「祈り」にも似た言葉 井上ひさしさんへのエッセイ
★河出書房新社 文藝別冊「井上ひさし」2013年3月発刊 寄稿
わたしが井上ひさしを「先生」とお呼びするようになったのは、二〇〇八年六月のことだ。
紀伊國屋サザンシアターで上演された舞台『父と暮せば』の開演前。先生はロビーから少し離れた衝立の向こうで、御著書にせっせと署名されていた。お邪魔してはいけないと、ご挨拶だけするつもりでそっと声を掛けた。すると先生は、わたしを衝立の内に招き入れ「過去の時間を、溶け込ませたらいいと思うんですよ……」とふいに語り始められた。最初は、