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ॱ॰*❅HAPPY NEW YEAR❅*॰ॱ②【チョコレートリリー寮の少年たち】改稿

「あんこ玉屋さんがあるな。その隣はチュロスの屋台だそうだ」
「わあ、うれしいな、ぜひ立ち寄りましょう」
「じゃあここにも印をつけて……」
「プレッツェル屋さんはありますか」
僕が問うと、驚きの声がそこかしこから上がる。
「どうした、エーリク。やけにたくさん食べたい物があるんだな、珍しい。めでたい」
「だって、元旦ですから」
「理由になってないぞ」
「……実は、先日の身体測定で三キロ体重が落ちてしまって、たくさんたべるように医療局の人から通達がありました」
「そういう事情ならよけいに食べさせなきゃいけないな」
「プレッツェル、鳳が、小さい頃からおやつによく作ってくれて、僕にとっては懐かしいお菓子なんです」
「なるほどね、今度俺らもご相伴にあずかりたいものだ。鳳さんにくれぐれもよろしく伝えてくれ」
「はい!レシャとファルリテも混ざって楽しく作ると思います。お父様は邪魔をすると思うんですけど……鳳が落とす雷にもめげずに」
「ぼくもプレッツェルだいすきです。兄弟たちのために、ミケシュたちといっぱい、作った思い出があります」
「ロロが可愛い」
「いつもの事だけど」
「えっ、ただプレッツェルをつくったという、おはなしですよ?」
「かわいい!」
リヒトがぎゅうっとロロを捕まえて抱きしめた。
「かわいいねえ」
サミュエル先輩が微笑をうかべ、二人の頭をそっと撫でている。
「さあ、じゃあ出かけようか。みんな、エーリクが編んでくれたマフラーとか、しっかり身につけて」
街は大盛況で、僕らは万が一はぐれても大丈夫なように追尾の魔法を掛け合いながら、ノエル先輩を先頭に一列になって行進した。横に広がると邪魔になってしまう。本当はそうしてはしゃぎたいけど、式典用ローブは目立つので、学院に告げ口されないよう、極めて行儀よく歩いた。
「それじゃ、ワッフル食べよう……ここだな、すごくいい香り」
「うれしいな!」
「ひとつ、ください!あ、ハニーマスタードトッピング、サービスしてくれるんだ。絶対美味しい、挟んでくださいますか?」
僕たちは、やいやいと声を上げて一個ずつワッフルを買った。パラフィン紙にくるまれているワッフルを受け取って、人出のやや少ない場所に目をつけ、集まってワッフルを食べた。
「これは、美味しいな……困るくらい美味しい。この甘いワッフル、ちょっと優しく焦げ目が付いていて……ソーセージも香草が効いてて言うことなし。すごいな、スピカ、こんなお店を見つけてくるなんて」
「いえいえ、前からみんなでと思っていて、たまたま新区画に出店をするとのことでしたから、運ですね」
「素直に褒められること」
「はーい」
「んっんっ」
「ロロ、大丈夫?」
「んっ」
「水筒にヴィス水を入れてきてよかった。ロロ、飲んで」
サミュエル先輩がそっと水筒を渡してくださった。
水筒を受け取ったロロが両手で水筒を持って、ヴィス水を飲んでいる。ちょっとむせてしまった様子を見て、僕はロロの背中を叩いた。
「はあ、助かりました。サミュエル先輩、エーリク、ありがとうございます」
「勢いよく食べちゃったからかな、よしよし、もう何ともないか?」
新春からスピカのお兄さんっぷりが炸裂している。
「ぼく、何だかスピカのことを尊敬しはじめたよ。もちろん大切な友達で、いなくちゃこまる仲間。だけど、綺麗だし、背だってこんなに高くて、丸眼鏡がこの世で一番似合う。世話を焼いてくれてとてもあったかい。スピカと一緒にいると、むねがぽかぽかする」
「わかります、わかります、そのとおりです」
悠璃先輩がリヒトの手をぎゅっと握りしめている。
