ミラステ感想_001_002

舞台「炎の蜃気楼 昭和編 散華行ブルース」雑感

「環結」しました。

感想と言うか、4年半舞台を追いかける形になった上でのあれこれを少し書いておこうと思います。もう、私がごちゃごちゃ言うのも野暮な気がして(笑)長くなりますので、適当におつき合い下さい。感想イラスト的なものだけ見たいという方は、スクロールした最後にあります。

私がこの舞台に関わることになったのは、かれこれ5年前、舞台「双牙」のレポートをさせて頂いたことに始まります。

担当氏には私が学生時代から10年以上演劇をやっていたこと、今も演劇が大好きなことなどよく話していましたし、担当氏も観劇が好きな方なので、おもしろかった舞台の情報交換などをよくしていました。

あるとき、彼女が「すごい舞台がある」と紹介してくれたのが、「双牙」という舞台でした。辻さんというオタクで(笑)演劇に熱いプロデューサーが作った舞台がかなりおもしろいと言う話を聞き、DVDを見せてもらいました。……すごかった!こんなにおもしろいエンタメ作品を作ってる人がいるんだと、久々にテンションが上がりました。速攻、自分もDVDを購入しました。

そこから再演の舞台のレポート漫画を描かせて頂く流れになりました。実のところ、演劇のレポート漫画を描くのははじめての経験でした。私自身演劇に対する思い入れが強すぎて、どう距離を取ったらいいのか分からずにいた時期がありました。何者にもなれず決別することを決めた世界なので、少しの感傷とあこがれと嫉妬と、いろいろな感情が入り交じっていて、客観的になれなかったのです。昔かじったことのある演劇ファンという、全方位でめんどくさい立ち位置にいるため(笑)ファン目線ににもなりきれず、いっぱしに知ったかぶるような書き方になってしまうんじゃないか、という不安が少しありました。ですが、それ以上に、自分が今漫画家として活動している基礎にあるのは演劇なので、どうにかその魅力を伝えることで恩返しができないか、という気持ちがありました。少しだけ中を知っている自分が、ちょっとだけ違う目線で見た感想を伝えることで、原作のファンの人たちが、もう一歩踏み込んで、演劇を楽しんでくれたらいいなと思いました。

そういった気持ちで「双牙」のレポート漫画を描かせて頂きました。雑誌の箸休めコーナーなので反応はそんなにありませんでしたが(笑)個人的には満足しています。本当に楽しいお仕事でした。

その流れで、担当氏から「炎の蜃気楼」の舞台化を進めているという話を聞きました。レポート取材からきちんと自分の仕事につなげた担当氏すごい!

レポート漫画の話を頂いたとき「私でいいんですか?」と尋ねました。だって あ の ミラージュです。友人にもディープなファンが何人かいるのでよく知っています。人生を捧げた人が何人いることか!私のようにぬるい読者が関わっていいものか……。依頼された仕事は基本的にすべて請けていますが、今回ばかりは不安がよぎりました。ファンに怒られるんじゃないか(笑)ミラージュは当時コバルト文庫に挟まっていた翌月発売の予告チラシを見て知りました。ファンだった東城和実先生の挿絵の歴史奇伝小説っぽいのが出る、と興味を持ったのです。翌月、書店に走りました。それからしばらく追いかけていたのですが、いつの間にやら小説を追いかける余裕がなくなり、遠のいていたので少し後ろめたい気持ちもありました。

しかし、担当氏が「今回の仕事はミラージュのファンよりも、演劇を好きな人が関わった方がいいと思う」と言ってくれました。ミラージュの世界はすでにファンのものです。ひとりひとりが、心の中にあるミラージュを舞台に投影して感想を持つだろうから、公式から出すものは、私のように演劇を好きな人間がその舞台をどうみるかという視点の方が、みんなの心のミラージュ観を邪魔しないんじゃないか、ということだったんだと思います。私はそう解釈しました。

以前から、桑原先生の仕事ぶりに関して遠巻きながらすごいと、よく友人と話していました。なにせあの執筆量です。ひとつのシリーズ、しかもあの長さを書ききった筆力、それ以外の作品もコンスタントに描き続ける体力と精神力。プロの本質は、書き続けることです。コンスタントに執筆を続けることの難しさを、私はデビューしてから知りました。あの壮大な世界を書ききることはもちろんですが、ずっと執筆をされていること、それ自体がすごい。世にいる創作に携わっている人たち、すべてに言えることです。創りつづけることはすばらしい。桑原先生と知り合い、直接お話をさせて頂く機会に恵まれたのが、今回の仕事で一番よかったことです。気さくに声をかけて下さって、本当にありがとうございました。

幸いなことに、レポート漫画も好評を得られました。楽しみにしていると言ってくれる方も何人かいて、ホントに描いて良かった。直接は怒られなかったし(笑)(影では不満もあったかもしれませんが、そこはご愛敬)前回も個人的に描く気満々だったのですが、諸々事情がありまして、結局描けなかったのが悔やまれます。前回はゲネプロとあわせて3回も観たって言うのに!

