検察審査員をやっておりました

この度検察審査会の補充員なるよくわからんものに選出され,任期を終了しましたので感想文等を書いてみようと思います。私と同じように選出されたはいいけど何だよそれという方の参考になれば幸いです。
なお検察審査会法(以下「法」という。)44条により守秘義務が課せられているため,審査に関する具体的な内容は書くことができません。そのため,曖昧でよくわからない表現になってしまうかもしれませんが,予めご了承ください。
また,引用している法令は執筆時点で最新のものを参照しています。法改正などにより内容が異なる場合がありますのでご注意ください。

そもそも検察とは

検察が何なのかがわからなければ何を審査するのかもわからないわけですが,検察とは何かというのはおそらく検察庁法というものを見ればよく,

検察官は,刑事について,公訴を行い,裁判所に法の正当な適用を請求し,且つ,裁判の執行を監督し,又,裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べ,又,公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。

検察庁法4条

といったことが書いてあります。長くてよくわからないのですが,「公訴を行い」の部分が重要です。

刑事事件が起きると,捜査機関(警察など)が捜査を行い,速やかに書類・証拠とともに検察官に送致しなければなりません(刑訴法246条本文)。事件を送致された検察官は,被疑者を起訴するか起訴しない(起訴猶予)かを判断します。起訴しない場合というのは

犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。

刑訴法248条

というような場合です。ちなみに,犯罪白書によると起訴率は約3分の1程度だそうです。
(刑事訴訟の大まかな流れは裁判所の解説が詳しいのでそちらを参照してください。)

検察審査会のお仕事

検察のお仕事が何となくわかったところで,ではそれを審査する検察審査会とは何なのかというと,

公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため,政令で定める地方裁判所及び地方裁判所支部の所在地に検察審査会を置く。

法1条本文

ということになっております。「公訴権の実行に関し民意を反映させて」というのは,要するに起訴/不起訴の判断が妥当であったのかを有権者が審査するというものです。より正確には,不起訴処分が妥当であったのかを審査します(起訴が不当であったのなら裁判で無罪になるのでわざわざ審査しないでいい)。

具体的には,担当する事件について以下のような判断をします(法39条の5第1項)。

  • 起訴相当 (不起訴処分は間違っている,起訴すべし)

  • 不起訴不当 (より詳しく捜査してから判断し直すべし)

  • 不起訴相当 (不起訴で問題ない)

基本的には多数決で決定するのですが(法27条),起訴相当については慎重に判断すべきとの理由から11人中8人以上の多数が必要です(法39条の5第2項)。

検察審査会は全国の地裁とその主要な支部に設置され(法1条1項),合計165か所あります(一覧)。東京(第1から6)や大阪(第1から第4)など大都市では1つの地裁に複数の審査会が設置されています(人口が多い分事件も多いため)。

選出されるまで

私の任期は令和5年3群(令和5年8月1日から令和6年1月31日(法14条))でした。一部の日程は群によりずれる可能性があります。

まず,令和4年11月10日付(任期開始9月前)で「検察審査員候補者名簿への記載のお知らせ」が来ました。(法9条,11条の書き方からするに,この日程は群によらないのではないかと推察されますが,1群はこれだと間に合わないような気もします。)
これはその名の通り候補者に選ばれましたよという通知であり(法12条の2第3項),この時点では検察審査員に選出されたわけではありません。候補者数は各群100人ずつで(法9条2項),各市町村の選挙管理委員会が調製する衆院選選挙人名簿の中からくじで選ばれます(法4条,10条1項)。
有権者の中からバランスよく意見を取り入れるため,検察審査員に選出されると原則として辞退できませんが(正当な理由なく拒むと処罰される),審査員となれない人(法5条)や職務に就くことができない人(法6条)が法律で定められている他,高齢者や学生などは辞退することもできます(法8条)。私は学生ですので辞退することもできたのですが,法律好きとして辞退するわけにはいかないと思い辞退しませんでした。

次に掲げる者は,検察審査員となることができない。
 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に定める義務教育を終了しない者。ただし,義務教育を終了した者と同等以上の学識を有する者は、この限りでない。
 一年の懲役又は禁錮こ以上の刑に処せられた者

法5条

次に掲げる者は,検察審査員の職務に就くことができない。
 天皇,皇后,太皇太后,皇太后及び皇嗣
 国務大臣
 裁判官
 検察官
 会計検査院検査官
 裁判所の職員(非常勤の者を除く。)
 法務省の職員(非常勤の者を除く。)
 国家公安委員会委員及び都道府県公安委員会委員並びに警察職員(非常勤の者を除く。)
 司法警察職員としての職務を行う者
 自衛官
十一 都道府県知事及び市町村長(特別区長を含む。)
十二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)及び弁理士
十三 公証人及び司法書士