「こんどスピカ君を称える歌を作ろうって、よろめき隊!のギター弾きが言っているんです。ただいま歌詞を絶賛大募集中です」
「なんでこんなに好かれているのだろう」
「そういう、飾らないところです」
熱っぽく語る悠璃先輩の紺碧の髪をわしっと掴んで、ノエル先輩がぐしゃぐしゃにした。
「こら!その話は後で!!次はどこへ行く?」
「みんなはどこに行きたい?」
サミュエル先輩が長身をおって、僕たちに微笑みかけている。サミュエル先輩も嫋やかな物腰の優しい方だ。プラチナブランドの髪をマッシュルームカットにしているのだけど、それがまたすごくよく似合っていてすてきだ。
「やきたてのおせんべい食べてみたい」
「ねー」
「おいしいよ、間違いない。ね、立夏」
「うん!僕もおすすめするよ、おせんべい」
立夏が僕の隣へやってきて、そっと手を繋いできた。
「じゃあ、移動するよ。手を繋いで俺についてきて。はしゃいでもいいけど広がるなよ。あと雪は、踏み固められたところは歩かないようにな。滑るから」
「はーい」
「本当に、すごく賑やかだなあ」
あちこちから飛んでくる銀テープやクラッカーのきらきらひかる粒子を振り払いながらリュリュが楽しげに微笑んでいる。そのうしろにロロと蘭が続く。
「天使長、おせんべいを食べるのははじめて?」
「うん、元旦に新しいことに触れられるってすてきだ。どんなものなの?」
「うーんとね、ぱりぱりしてるお醤油味のまあるいおかし」
「結構塩辛い」
疑問符で頭がいっぱいになる。
「クッキーみたいなものを想像していた」
「ちょっと違うかな。とにかく行ってみて食べるといいよ。鳳さんが喜ぶんじゃないかなっておもう」
そんな感じで、人を避けながらゆっくり歩いていたら、ビュッフェの予約時間になってしまった。いそいで、かなり豪華絢爛なホテルにたどりついた。
僕らは揃って、茫然とホテルを見上げた。
「すごーい。ここ予約したのノエルだよね。入口からもうお菓子が見えるよ、綺麗!」
「プレッツェルとかあんず飴屋さんに寄る時間がなかったな、後でお土産にしよう」
「とにかく、いきましょう!ぼくはおなかがすきすぎていて、このホテル潰すかもしれません」
「お、リヒトが臨戦態勢だ」
「僕は、ムースが食べたいです。あの緑色の……メロンかな。層になってて綺麗だね」
ノエル先輩が僕らの背中を押して、どんどんホテルに入れていく。
「先、食べてて。俺、予約してたものですってカウンターに行ってくる」
「よろしいの、でしょうか」
「先輩らしいところ、新年から見せておかないとな。スピカ、みんなを頼んだ」
「ええっ、僕たちの方が一応先輩なのに!」
「そうだよ!!酷い!」
「スピカは特別なんだよ」
「お任せ下さい」
スピカが華麗にお辞儀をし、後ろに向かってウインクをとばしたところで、何かが倒れる音がした。

「大丈夫ですか、悠璃先輩」
「あああああれは反則です美しいとかそういう次元の問題ではない……」
席についてぷるぷるとふるえている悠璃先輩を、皆心配そうにながめている。
「まあとりあえずレモン水をどうぞ」
スピカが洋杯のうえでぱちんと指を鳴らした。小さな星々か旋回し始める。
「サービスです。お飲みになってください」
「あばばばば」
悠璃先輩はますますだめになってしまった。そこへノエル先輩がやってきて、スピカをかるくこずいた。
「こら、やりすぎるなって言っただろう」
「だって悠璃先輩、可愛らしい反応をするからつい」
「まあ、いい関係なんじゃないでしょうか。さあ、どっさり食べましょう」
僕が言うと同時に、みな呼吸を合わせたように一斉に立ち上がった。
「わあ、まあるくてちっちゃいお菓子がある」
「リヒト、それはマカロン」
「へえ、こっちの四角いのは」
「ギモーヴだよ」
「これは……お花の、かわいい」
「あ、練り切りまであるんだ!!」
