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アストロフィライト寮の学食【チョコレートリリー寮の少年たち】

今日は皆と連れ立って、アストロフィライト寮の学食に行くことになっている。かつて、立夏と蘭が所属していた寮で、食事は酷い味らしい。だけどそのかわり、ずらりといろいろなフレーバーのドリンクが並ぶとのことだ。ノエル先輩がそれはそれは楽しみになさっていて、ふたりが憂鬱だと言っていたひよこ豆とレンズ豆のスウプや、ほうれん草のカレーごときなんてたいしたことないと笑っている。
「本当に、美味しくないんです」
「なんでもおいしくいただく俺でもアウトだとおもう?」
「うーん……ノエル先輩はぎりぎりいけるかも……」
ロロが僕のローブの袖を掴んで、涙目で見上げてくる。
「いやです……」
ロロは好き嫌いなくなんでも喜んで食べるけど、ほうれん草だけは大の苦手だ。
「よしよし、本当に美味しくなかったら、申し訳ないけどスープやカレーにごめんなさいしよう。そのかわり、色んな飲み物があるのは楽しみじゃない?あと、プティ・フール」
「はい!確かにそれは美味しそう」
「アストロフィライト寮はドリンクとスイーツにものすごく力を入れてるんです。今日のメインディッシュはなんだろう。僕らは転寮してしまったから分からない」
「ねー」
「まあ、それもまた楽しいとおもうな、どきどきしない?」
サミュエル先輩がロロと蘭と手を繋いだ。そのタイミングで、悠璃先輩が切り出した。
「あの、スピカ君、ぼ、僕と手を、その、つなぎませんか」
「いいですよ!はい、左手を拝借」
そこでわっと声が上がる。
「勇気出したじゃん!凄いよ、悠璃」
「……7cm差で、僕の方が背が高いんですよ。スピカ君、ありがとうございます」
「どこからそんな情報が漏洩したんだ……」
「よろめき隊!の人たち、凄いなあ……ああ、搾りたてのオレンジジュースとか、クラッシュアイスとか、あれやこれや、楽しみすぎる」
リヒトは限りなく楽天的だ。
「カレーだってきっとまともになってるよ」
「そうだといいなあ」
ふわふわといいかおりがただよってくる。立夏と蘭がガッツポーズをした。
「ラッキー!今日はなんだかわからないけど美味しいやつです!アストロフィライト寮ではめったに出ないご馳走ですよ!」
アストロフィライト寮も全然悪くないじゃないかと思っていると、食堂がからがらと開いた。
「わあ、いいかおり!わあ、これはもしかしてもしかしなくてもミートソーススパゲティですね?!食堂潰す勢いで食べまくるけどいいのかなぁ。付け合せはなんだろう、ああっ!!ブロッコリーと、カッテージチーズのサラダ!!あと、キャラメリゼプリンとプティ・フール!!うわあ!!」
リヒトがばたばたとあちらこちらを忙しなく走り回る。
「静粛に」
スピカに抱き抱えられてリヒトがぶすっとした。
「だって、美味しそうなんだもの」
「たしかにな、でも、静かに。埃が舞う」
「はあい。とりあえず、パスタを……あれ?あれパスタじゃない……?美味しそうだけど」
「今日は、やや当たりです!!あれは、ソフト麺という、謎の食べ物です。パスタのようなうどんのような、その中間の、なんとも言えない麺です。どうぞ皆さん、沢山召し上がれ。忌々しいスウプも好き勝手に飲んでも良い日です。誰も飲みませんけど」
「それなら俺は飲んでみようかな」
「止めておけよ、」
「すべらない話になるだろう、英雄譚だ」
「きみは悪食というかなんというか……先日は変な色のきのことタガメと蛙のフライをたべていたし……止める僕の身にもなってくれ」
「ちょっとだけ、味見だよ」
ノエル先輩が長テーブルの方へ行ってしまったので、そのあたりがきらきらと瞬きだした。
「わあ、すごい、あの辺りのテーブル、全部使っていいんだ。じゃあぼくは飲み物のオーダーをとって運ぼうかな」
「リヒト、よかったら協力してやる?」
「わあ、セルジュ先輩!是非一緒に」
このふたりも、最近仲睦まじい。
全員で席に着いて、いただきます、をする。
「このソフト麺っていうの、俺は好きだなあ。パスタの麺とまた違った趣きがあって」
レモネエドを一息で飲みほしてノエル先輩が仰る。
「確かに、わかる。これはこれであり」
「お、美味しいですね、スピカ君」
「はい!悠璃先輩、もう少しお召し上がりになりませんか?」
「あわわわわ……その、ではすこし……」
「ひよこ豆とレンズ豆のスープ、悪くないぞ。誰が悪評をばらまいたんだ。まあ、おかわりはいらないかんじだけど」
「先輩方、プティ・フールをどうぞ。僕らはこっちの、手前のを食べようね」
「かわいい!これ、緑のマカロン……アラザンが散らしてあるんだね。ピスタチオかな」
「多分。立夏、どうぞ」
「わあ!嬉しい!エーリク、大好きだよ」
「うん、僕も君が喜んでくれて嬉しい」
たどたどしく言うと、やるなあ!とノエル先輩が口笛を吹いた。
「エーリク独り占め、ずるい!」
「僕らのエーリクが!!」
「や、やめて、照れちゃう」
立夏が微笑みながらテーブルの下できゅっと手を握ってくる。ますます僕はのぼせあがり、どうしたらいいのか分からなくなってきてしまった。
「まあ、その辺にしてあげてください。ぼくのダーリンは些かあがり症なのです 」
「うっ……」
リードされっぱなしでなんだか情けなくて仕方がない。仕方がないので、ピンク色のおそらくフランボワーズのマカロンを立夏の口元に持っていった。大人しくもぐもぐと食べている。
「エーリクが食べさせてくれたからかな、とっても美味しいよ、えへへ……」
そのすなおさにどきどきさせられっぱなしなんだけど、と、今晩指輪に囁いてみようと思った。
僕はサラダやジュースを主に食べたり飲んだりした。ソフト麺はおいしいけど、結構ボリュームがあったからひと袋だけ食べて、砂糖菓子とからかわれながらプティ・フールを結構食べてしまった。ぼくのぶん、あげるね、と、ささやかな音をたててショコラをお皿に置いて、さらりと濃紫の髪を揺らし笑んだ立夏がどこまでも眩しかった。

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