法6条

次に掲げる者は,検察審査員の職務を辞することができる。
 年齢七十年以上の者
 国会又は地方公共団体の議会の議員。ただし,会期中に限る。
 前号本文に掲げる者以外の国又は地方公共団体の職員及び教員
 学生及び生徒
 過去五年以内に検察審査員又は補充員の職にあつた者
 過去五年以内に裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成十六年法律第六十三号)の規定による裁判員又は補充裁判員の職にあつた者
 過去三年以内に裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の規定による選任予定裁判員であつた者
 過去一年以内に裁判員候補者として裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に出頭したことがある者(同法第三十四条第七項(同法第三十八条第二項(同法第四十六条第二項において準用する場合を含む。),第四十七条第二項及び第九十二条第二項において準用する場合を含む。)の規定による不選任の決定があつた者を除く。)
 重い疾病,海外旅行その他やむを得ない事由があつて検察審査会から職務を辞することの承認を受けた者

法8条

辞退の申出はなるべく直前の事情を考慮することから令和5年4月頃に質問票が来ました(法12条の4)。なお,辞退の申出などについてもそれを認めるかどうかはその時に職務を行っている検察審査会が判断します(法12条の7第2項)。
欠格事由等に該当せず候補者名簿から削除されなかった場合,その後さらにくじにより検察審査員及び補充員が選定されます(法13条1項)。このとき選出される人数は審査員と補充員それぞれ5ないし6名で合わせて11名です。参院選と同じような感じで6月の任期が3月ずつ重なるようになっていて,交互に5人と6人が入れ替わって常に審査員11人,補充員11人となるようになっています(法13条1項)。
選出される確率は地域によって異なりますが,全国平均で1万4000分の1(0.007%)程度だそうです。三槓子より多く字一色よりわずかに少ないくらいですね。

選出されると,初回(今後の予定を決める)に参加できるかについての回答書を送れと言われるのですが,そこで会社勤めの方は会社への依頼状(?)を送るように頼めるそうです。検察審査員は公の職務なので使用者はその間に労働させてはいけないのですが(労基法7条,法42条の2),その旨をお願いしてくれるものであろうと推測されます。労基法7条による休みの間は無給でも文句は言えませんが,審査会から旅費と日当が支給されます(法29条)。私の場合は,移動が片道約30分程度,拘束時間10時から15時半頃(うち1時間休憩)で1日当たり8000円程度が支給されました。学生からしたらいい時給。

なお,検察審査員に選出されたこと自体は公にしても処罰されることはありませんが,関係者(事件被害者など)から審査に対して圧力をかけられる恐れがあることから推奨はされないそうです(もちろんそのようなことがあれば圧力をかけた側が処罰されるのですが(法44条の2))。

任期開始後~

初回: 宣誓式など

いつ頃だったかは忘れましたが裁判所内の会議室に出頭せよという招集状が送られてきます。多くの裁判所は入り口で手荷物検査があるため,余計なものは持って行かない方がよいです。2回目以降については臨時入館許可証をもらえて職員入口から手荷物検査をスキップして入館することができます。傍聴で通っている人からしたら感動ですね。服装については特に規定はなく,Tシャツ短パンサンダルでも怒られはしないと思います。私はよくわからなかったので初回にスーツで行ったら全員カジュアルな私服で一人だけ浮きました。

初回の出頭時には,審査会の概要説明(どんなことをするのかビデオを見せられました),裁判所長の挨拶や宣誓式が行われます(法16条)。宣誓というのは「良心に従い公平誠実にその職務を行うべきこと」を誓うものです(法16条3項)。ちなみに宣誓の拒否に対しても罰則規定があるようです(法43条2項,10万円以下の過料)。

続いて,既に任期を半分終えた群(私の場合は2群の皆さん)と合流し,実際に会議が始まります。検察審査会議は審査員11名の出席がないと成立しませんが(法25条1項),社会人11人が平日の朝から全員集まるわけがないので,足りない人数分を補充員の中からくじで臨時の検察審査員として選出します(同条2項)。
11人の審査員(と臨時の審査員)が出席すると,まず審査会の会長を互選により決めます(法15条1項)。議長は会議の進行を取りまとめたり積極的に発言したりする役割があります。通例として既に3月の経験がある先輩方の中から選出されます。法律で「互選」と明示されているので会長はくじなどの方法で決めることができません。また,補充員は会長となることができません。

審査会議

会長が選出されると,初日からいきなり審査を行うことになります(日程によるかもしれませんが私の場合はそうでした)。
審査対象の事件は多くの場合関係者(主に被害者及びその申立代理人弁護士)からの申立によるものです(法30条本文)。検察審査会事務局が申立書を受理すると,検察庁に対して当該事件に関する資料(不起訴の裁定書や捜査資料など)を請求します。検察庁から提出された資料を事務局でまとめて摘録が作成され,審査会議で実際に読むのは摘録になります。
また,申し立てによらず審査会の職権により審査を行うこともできます(法2条3項,申し立てによる審査は全体の数パーセント程度)。