「エーリク、知っているの?」
僕は頷いて、小さな箱に入ったピンク色の、花を模したお菓子を一つ手に取りよくよく観察した。
「……鳳が支度したものと遜色ないな……」
「鳳さんがつくっていたのですか?」
ロロが僕のローブの袖をひいた。
「ううん、茶道、ってしってる?」
「しらないです」
「お茶を点てる……うーん、あれはどう説明したらいいんだろう。東の国の流儀、文化のひとつさ、それを鳳にしこまれたときに、出してくれたなあって思い出したの」
「茶道なら僕、少し心得あるよ」
立夏がよってきて、練り切りをいくつかトレイに乗せた。
「エーリクも知ってるんだね、あの黙ってなきゃいけない空気、ちょっとわらいそうになるよね」
「ふふ、わかるよ……今度邸宅に招待する時に、鳳に席を設けてもらおうか、とにかく、おいしいけどつらい。じっとしてなきゃいけないから、リヒトなんかはかなりきつい思いをするとおもうよ」
「ぼくがなんだってー」
「なんでもないなんでもない」
「あっ、たいへんです、あちらにいちごのミルフィーユが!エーリク、行きましょう」
「こっちにはヴィオラの砂糖漬けのロールケーキ!」
「まってまって、順番!!君たち、それぞれおおめにとってきてシェアするのがいいよ」
「……まあ、たしかに」
「でもエーリクといきたかったんだもん」
「取るのも楽しいもんね」
僕が微笑みかけると、ますますぐいぐいひっぱられる。
「静粛に」
そう言って、スピカが両脇にロロとリュリュを抱えて席へ戻って行った。なにやら説教をしているようだ。ごめんなさいもうしませんという声が聞こえる。
「えへへ、これでエーリク独り占めだ。一緒に回って歩こう」
立夏がそっと手のひらに触れてきた。きゅっと握り返してくる。
「マスクメロンのムース欲しい人ー」
リヒトが呼びかけると、全員が手を上げる。
「とりあえず、1つずつにしよう。ほかのお客さんの迷惑になるかもしれないし」
「リヒトもしっかりしてきたな!」
ノエル先輩にほめられて、とてもうれしそうにふわりと飛んで羽根のようにそっと席につき、配膳をはじめる。この一年でめざましい成長を見せたのは、リヒトであることを誰もが認めることだろう。
「立夏、なにかお目当てのものはある?」
「うーん、エルダーフラワージャムのパウンドケーキかなあ、これこれ……でも、それより、」
立夏が桃色に頬を染めて、そっと耳打ちしてきた。
「ピンキーリング、今日もつけてきてくれたの、僕知ってるよ」
「だってこれは宝物だもの」
「昨日なかなか寝付けないんだって、指輪に話しかけてくれたよね」
「うん!なんだか照れちゃうな」
朝になって留守番電話をきいたきもちになった、と立夏がいうので、これからも眠れない夜はピンキーリングの力を借りるよ、と笑った。
「お二人さん!仲のいいことは大変よろしい。だけどそろそろ戻っておいで」
サミュエル先輩に冷やかされ、僕は真っ赤になりながら立夏をエスコートし、席に着いた。
「さて、全員揃ったところで、せーの!」
「いただきます!!!!」
唱和していっせいに愛おしいスイーツを貪り出した。
「しあわせ」
「あちらにドリンクバーもありますよ」
「本当だ、でも今は混んでいるから少しレモン水で我慢しよう。後で俺と……そうだな、立夏、一緒にドリンク取りに行こうか」
「僕は放置なの?」
「後で思いっきり構ってやるから」
「本当かなあ」
そう言ってサミュエル先輩が、ふにっとノエル先輩のほっぺたを摘んだ。
僕はなんだか複雑な気持ちになった。なんだろう、このざわざわする不思議な感情は、生まれて初めて抱いたものだ。立夏は、ずっとノエル先輩のことを慕っていた。でも、僕に特別にピンキーリングを作ってくれたり、した。嫉妬?どくんと胸が疼いた。もしかして、僕、やきもちを妬いている……?
