尾市は、平成23年4月1日に西尾市と旧幡豆郡3町(一色町、吉良町、幡豆町)が合併し、人口約17万人、面積161.22㎢の都市となりました。

旧自治体の施設が重複することから、公共施設再配置計画が進められ、西尾市方式PFIの契約案が平成28年6月27日に西尾市議会で可決されました。

採決は、賛成15、反対11、棄権1であり、大きく議会が割れる結果となりました。

契約議決の前後で、市民団体の「西尾市のPFI問題を考える会」と西尾市職員組合は共同して市民ビラや市民集会などの運動を行いました。

平成29年6月25日の西尾市長・市議会議員同時選挙にて、「西尾市方式PFI事業の凍結・全面見直し」を掲げた中村健(けん)候補が当選しました。

2 一般的なPFI事業について

PFI(Private Finance
Initiative)の手法は、民間資金を活用した施設建設・維持管理などに使われます。契約相手は、その事業の遂行を目的とした特別目的会社=SPC(Special
Purpose Company)となります。

自治体がPFI事業を導入するにあたっては、直営とPFI事業による民間委託の費用比較を行って、どのくらいのコスト削減になるかのVFM(Value
For Money)を算出し、PFI事業による民間委託が有益かどうかを検討します。

PFIのメリットとしては、自治体は民間企業の競争によって建設及び維持管理のコストが削減でき、各年度の財政支出を平準化できることなどがあります。

ごみ焼却施設などの単体の施設で導入されることが多く、発注にあたっては要求水準書で行政側の基準を詳細に定めている事例が見られます。

3 西尾市方式PFIとは

(1)公共施設再配置が目的
西尾市がPFIの導入を進める理由は、1市3町の合併によって重複した公共施設を効率的・効果的に再配置し、維持管理コストを削減するためです。

西尾市公共施設再配置基本計画では、①原則、新たな公共施設は建設しない ② 優先度の低い施設は、すべて統廃合を検討
③市民と共に公共施設再配置を推進 と定められています。

しかし、選定された優先交渉権者からの提案では、温水プール、高層市営住宅及びスケートボード場などの提案があり、市民ニーズから離れたものになっています。

(2)建設業者の参入要件
西尾市方式PFIは「サービスプロバイダ方式」という施設運営優先の事業であり、契約相手の特別目的会社が建設業者に業務を発注するという仕組みです。施設運営を地元企業が担うことによって、運営しやすい建物が整備できるという理由です。

募集要項を公開する前の地元説明会では、建設業者は特別目的会社に加えない旨を伝えていましたが、募集要項では建設業者の参入を制限する要件はありませんでした。

(3)民間企業・市民・行政の連携(新たな官民連携手法 西尾市方式)
施設の建設及び維持管理などの基準を定める要求水準書の作成にあたっては、市民の意見を聞き入れた内容にすると説明していました。

契約後においても市民の意見を聞いて内容を変更できると市は説明していましたが、特別目的会社の代替提案(ヴァリアントビッド)を優先する契約条項があり、フィットネスクラブと銭湯を併設した吉良支所などの建設工事は急ピッチで進められています。

フィットネスクラブなどの民間営利事業は独立採算事業とされ、採算があわなければ3年で撤退してもよい契約になっています。

4 西尾市方式PFIの問題点

(1)最長30年、200億、1者契約
最長30年間にわたって、公共施設の新築や改修、維持管理を民間の特別目的会社(SPC)1社に任せるという全国でも例のない大胆な方式です。

平成28年6月の契約前には「30年間で327億円をかけ、約40施設の新設や改修、解体を進める」としていました。

しかし、特別目的会社の提案には、スケートボード場やフィットネスクラブなど、市民ニーズから離れたものがあると市民からの批判を受けた結果、契約ではスケートボード場(エクストリームパーク)、給食センターなどを先送りにし、「一部15年間(更新あり)、約198億円、31施設の新設や改修、解体」と規模を縮小しました。

