お題【1】

さっそく第一回からつらい

 気づけば、龍太郎が泊まらなくなって半年が経っていた。アイツ専用に買った枕を押入れの中へ片付けたのは、期待したくなかったから。初めからそこになければ気持ちが浮き沈みする事もない。
 けれども、では別れ話でも切り出されたかと言われればノーで、現に明日会わないか。と約束を取り付けてきたのは龍太郎からだった。
 一年前ならば、そういう日は前の晩から必ずアイツは泊まった。何も言わなくともそれが当たり前の様に家に来ては、風呂に入り求め合う。けれども、その頃から予兆は既に影を潜めていたのかもしれない。
 龍太郎は嘘がつけない男だ。少なくともアイツが俺に抜き差しならない嘘をついた事はこれまでなかった。
 嘘の匂いというのは、仕事柄よく分かる物で、それはアイツにしても同じだろう。特に恋愛を伴う感情の動きは顕著だ。知りたくない事まで、その目が俺に語りかけてくる。

 俺は間違えた。あの日、まだ俺たちが大人になりきれない子供だった夜。龍太郎の目が俺の心を固めさせてくれた。けれども、本当は気づかないふりをすればよかったのだ。どれだけ龍太郎が好きで、大好きでも無視するべきだった。
 そうすれば、愛する事だけはきっと赦される筈だから。心だけは守られる。
「運命の相手、だなんて子供っぽいけど俺は好きだったぜ」
 誰に聞かせるでもなく呟いた声は柔らかなベッドへ吸い込まれていく。ここで何度も龍太郎と抱き合った。愛し、愛され、愛を囁いたのに。

「許してくれよ、なあ。龍」
 あの日の俺を許してください。何もかもが間違いだなんて言わないけれども、それでも及川は誰を恨むでもなく、シーツの海へ沈み込むと一雫だけ涙を零した。