「僕もお手伝いします!」
思わず挙手した。ノエル先輩がハイタッチをしてくる。ぱちん、と星屑が散った。
「おー、エーリク!!人数は多い方が助かるし、ありがとうな!」
軽く牽制してみたつもりだったけど、ノエル先輩は気にもとめない、これが先輩の余裕なのだろうか。翻弄されているようで、内心とても悔しかった。でもせっかくのお出かけに水をさすような真似はしたくない。僕はにこっとわらって隣の席の立夏の肩に、重力を操り静かに体を預けた。今のところ僕にできることはこのくらいだ。
「立夏、」
「どうしたの、エーリク」
「このピスタチオのマカロン、とっても美味しいからおひとつどうぞ」
「ありがとう!嬉しい!」
「ほんとうに、なかよしで、ふたりとも、かわいいです」
ロロがほろほろとほっぺたを緩ませたかと思うと、小さな筒状の容器に入っていたマスクメロンのムースを銀匙ですくい一口で食べた。
「おいしい!しあわせです」
「僕たちもいただこうか」
「うん!」
深い紫色の髪を揺らめかせて、テーブルの下で繋いでいた手を優しくきゅ、と、握ってくる。立夏はノエル先輩が大好きだったはずだ。春の学院祭の時にファンだと握手を求めていた。ますます、ひとのこころというのはよくわからない。
「うわ!ムース、ふわふわだけどなめらかで本当に美味しい!!ノエル先輩、これ、作れますか?」
「無理無理、かなうわけないじゃないか。ここで沢山食べていこうぜ」
「今度ノエル先輩には、ショコラのムースを作って頂きたいなあ」
そんなことを言いながら、スピカが真っ直ぐに背をただし、ひらりひらりとシルバーを操っている。その真向かいで悠璃先輩が、じっとスピカをみつめている。
「……あの……スピカ君、そのシュシュはどこでどなたが作ったものですか?公式グッズにしたいです」
「えっ、これはおれが適当に作ったものですよ」
「で、では、あの、ぼくがつくるので、どうか公式に認めていただけたら……お願いいたします」
「大袈裟です。でも、まあ、闇取引や暴動がおきぬように。それを約束してくださるならいいですよ、……召喚」
机上を杖でとんとん二回タップする。するとふわりと毛糸玉がふたつ、あらわれた。
「後で編み方をお教えします」
「ありがとうございます、ああ、尊い……どうか祈らせてください」
「早くムースを食べろよ」
ノエル先輩が苦笑しながら悠璃先輩の肩を叩いた。
そこで店員さんが大きなテーブルに新しいたくさんの糧をならべていく。美しく整えられた机上の横で、ハンドベルを鳴らした。
「わーい!パスタが来た!!バジルのいい香り!!ぼくバジルパスタが大好物なんだ。沢山持ってくるからみんなで食べよう」
「よし、じゃあエーリクと立夏は俺と一緒に。なにかドリンクを手に入れてこようか」
立夏が僕の腕に手を絡めて立ち上がった。ノエル先輩がサミュエル先輩に俺がいない間はあれやこれやと注意事項を伝えている。
「ふふ、エーリクとお給仕出来て嬉しいな」
「僕もだよ、何があるんだろう。ポットが10個くらい並んでいるね。ロイヤルミルクティーは……なさそう。まあ、いいや、」
「待たせたな、行こうか」
「はーい!!」
ノエル先輩の逞しい背中を追う。トレイがあったので三枚手に入れた。
「わあ、かわいい。オレンジの輪切りが、オレンジジュースの中にはいってる!」
「レモネエドもあるな」
「重たくてたくさんは持てないかもしれない」
僕が弱音を吐くとノエル先輩がそっと体を引き寄せてきた。
「まあ、俺に任せて。ちょっとこれは反則なんだけど、何しろ大勢で来てるからなあ」