俳優の皆さんの苦労は、もう私なんかがどうこういう必要もないでしょう。あんなの大変に決まってる!身を削ってやらざるを得ませんもの。そういう作品ってあるんですよね。全力でぶつからないと絶対に向き合えない作品。そういう作品と出会えた幸せというのもあるでしょうね。関係者の皆様のこれからの活動も応援していきたいと思います。

この4年半、ミラージュの長い世界、桑原先生とファンの方々の人生のほんの一画ですが、遠巻きながら関わったことで、いろんな物を見ることができました。演劇人の本気も見たし、ファンとう存在の大きさも感じました。なにより、創作ってほんとにすごいなと実感しました。きっとあの当時ミラージュを書き始めた先生だって、この未来は想像もしていなかったと思います。我々エンタメに関わるものは、日々打ち切りや満足のいかない完結の不安にさらされています。物語にピリオドを打てるというのは、すごいことなのです。そういう中、あの壮大な物語を書ききった、その先で、物語がさらに広い世界に飛び出し、こんな風に帰ってくる、そういう夢のようなことがあるんだと目の前で見せてもらいました。

どれだけ努力しても得られないものはたくさんあります。でも、努力した、真摯に向き合った先にしか得られないものもあるんだと、改めて実感しました。創作という孤独な作業のその先にこんなにステキなものが用意されることもあるんだと、なんというか、創作の果てにあるひとつの幸せの形を見せてもらいました。いつかこんなコトが起きるなら、私も頑張って漫画を描いていこう。もちろん起きないかもしれない。でもいつか起きるかもしれない!

それと、今回のカーテンコールを見ながらふと、別の舞台を一緒に観に行った時に友人漫画家さんが言っていた言葉を思い出しました。その方はあまり観劇経験がない人だったのですが、誘ったお芝居をとても楽しんでくれました。その時に「演劇ってとても優しいエンターテインメントだね」と言っていました。漫画や小説というのは、読者をその世界に引きずり込んで、感情をかき乱しそのまま現実の世界に放り出す、ある意味ひどい(笑)一面があります。確かに(笑)それこそが、世界に浸れる醍醐味でもあるんですが。しかし、演劇にはカーテンコールがある。上演中どんなに心をかき乱され、つらい世界を見せつけられても、最後に笑顔で俳優さんがでてきて、今まで殺し合っていた相手とも笑顔で握手を交わす。これってとても優しい世界だよねと。今まで魅せてきたのは作りものですよ、現実ではありませんよ、ここから劇場から出てからが現実の世界ですよと、切り替えさせてくれる、傷つけておいてそのまま放り出したりしない(笑)

この感想は目から鱗でした。ごく当たり前のように受け入れていたカーテンコールですが、そうか、言われてみれば、そういう効果もあるかもしれない。そんな話を思い出しながら、ミラステのカーテンコールを観ていました。二十数年分の創作でかき乱されたファンの方々の気持ちを、このカーテンコールが全部まとめて終わりにして、明日の現実に背中を押している、そんな風に思えました。物語としての「環結」そして、正しく「完結」するために、この「舞台」という形はなかなかにふさわしかったんじゃないでしょうか。

そんな感じで、感想と言うか4年半、謎の距離感から眺めていたムーブメントの総括です。一歩踏み込んだ場所の少し上の方から眺めている、そんな気持ちで関わってきました。まあ、途中から仕事じゃなくなってたので、勝手に関わっていたんですが(笑)おもしろい経験をさせて下さった、コバルト編集部、担当I氏、桑原先生、辻P、ファンの皆様、ありがとうございました。ほんの数ページ、箸休め程度のコーナーでしたが、本当に楽しいお仕事でした。

担当I氏とは舞台が終わった後、ごはんを食べながら感想を語りました。本当にお疲れ様でした。関わらせてくれてありがとう!

ここからは最後の感想イラストです。もっといろいろ描きたかったんですが、切りがないのでこの辺で。細かいけど伝わるといいな、ミラステ選手権(笑)似顔絵描くのもこの仕事に関わって、好きになったし得意になりました。



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