それでも長期間・大規模・一者契約には変わらず、30年先を想定した公共施設の契約を一者と結んでよいのかという市民からの意見が引き続きあります。

また、契約書には市側からの解除条項がなく、業者側に有利な契約内容となっています。

(2)要求水準書が性能発注
従来の公共工事は、「仕様発注」による安全・適正のための詳細な仕様が基本です。西尾市方式PFIでは、「性能発注」として、要求水準書の性能を満たしていれば、仕様は業者に任せるという内容になっています。

昨今のPFIでは性能発注の事例もあり、西尾市はモニタリング制度を導入しています。しかし、契約相手の特別目的会社は施設建設をしないため、建物の安全がどのような基準で担保され、仕様協議の結果が適切に反映されるのか不明確です。

(3)直営と民営の費用比較(VFM)が不明確
西尾市方式PFIでは、VFMが3%と示されています。税金で支出するサービスに対し、PFI事業では直営よりも3%安くできるという意味になります。

しかし、市民からの情報公開請求による資料では、直営での算出根拠が不明確な箇所があり、どのような根拠で算出したのか疑問があります。

また、最長30年の事業での3%の数値は、誤差の範囲に含まれてしまうという指摘もあり、PFI事業を選択した明確な根拠が求められます。

(4)民間資金を活用した施設「買い取り」
特別目的会社は施設建設をしませんが、西尾市の契約相手ではない開発会社が建設した施設を、特別目的会社が「買い取る」という仕組みが西尾市方式PFIです。

この手法は全国でも類を見ず、特別目的会社が施設の「買い取り」で自治体に建物を提供できるのであれば、PFI事業に総合商社などが参入し、建設業者ではない事業者が公共施設を取り扱うことになります。

西尾市議会での市の答弁では、特別目的会社に建設業の許可はなくてもよいと国土交通省に確認したとのことですが、このような方式が想定されているのかどうかの法的な確認が必要です。

(5)法的な問題
特別目的会社が施設を「買い取る」という方式が、公共施設のあり方としてPFI法、建設業法に違反するのではないか、また、大規模一括発注が地元分割発注の趣旨を定めた中小企業基本法、官公需法に違反するのではないかとして、平成29年2月10日、名古屋地方裁判所に住民訴訟の訴状が提出されました。

平成29年9月13日に第3回口頭弁論が行われ、現在も係争中です。

5 契約議決と市民運動

平成28年6月27日、西尾市議会が西尾市方式PFIの契約を議決しました。

(1)議決前の動き(抜粋)
要望書(平成26年11月10日
一色地区町内会長連絡協議会から「一色支所の跡地に市営住宅建設の項目を削除する要望書」署名数12,876筆)、陳情書(平成27年11月18日、「公共施設再配置での西尾市方式の見直しを求める陳情書」署名数12,583筆・「一色学校給食センター建設に関する陳情書」署名数6,432筆:共に不採択)、情報公開請求、「西尾市のPFI問題を考える会」の市民チラシ及び市民集会(平成28年5月22日
西尾市方式PFIの白紙撤回を求める集会 約400人)、などの住民運動が起こり、契約直前でPFIの事業内容が変更となりました。

 住民運動には中心となる人物が必要であり、西尾市職員組合と平成23年度の1市3町合併反対で協働した市民の方々に加え、新たに関心を持っていただいた各業界及び市民の方々が参加したことで運動が広がりました。

 各業種の方を繋げるためには、見識が深く、即時に対応できる事務局が必要です。そのような人材がいたことがその後の運動に繋がっています。

 また、法的な問題については自治労連愛知県本部弁護団に相談できたことで問題点の整理ができました。

(2)議決後の動き
引き続き、市民から各情報公開請求が行われ、平成28年11月14日に西尾市方式PFI事業への公金支出を差し止めるための住民監査請求が提出されました。監査結果で市が棄却したことから、住民訴訟になっています。