杖を取りだし、洋杯に魔法をかけている。
「重力操ってる。天使たちが得意だよな、この魔法。でもふわふわ浮いてなかなか戻ってこなくなりそうだったから立夏に声をかけたって訳。エーリクも着いてきてくれて本当に助かった。ありがとう」
「いえいえ!さあ、どんどん注ぎましょう」
そんなわけでトレイいっぱいにジュースやお茶を乗せて、席に戻った。喝采が上がる。
「今年はセルジュがいないからなあ、」
「セルジュ先輩がいらっしゃったら、とても助かるのですが、ちからをセーブしていただかないと本当にビュッフェ荒らしになります」
「それこそ、学院に苦情が行きかねない」
「それは困る」
「右に同じく」
「ああ、パウンドケーキ本当に美味しい。みんな、食べて」
「沢山持ってきてくださったのですね、ありがとうございます、立夏」
そうやっておはなししていたら、あっという間にビュッフェ終了の伝票をわたされてしまった。
「来年からは、もう少し長いコースにしましょう」
「そうだね、ノエル、たのんだよ」
「スピカ君の美しいシュシュをみつめていたら、あっという間だった」
「このあとあんず飴とかプレッツェルとかスプリングロールとか、まだたべるんだろ?行こうか」
僕たちは連れ立ってホテルから飛び出した。リヒトがくるくると舞い踊っている。すかさずノエル先輩が捕まえておしりをぱんぱんたたいた。
「騒がない!」
「はあい」
みんなで相談した結果、次はスプリングロールの屋台に立ち寄ることになった。一度に沢山買いしめると、いっぽんずつおまけしてもらってしまった。
「んー!!美味しい。このぱりぱりの揚げたてのところへ、オーロラソースをつけて食べるの最高。ファルリテさんの創作料理だったよね」
「うん!合うんだよね。ロロ、ゆっくり食べるんだよ」
「ねえ、エーリク。生のももうすこし買ってこない?」
「いいね!沢山よそっちゃえ」
僕は立夏とつれだって、どっさりと生春巻きを手に入れ、スイートチリソースの瓶をひとつ拝借した。
「キューカンバーが入っているけど、平気?」
「うん、こういう細く切ってあるのは大好物」
「エーリクもなかなかわがまま」
「な、なんか恥ずかしいからそれ以上は言わないで」
「かわいい!エーリク!」
たくさんたべようね、と微笑みを返されて、僕はどぎまぎとしてしまった。
「これ、揚げたてでぱりぱり。エーリク、あーん」
「愛し合ってるなあ」
ノエル先輩も生春巻きをすごい勢いでたべながら、天を仰いだ。
「おいしい。味コピーしよっと」
「作り方、悠璃先輩と蘭と立夏、ぼくもつくりかたしっていますので、今度109室で作りましょうか」
「楽しそうすぎる。ぜひレクチャーをお願いしたい。な、サミュエル、」
「ぜひぜひだよー!!」
変化球のものでこれもファルリテの創作料理なのですが、と前置きして、チーズと海老と、海苔を包んであげる春巻きのことを教えた。握りこぶしを軽くぶつけて、悠璃先輩が是非作り方を!と声を上げた。未知のものに対する、どんな物だろうね!と、おどろきのためいきがあちらこちらからもれる。
食べ歩きをしながら、夕方になるまで僕達はニューイヤーマーケットをぐるぐる回って遊んだ。発光する石が入っているヨーヨーをロロが上手にたくさん釣りあげたりして、みんなにくばって歩く。ロロは、とてもヨーヨー釣りが上手だ。
「昼間は暖かったけど、日が落ちると寒くなるね」
「あっためて!」
リヒトが僕の隣へやってきて、毛玉ひとつもない大事に使ってくれている手袋ごしにぬくもりをあずけてくる。
「ぼくも!」
立夏もミトンできゅっと手を繋いできた。
