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パチンコで負けた帰り道
電車に乗っていると
酔っ払った外国人男性と日本人女性のカップルが流れ込んできた

外国人の方はベロベロで彼女に全体重を預けていて
彼女は必死に支えていた

外国人は立てないほどに酔っているのに
彼女の肩や頭、胸を撫で回していた
凄まじい性欲だ

数駅の間
男の方は支えられながらもフラフラとして周囲の人に
体当たりを繰り返しながら彼女の身体を撫で回していた
目の前に座っている人はいつ
ゲロをぶちまけられるか分からない恐怖で
ずっとジェットコースターのピークみたいな顔をしていた

人がたくさん降りた駅で
彼女が一旦吊り革に彼氏を任せて
強引に座席を2つ獲得した
正直周囲の人の善意が作り出した2席だ。

彼女はこの混雑時の中
私の豪運が！さぁ！早く座って！私の豪運にあやかってさ！
というドヤ顔で吊り革からバトンを受け取ろうとしていた




彼氏は吊り革を撫で回していた


彼女がさあ！早く！


そう言って手を引っ張っても

彼氏は吊り革を撫で回していた


彼女が故障した宇宙船の脱出装置から
手を伸ばして早く！早く！と言っているのに

俺はここに残るよ。じゃないとさ
こいつが寂しいだろ
そう言ってAIロボットを撫で回していた


そう見えるぐらい粘っていた



何も知らないその2席に座ろうとしている人がいたが
周囲の人たちがここはあの人たちに座らせてあげて
みたいなアナウンスをしてあげていた


彼氏の握力が彼女の握力を下回り
ついに席に座った


しかしあまりの粘り腰に
その隣になってしまった女性がビビり散らかしてしまい
あたふたしていた


見かねた対面に座る勇敢な外国人の男性が
スイッチ！スイッチ！とその席に座ってあげていた


するとそれが気に入らなかったのかなんなのか
撫で回しマンが
ヘイ？
みたいな感じで喧嘩をふっかけていた


俺含め周囲の人間が

ホワイ？

この状況での一言のお題で
答えを合わせましょうだったら
クリアできるぐらいホワイだった


スイッチジェントルが
君たちは逃げて
みたいな顔で周囲を見渡した後
仏のような真顔で正面を見て座った

そこに鉄格子が見えるくらい
一方通行の睨み合い、冷戦が開戦した



撫で回されガールは
まだ自分の豪運だと思い込んでいるのか
今日のこれまでの撫で回しダイジェストを
走馬灯用に編集しているのか
知らんぷりで少し上を見つめていた




やがて渋谷撫で回し・回され師匠が
下車して行った

彼らがこの後この街で
撫で回し寄席を開催することは容易に予想できるが
回し師匠の休演の可能性もあった為
俺は大人しく見過ごした





みんななんでこんなに優しいんだろう



体当たりされても何も言わない人
ゲロヒゲ危機一髪の人
豪運の夢を見させてあげた空気の読める人
スイッチジェントル

どう考えても誰かが
何か文句を言ったり
最悪手を出しても俺は全力で味方になるし
俺はゲロヒゲ用にハンカチの準備も完了していた


みんななんで？？？




そうか



彼らは爆弾で


みんなは爆弾処理班だったんだ



爆弾が爆発しないように
優しくそっと線を選びながら
動かさず衝撃を与えず
線を切っていたんだ

間違ったコードを切ってしまって
時間が早巻きになってしまっても
司令塔のジェントルが
慌てず解除に向かった



そして下車＝解除だったんだ




俺はとんでもないエリート班のプロフェッショナルな仕事を見た気がした










俺も処理班に任命される時があれば
率先して非難を呼びかけ
慌てず線を切り爆弾を処理したい


そして
もし万が一
億が一
兆が一

爆弾になってしまっても


路線ジャックだけはしないと心に誓った




みんなありがとう



またどこかで