引き続き、「西尾市のPFI問題を考える会」の市民チラシは各世帯に配布され、市民の関心を寄せながら市長・市議会議員選挙を迎えることになりました。

6 市長・市議会議員同時選挙

平成29年6月25日の市長選では、西尾市方式PFI事業の「推進」をする榊原康正候補(77歳・現職)と「凍結・全面見直し」を選挙公約とした中村健候補(38歳・新人)の争いになりました。

選挙の争点を「西尾市方式PFIの見直し」とするために、西尾市のPFI問題を考える会は、PFI事業の問題を伝える市民集会を各所で開催し、市民チラシを住民運動によって市内各域に配布しました。

PFI事業の問題は市民に広く知られることになり、中村候補を応援する動きが強まりました。

投票日直前、契約相手の特別目的会社「エリアプラン西尾」が市内全戸にPFI事業のチラシ配布をしたため、PFIが市長選の争点になっていることが浮き彫りになりました。

投票結果は、中村健候補が58,351票を獲得して当選し、榊原康正候補は31,187票で敗れました。(有権者数134,066人、投票率68.05%)

また、西尾市議会議員選挙は、定数30人に35人が立候補しました。平成29年10月20日時点での会派の構成は次のとおりです。

市民クラブ17人、至誠クラブ7人、公明党西尾市議団2人、日本共産党西尾市議団2人、無所属2人。

7 市長交代後の動き

平成29年8月10日、PFI事業を担当している市の資産経営戦略局とは別に、市長直属のPFI事業検証プロジェクトチーム(兼務6人)が設置されました。同日に、契約書に基づきPFI事業の契約業者(エリアプラン西尾)に工事中止通知を出しました。21日間を経過しても協議が整わないときは、市は事業の継続についての対応を定め、契約業者に通知することになっています。

10月1日には、西尾市企画部企画政策課PFI事業検証室が設置され、計画担当、検証担当を含む9人が専任職員として任命されました。

引き続き、西尾市はPFI事業の検証を続けていますが、契約業者は建設及び解体工事を進めている状況です。

10月20日に西尾市議会10月臨時議会が開催され、中村健市長が所信表明を行いました。

<所信表明要旨>
市長選では、西尾市PFI事業の凍結・全面見直しを政策目標として、58,000あまりの票で当選した。PFI事業については、必要に応じて工事を中断し、事業の見直し、変更を行う。これまでの検証及び現在の進捗状況については、市民に公開していく。

10月27日には、西尾市からエリアプラン西尾にあらためて工事中止通知を出しました。主な内容は、建設が進められている吉良支所棟の工事を止める時点の協議、一色町公民館などの3館の工事は継続、旧一色支所の解体工事の中止、平成30年度建設予定のきら市民交流センターアリーナ、10階建て多機能型市営住宅、寺津温水プールなどの実施設計の中止などです。

8 今後の市民運動

工事を中止しない契約業者に対して、西尾市のPFI問題を考える会は、中村市長の選挙公約を応援するための署名活動を平成29年10月14日から始めました。若い市長を応援する声は強く、署名に足を止める市民が数多く見られます。応援する署名だけではなく、市民にPFI事業の情勢を知らせる市民チラシや市民集会も必要に応じて実施されます。

住民訴訟は継続していますので、法的な問題については司法の場で明らかにしていく動きが引き続きあります。

9 情報発信
WEBでは下記の情報が発信されています。

・ブログ(西尾市のPFI問題を考える会)
 http://nishiopfi.blogspot.com/2016/04/no1.html

・SNS(Facebookグループ 「西尾市pfiを見直そう!」)
※西尾市のPFI問題を考える会ではなく任意グループの投稿です。

・西尾市ホームページ PFI事業
http://www.city.nishio.aichi.jp/index.cfm/7,0,82,669,html

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