「天使長、大人気ですね。あとでぼくともてをつないでください」
「うん!僕でよかったら」
「エーリクはなんというか、愛されているよな」
「ほんとうにありがたい事です」
天使たちがぱたぱたとびまわり、僕の背中にしがみついたり、肩に乗ったりしている。
この区画は年末に完成したもので、目新しいものでいっぱいだ。
「あ!!あんこ玉のお店だ!!」
「あんこ玉、大好き!隣におせんべい屋さんがある!いい香りがしますね」
「あんこ玉、一口で食べちゃうけど、つるんとしてて美味しいよね」
「そうなんですか?悠璃先輩」
「は、ひゃ、ぅあ、あぁあ、は、はい、その、おいしい、です。僕は、抹茶のもの、を、おすすめします、スピカ君、きっと、お好きなんじゃないかって、えっと、たぶん、なんですが……」
スピカと手を繋いで真っ赤に頬を染めていた悠璃先輩が話を振られ、ふらふらしだした。
「しっかり」
「ふぇいうぁあ」
背中を支えられ、ますますよく分からない声を上げ出した悠璃先輩が、ぎゅっとスピカの腕を掴んだ。
「歩けますか?」
「大丈夫、です、ごめんなさい、僕、すっかりあがってしまって、恥ずかしい」
「可愛くていいじゃないですか、おれの前で、素をみせてくださってるってことですよね?それならますます可愛らしい方です。悠璃先輩。今年も、来年もずっとずっと、末長くよろしくお願い致します」
「こち、あぁ、こちらこそ、よろしくお願いします……」
「いろんなところで愛が生まれているなあ。俺もみんなにあやかりたいところだ」
「僕のことはスルー?酷いなあ」
「はいはい、サミュエル、すねないの」
「ちゃんとわかっているよね?」
「勿論さ、もだもださせたおわびに、そうだなあ、なにかプレゼントするよ、何がいい?」
「とびきり高いものをおねだりしちゃうから覚悟してね」
先輩方もなかなか、色んな事情がありそうだ。だけど深く詮索するのはやめてまずはおせんべい屋さんに立ち寄った。とても香りだかい醤油をさっとはけでぬってかるくあぶったものを懐紙に挟んで手渡してくる。僕は魔法のバングルで支払いを済ませて、まず隣の立夏に手渡した。
「ご馳走するよ。ハッピーニューイヤー」
「わあ、いいの?それならぼく、あんこ玉ご馳走する!ありがとう!!」
「こちらこそ、気を遣わせてしまったかな……ぼくはいまいち、こういうことに慣れていない」
「……そういうところが、大好きなんだよ」
「えっ」
「みんなと合流して、一緒に食べようか」
「う、うん!」
立夏に手を引かれて隅っこに固まっていたみんなと合流する。
「お待たせしました」
「あとは悠璃とスピカだけど、大丈夫かな、あの二人」
「なんとかなるでしょ、おーい!ふたりともこっちこっち!!」
サミュエル先輩が大きく手を振って合図を送っている。
「わあ、ごめんね皆さん、おまたせしました」
「おれがザラメのものを頼んでいたので少し遅くなりました。ごめんなさい」
「いいよいいよ、とにかく熱いうちに食べよう、せーの!」
「いただきます!」
「おいしい!」
リヒトが真っ先に声を上げる。
「ぱりぱり!香ばしい!これはお茶が欲しくなるなあ」
ノエル先輩が二口でおせんべいを食べ終わるとあんこ玉のお店を眺めている。
「あれは絶対美味しいやつだろ」
「あんこ玉は最高の和菓子です」
「色んなフレーバーのものがありますよ」
僕はおせんべいを一口齧って思わす空を仰いだ。
「すごくおいしい。立夏や蘭、そして悠璃先輩はこのようなものを食べて育ったのか……」
「おせんべいはね、本当に色々なものがあるんだけど、ぼくはえびせんと、かき餅がすきだよ」