審査開始にあたり,事務局から申立人(及び代理人弁護士)及び被疑者の氏名・住所・職業,不起訴処分をした検察官の官職氏名が伝えられ,除籍事由の確認が行われます。事件関係者一定の身分関係にある人は審査会議に参加することができません(法34条)。

検察審査員は,次に掲げる場合には,職務の執行から除斥される。
 検察審査員が被疑者又は被害者であるとき。
 検察審査員が被疑者又は被害者の親族であるとき,又はあつたとき。
 検察審査員が被疑者又は被害者の法定代理人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人又は補助監督人であるとき。
 検察審査員が被疑者又は被害者の同居人又は被用者であるとき。
 検察審査員が事件について告発又は請求をしたとき。
 検察審査員が事件について証人又は鑑定人となつたとき。
 検察審査員が事件について被疑者の代理人又は弁護人となつたとき。
 検察審査員が事件について検察官又は司法警察職員として職務を行つたとき。

法5条

除籍事由に該当しないことを確認した後,事件概要の説明があり,その後手記録資料を読みます。事件の内容(=摘録資料の厚さ)にもよりますが1時間から1時間半程度の間摘録を各自で黙読し,その後意見交換を行います。このとき,臨時の審査員にならなかった補充員についても会議に参加し(法25条の2),意見交換でも発言します。
意見交換が終了し,資料を読み直す必要がある人がいなければ,投票が行われます。決定する内容は「不起訴相当」「不起訴不当」「起訴相当」のいずれかになります。不起訴不当及び起訴相当の場合には,事件を検察に戻す必要がありますが,このときに検察官が下した判断のどの部分が不適切であったかを指摘する必要があるため,投票の際にこれも記載する必要があります。
裁判所が公開している統計資料によると不起訴相当が6~8割程度,不起訴不当が数パーセント,起訴相当が1パーセントかそれ未満となっているようです。(具体的な数字は出せませんが感覚としては私の任期中の議決結果と合うように思います。)

とはいっても審査に法律の知識は不要で,必要があれば事務局に質問することができます。さらに,複雑な事件であれば弁護士の中から事件ごとに審査補助員を委嘱することができます(法39条の2)。
また,必要があれば検察官を読んで直接話を聞くこともできます(法35条)。

議決後は議決書を作成し,11人の審査員が署名押印します。さらに,議決書の謄本を検事正に送付し,議決の要旨を裁判所内にある審査会の掲示板に掲載します(法40条)。
審査の途中に検察が起訴の決定をした場合には審査が打ち切りになるためその旨の議決を行い,議決書を作成します。

「議決書を作成します」と書きましたが実際に審査員が文章を一から考えるということはなく,議決書案を事務局で作成してくれるので,審査会としてはその内容で問題ないかを確認するということを行います。謄本の送付や掲示なども事務局で行ってくれます。

審査会議は概ね毎月1回程度開催され,1回で事件審査を1件程度行います。したがって任期中に6件程度の事件を審査することになります。(もちろん事件の内容によってもペースは異なります。また,公訴時効が近いなどの事情がある場合には月に複数回開催されることもあります(法33条1項但し書)。)
当日の体調不良等により補充員を合わせても11人の出席に満たなかった場合には審査会議は成立しません。そのような場合には,せっかく集まっているのでいる人だけでも何かしようということで「小委員会」を開催します。ここでは次に審査予定の事件(既に審査中の事件があればそれ)の摘録資料を読んで予習します。

任期終了

任期最後の会議の後に,終了式が行われ,感謝状をいただきました(これは税金の無駄では……)。

任期終了後も守秘義務はあります(法44条2項及び3項)。

感想

犯罪に巻き込まれた被害者の方がいらっしゃることを考えると「面白かった」などというのは不適切かと思いますが,非常に貴重な経験ができてよかったと思います。

刑事裁判で検察官が「甲n号証は~」とか言っている証拠のオリジナルの資料を見る機会というのはありませんので(裁判員くらいでしょうか),傍聴に行くような人にとってはとても面白いと思います。

裁判員はかなりキツい証拠もあって辛いこともあるようですが,検察審査会の審査対象は不起訴になったような事件なので気分が悪くなるようなことはないと思います。

気になった点としては「市民感覚」に引っ張られ過ぎていることが挙げられます。法律の知識は不要ということで事務局から何度も「市民感覚でいいので」と言われましたが,そうすると「こんなに証拠があるのに不起訴なのはおかしい。」などと言いだすわけです。しかしそんなことを感情的に(?)言われてもプロである検察からしたら「素人は黙っとれ」でしかありません。もちろんそんなことを言ってしまうと検察審査会の趣旨に反するので言われないのですが,審査会側ももう少し法律を意識してもいいのかなと思いました。

(職務上知り得た秘密を漏らさないようになるべく法令からわかることを書いたつもりですが大丈夫なんだろうか……)


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