台東区の避難所におけるホームレス対応で思い出したこと

あれは、自分がまだPR代理店に勤務していた頃なので、もう四半世紀も前のことだろうか。その会社のメインクライアントはD通で、商品に留まらず、企業のイメージアップ(今で言うCRS)などにも先駆けてPRの手法を取り入れていた。PRに大学教授や有識者団体を取り込む手法も当時始められたものだ。

なお、そうした手法が取り入れられた頃は、まだ色々とおとなしいもので、「◯◯は●●に良いから、積極的に摂ろう」くらいのトーンだったが、それがヒートアップして「本当は怖い◯◯!解決策はこの食品!!」のようなリスクコミュニケーションに変わっていったのは、みのもんたの「おもいっきりテレビ」やフジテレビの「あるある大事典」を観ていた人なら、「ああ、そういうことか」と思い当たる節があるだろう。

さて、当時、自分はとあるプロジェクトのチームとして、D通CC局(当時)と呼ばれる部署のお偉いさんの別荘だか別宅だかに招待された。5〜6人で伺っただろうか。別宅らしく、生活感のない空間だった。

そのうち、話はそのお偉いさんの奥さんの話になり、彼は「ウチのはカラダが弱いから、できるだけ汚いものは近づかないようにしてるんだ。ホームレスとか、近くにいるだけで病気がうつりそうだ」といった旨の発言をした。自分はひどく驚いた。普段は「エビデンスが、エビデンスが」と言っている人が、余りに科学的根拠に欠けることを言い出したからだ。

普通に考えて、路上生活者がみな空気感染をするような病気に罹っているとは考えづらい。もし、そうであるなら日本はとっくにパンデミックに陥っている。

若かったからかもしれない。自分は思わず「それって差別じゃないですか?」と言ってしまった。

そもそも、重宝されているとはいえ、吹けば飛ぶような弱小PR代理店がメインクライアントであり、日本を代表するD通のお偉いさん、当時は確か局長クラスだったが、今後更に偉くなることを嘱望されている人に対して楯突くなど、恐らく社会常識的にはあり得なかったのだろう。あの場の空気が一瞬で凍りついたのを、自分も鮮明に覚えている。

しかし、何より驚いたのは、自分の発言に対する彼の反応だった。

「なんだ、キミはアカか?」

彼はそう言ったのだ。

「アカ」と言われても、そのときの自分には意味が分からず、ひたすらキョトンとしていた。

しかし、今思う。

日本で人権思想を持つことは、当時から「アカ」、すなわち共産主義的であると見なされていたということ。戦前から共産主義的なるものを徹底的に弾圧してきたことは、日本人に「共産主義は弾圧され、特高に捕まって拷問死される」「共産主義的な考えを持つことは恐ろしい」という潜在意識を植え付け、さらに非常に古い一部の共産主義が暴力革命による社会変革を掲げてきたことを殊更に取り上げ、日本人が「人権意識」を持つことに対し入念にハードルを上げてきたことだと。

そうして、日本は戦後70年以上経ち、基本的人権と恒久平和を謳った素晴らしい憲法を持ちながら、国民に人権意識は根付いていない。他人の人権どころこ、自分が持つ基本的人権すら理解していない。

それは、国が、巧妙に仕組んできた政治戦略であり、それを具現化してきたのは、自分に対して「キミはアカか」と発言したエリート層なのだと思う。

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