「それならば鳳に頼んで取り寄せてもらおう。おれいにこちらのおせんべいと、あんこ玉を邸宅におくろうかな」
「じゃあ、エーリクがおせんべいを送っている間、俺たちはあんこ玉を選ぼうか」
「ぼくはエーリクといっしょにいきます」
「独りだと色々物騒だしな、エーリクをよろしく頼むよ、立夏」
「はい!おまかせください!行こう、エーリク。 ふたりで転送すれば、その分早くみんなと合流できるよ……それに、なかなか二人きりになれること、ないもの……みて、ぼくもきみとおそろいのピンキーリングを作ったんだよ、リヒトはいち早く気づいていたようだけど、だまっていてくれてる」
「わあ、うれしいな!ペアリングだ!僕、このリング、本当に大切にしているよ、ありがとう!」
再び、立夏とおせんべい屋さんの店頭に戻った。売り子さんにおねがいして大量に入っている箱をもってきていただいた。これなら充分だと思ったので決済をして、箱の上に手をかざした。ぱちん、と星屑が舞い散って一瞬で転送が完了した。
「すごーい!エーリク!ますます力をつけてきたね。もう飛行術も全く問題ないし、君、とんでもない大魔法使いになるかもしれないよ。それこそ、王宮お抱えの……」
「そんな大魔法使いになったら、立夏のそばにいられなくなるから、嫌だ」
「ふふ、そっか。同じことを思ってた、良かった。じゃあ次はあんこ玉見繕ってみない?一個ずつ売ってくださるはずだから、ぼくらもいくつかたべよう」
「エーリク!立夏!」
「お待たせしました!あんこ玉、召し上がっていますか?」
「これ、俺の大好物になっちゃった。抹茶のが美味しい、さっきから十個くらいたべてる。あといちご」
「邸宅に沢山届けよう。そうしたら、えびせんとかき餅だっけ、三倍返しでかえってくるよ」
「じゃあみんなで割り勘しない?ぼくはもうおせんべいとあんこ玉の虜だよ」
「300Sずつ割り勘したら充分だと思います」
「じゃあ、この桐箱入りのにしようか。ことしもたくさんミルヒシュトラーセ家にはお世話になるだろうし、ちょっと立派なのにしようぜ」
「これは、鳳が内心飛び跳ねながら喜ぶだろうなあ……」
「泣くかも」
「さて、じゃあここは俺が払っておく」
「ありがとうございます!」
「立夏、おいで。綺麗だね。ちっちゃくてきらきらしてる」
「ゼラチンでコーティングされているんだよ」
「立夏は物知りだね!そうなんだ、じゃあぼくはノエル先輩と悠璃先輩おすすめの抹茶のをふたつ……プレッツェルとあんず飴とチュロスが入っていく余地をのこしておかなくちゃいけないから、ふたつでやめておくよ。きみはどうする?」
「ぼくもそうしようかな、ノエル先輩方のお墨付きだもの、抹茶、絶対に間違いない」
四角い容器にころんとしたあんこ玉を乗せてもらった。
「立派な黒文字!ありがとうございます!」
「黒文字?あ、わあ、ありがとうございます!!」
「うん、こういうお菓子にそえられてる楊枝、黒文字ってよばれてるんだ」
僕はあおいひとみをぱちぱちまたたかせた。
「立夏は本当になんでも知ってるね」
「天鵞絨夜天に浮かぶ星々のことや鉱物についての知識、そして薬草学の成績……エーリクにはどうやってもかなわないさ、はい、あーん」
隅っこの方で食べさせ合いっこをした。リヒトがちらりとこちらを見て微笑んだ。そして天使たちの世話をしだす。リヒトも本当に、とてもとてもお兄さんになった。
「もう、リュリュ!モノクルしっかりかけて。いくらあんこ玉が美味しいからってだらしないのはだめ!」
「わああ、ごめんなさい」
「君のチャームポイントなんだからさ」
「そ、そう?」
「それにしても、エーリクと立夏は本当に可愛い、です!」
「天使に褒められちゃった」
「ちょっと照れちゃうね」
そんな会話をしていたら、ノエル先輩が僕らを集合させた。
「じゃあここからは、六時の鐘が鳴るまで自由行動。ただ、いけないことはしないこと。学院に報告されたりしたらこまるだろ?各々、よく考えて遊ぶんだぞ。ここの時計塔、待ち合わせ。じゃあいくか、サミュエル!」
「はーい!」
「悠璃先輩、りんご飴でも食べませんか、ぜひご一緒に」
「あわわわわわ」
「リヒト、リュリュ、蘭。きんぎょごっこしながら美味しいものを探しましょう」
「気を遣わせてしまっていたら申し訳ないなあ、ぼくもきんぎょごっこ、するよ!ついていってもいい?」
「もちろん!」
あちこちがまるくおさまってしまったので、立夏と顔を見合わせて笑った。
「プレッツェル、バターと砂糖がぬられてるやつがいいな、あるかなあ?」
「定番メニューだから、あると思うよ。たのしみだね!」
「はんぶんこ、しない?」
「うん!いいよ!」
「みんなの分も買おうね」
立夏が指を絡めてくる。ぼくはほほえんで、そのいとおしいてのひらをきゅっとにぎりかえした。

六時の鐘がなる。あっという間の時間だった。皆、お土産を、という気持ちが同じで僕は笑ってしまった。みんな、おもたそうにショッパーをぶら下げている。
「僕たち、プレッツェルを買ってきたよ!!みんなで食べましょう!」
「ぼくたちは去年と同じくチョコレートのたたき売り、すごい量だよ、どんどん積み上げていくんだもの。受け取ってやってね」
「俺たちからは紅白揚げまんじゅう。邸宅にも送って差し上げて、」
「わあ、お気遣いありがとうございます」
「ぼ、僕、とんでもないものをスピカ君に頂いてしまいました。フローライトの指輪です」
「いえいえ、みんなにはこれを。友情の証です。とんぼ玉のペンダントを」
「わあ、きれい!!ありがとう、スピカ」
「一個一個色合いが違うので、後で部屋で観察して譲り合いましょう。もちろん邸宅の皆様の分も、手に入れてきたから、エーリク、選んであげてね」
「ああ、もう元旦、最高!クリスマスも楽しいけど、ばたばたした後に一変する粛々とした空気、 ぼく、だいすきだなあ」
「リヒトのスピード感について行ける人、なかなかいないと思うけどね」
リュリュが言って高らかに笑った。つられて僕たちも笑い声を上げた。
今年も楽しい1年になりそうだ!
僕の今年の目標、仲間をもっともっと大切にする。ダイアモンドのようにきらめく仲間たちを心の底から愛そう。そして、立夏。立夏を全力で守るのが僕の使命だ。17年間生きてきて、ようやく出逢えた星あかり。愛しもう、僕は胸に固くそう誓った。
「一番星がとても綺麗、みて、エーリク……約束、覚えてる?今晩0時に、天文台で待ち合わせだよ、天体議会を開こう。誰にもばれないように、こっそりおいでよ」
頬を寄せて囁いてくる。僕はしっかり頷いて、立夏の髪を優しく梳ってほほえんだ。
パウダースノーが舞い降りる中、僕たちはチョコレートリリー寮へと帰還した。僕はみんなを109号室にさそい、聞香杯パーティーを開こうと提案した。あちらこちらからやった!と嬉しそうな声が上がる。最高においしいお茶をいれることにしようと、おへそのあたりにぐっとちからをいれた。
あらためて、ハッピーニューイヤー!!

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